第3話 Ammolite

「キミなら稼げると思うよ」

 面接は意外なほど簡単に終わった。

「普通は、入店の動機なんて聞かないんだけど…キミみたいな美人だと気になるね」

「フフフ…知りたいだけ…」


「知りたい?なにを?」

「快感を…かな…フフフ」

「快感ね~、同期としては満点だね。明日から大丈夫?」

「えぇ…問題ありません」

「じゃあ、明日から、この後プロフィール写真撮るから、ここに行ってくれるかな、スタジオに話通しておくから、っと…名前どうする?」

「名前…そうね~考えておくわ…後で電話する」


 ……………

 風俗の仕事を初めて矛盾は大きくなるばかり…。

 キスすらしたくない…憧れていたヒトとは、本当に底が浅い生き物だと思う。

 バカのひとつ覚えみたいに「愛してる」を繰り返す男ばかり…「れたい」それしか言葉を知らないのか?ってくらい同じことを言う。

 あしらうことすら面倒に感じてきた…ひと睨みすれば大概の男は「冗談だよ」とヘラヘラ笑う。

「アタシが憧れたヒトとは…こんな生き物なんだろうか…」

 性行為への矛盾なんて考えるより、ヒトという存在を考えることが多くなっていた。

 佐奈子の24年間の記憶、幸せな記憶だけではないが、サナコが感じるに比較的、恵まれた人生だったのではないかと思う。

 それゆえに…自死を決意するハードルが低かったのかもしれない…。

 おかげで、サナコは身体を手に入れ、人生のバトンを受け取ったわけだ、文句も無ければ憐みも無い、しいて佐奈子に感じるとすれば『感謝』に近いのかもしれない。


 男とは、こんな生き物なんだろうか…最初は興味だけで見て、触れていた男という生き物。

 この仕事に慣れてきた頃には、蔑む対象に変わっていた。

 地べたを這いずるミミズのような嫌悪感しか抱かせない不快な生き物。

 心を通わせる相手であれば…感じ方も違うということを実感として学んだ、と言っても…嫌悪感を抱く相手と肌を重ねることは不快だということを学んだだけ。

 サナコは、『恋』というものを理解していない。


 意識として混濁した狭間で漂い…憧れていただけのヒトという生き物…あるいは人生、生活は、実に不便だ…お金が必要で…収入は満足するほどは無い。

 佐奈子も毎月、悩んでいたようだ。

 なぜ、この世界に産まれただけなのに税金という徴収制度などあるのだろう…。


 サナコは今、お金は稼げている。

 風俗だけでいわゆる昼職を持たないサナコ、出勤も多いし…その容姿を武器として友好的に活用している。

 性への興味と職業的なベクトルが合致しているのだ。

 とりあえず、欲しいモノを我慢する必要は無く…とくに趣味を持たないので、サナコは、その容姿を磨くことに専念していた。

「佐奈子も、こうすれば良かったのに…バカな娘…」


水晶みあちゃんー指名入ったけど行ける?」

「はぁーい、行きまーす」


サナコの源氏名『水晶みあ

サナコが自分でつけた自分の名前。


 Ammolite…『オパール状の遊色を持った生物起源の宝石で、アメリカ合衆国とカナダのロッキー山脈の東斜面にのみ産出する。アンモナイトの化石からなる。石言葉は過去を手放す』

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