第34話 Hiddenite

 半年が過ぎた…。

 2人は日本へ戻り、地方へ移り住み、正式に籍をいれた。

 互いの家族とは距離を置き、裕福とは言えないが…困窮するほどでもない…そんな生活を送っている。

 小さな田舎町で、ほんの少しだけ知り合いが出来て、その繋がりは少しずつ広がっていく…。

『個』を重んじ、執着していた頃とは大分、環境が変わった。

 以前の2人は他人との深い接触を避けて生きてきたのだから…。

 気まぐれで助けた…タケルが水晶みあを…水晶みあがタケルを…。

 そして繋がった。

 ごく自然な…ことなのかもしれない…でも…それは奇跡のような確率。

 出会いとは、そんな程度なことで…起こりえないことでもある。

 そこから結ばれるなど…。

 水所

 水晶みあの料理も、まぁなんとか食べられるくらいには上達した。

 作る度に

「美味しい?」

 と聞いてくるのだ…味見はしない…タケルの感想を聞いてから自分も食べる。

 味覚がデタラメなのか…本人は、よほどのものでないかぎりは食べる。

「これも食べる?」

 食堂で、ラーメンを食べてる途中でポケットからチョコを取り出したりする。

「あぁ…あとで…」

 タケルも最初は冗談かと思っていたが、水晶みあは真面目に聞いていたのだ。

 本人は躊躇なく食べるのだから。

 何を食べていても、途中で甘いものを食べる。

 寿司とアイスとか…食い合わせは気にしない。

 食べれもしないのに、天ざるを頼んで

「エビ嫌い…この葉っぱ(シソの葉)食べたくない…しいたけ嫌い…ナス嫌い…」

「えっ…天ぷら、食べれるの無いじゃん…」

「うん…そうだったみたい…タケル、食べていいわよ…」

(なんで頼んだんだろう…)


 たまの外食も、そんな感じで…何気ない日常を繰り返し、時が過ぎていく…。

(無限の刻など必要ない…思い出を振り返ることもできない…止まった刻に生きる意味なんてない…)

 タケルは水晶みあの笑顔を見る度にそう思う。


(永遠を約束された命など…生きているといえるのだろうか…タケルと永遠を生きるより、今日を大事に過ごしたい…限られた時間だからこそ、今を大切に…タケルとの時間が貴重に思える…)

 水晶みあはタケルの寝顔を見つめてそう思う。


「タケル…」

「ん?」

「話があるの…」

「なに?」

「あのね…喜んでくれる?」

「まだ…聞いてないよ…何があったんだ?」

「ふふふ・・・あのね…じつはね…」

「あぁ…勿体付けるなよ水晶みあ

「タケル…わたし…妊娠したのよ…子供がいるのよ…私の中に…」


 Hiddenite…『色によって名称が異なっていて、アップルグリーンのものを「ヒデナイト」という。石言葉は自然の恵み』

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