最終話 TRUE COLOR's

 水晶みあは自分のお腹を、愛おしそうに擦っている。

 不思議な感覚…。

 DNAという観点では、タケルと水晶みあの情報を受け継ぐわけではない。

 器の情報が混ざった個体。

 だが…その個体のどこかに、自分達と同じようにマリア達の意思を受け継いでいる。

 新たな生命を育むことができる…未来に繋がる鎖のひとつなのだと…今、思える様になっている。

『個』に固執して…結晶化するPTD。

 再び液晶化するのは…物理的な変化だけではないのではないだろうか。

 ナニカを…執着を解放するときに涙になって体外へ放出される…。

 それは、身体を捨てるということだと思っていた。

 今は…。

 少し、違う様な気がする。

 器の記憶に触れて…ナニカが変わるのかもしれない…。

 きっと…身体の…器の意思を色濃く引き継ぐのではないだろうか…。

 身体を…命を捨てるほどの絶望が、自分たちを引き寄せる。

 だから…身体を得るまでは、自分たちに性別も無い…。

 在るのは…欲しいという欲求だけ…その集合体…同じベクトルへ向かう意思の塊。

 異相空間に漂うだけの…隙間から世界を覗くだけ…それだけの意思…。


(きっと…佐奈子は…恋をしたかったのだ…そして…想い人と結ばれ…普通に…ただ普通に…)

 自分は、その意思を引き継いだ…それだけ…なのかもしれない。


 そんな佐奈子の心に…記憶に…寄り添うようにひとつの身体から、心のぬくもりを与え合う様に…。

「佐奈子…ありがとう…私に想いを託してくれて…」

 勝手な解釈かもしれない…でも…佐奈子の想いは、水晶みあが受け継いでいる。

 タケルもそうなのだろう…自覚は無いかもしれないけど…きっと想いを引き継いでいる。

 M2…マリア…は…意思を継いでいたのだろう…。

 子供を守りたい…見守りたい…永遠に…それが歪んだだけ…。

 誰しも願う、永遠を…それが出来てしまっただけ…。

 それに気づき…手放したとき…長い…長い止まった時間が動き出したとき…。


 病室の窓から、月を見て…涙を流す…水晶みあ

 クリスタルのように透明で…月の金色こんじきをうつす…。

 水晶みあの肩をそっと抱くタケル…。

(ありがとう…)

 水晶みあは夜空に呟いた…。


 誰に…。

 何を…。

 ありがとう………。


 時は過ぎ…時間は思い出を紡ぎながら…全てに等しく流れる…。


霧人きりひと…友達が迎えに来てるわよ、早く支度しなさい」

 水晶みあが息子を急かす。

「わかってるよ」

「あなたも、仕事に遅れるわよ…」

「あぁ…行ってくるよ水晶みあ

「ねぇ…なんで父さんは、母さんを、みあって呼ぶの?」

「ん…それはね…」


「早くしなさい!二人とも!」


                                            完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Tear Drop 桜雪 @sakurayuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ