第29話 Sodalite

「タケル…水晶みあを取り戻しなさい」

「どうすれば…いい…」

「あなたに直接してあげられることはない」

「無責任なことを…」

「扉のロックを開ける…それしかできません…それでも、アナタ達の行く末を見たい…」

「ただの好奇心かよ…充分だ! 開けられるんだな…」

「……水槽に入りなさい……」


 タケルは言われるままに海水に身を浸す。

「F´…あれは身体を薬物で強化してあります。身体に執着が無いからポテンシャル限界まで力を引き出してきます。壊れても構わないのですから…勝ち目はありません」

「………差し違えても……」

「いけません。あなたも水晶みあも…責任があるのです。身体を…命を玩具にしてはいけません…それを誰よりも知っているのは、私たちです。その私たちが…M2の思想は間違っているわけではないのでしょう…でも…歪んでしまった…止まれなくなってしまった…」

「…………」


「タケル…私が再結晶化したら、それをF´に突き刺しなさい。一つの身体に2人は入れません、コリジョンを起こし、うまくいけば身体を乗っ取ります…失敗しても、しばらくは動きを止めれます。その間に水晶みあを救いなさい」

 黙って頷くタケル。

「まずは、この施設に火を放ちます…すべてのドアのオートロックが解除されたら、まっすぐM2の部屋を目指しなさい、途中、必ずF´が立ちふさがるでしょう…戦ってはいけません…私を突き刺すことだけを考えなさい…いいですね」

「あぁ…解った…」


 イルカがセカンドに繋がれたコードを引き千切る…それは自身にも何本か繋がれている。

 おそらくは、生命維持のようなものなのだろう…ショートしたコードを計器盤に叩きつける。

「タケル身を沈めなさい」

 セカンドの目から紫の涙が零れ…水中で結晶化する。

 タケルは紫水晶を握り水槽に潜る。

 イルカが水槽を垂直に急浮上して水槽を飛び出し、計器類に身体をぶつける。

 息絶えるまで…暴れ続けた…やがてショートした火花は炎となり部屋を包み込む。


 火災報知機が作動して、スプリンクラーが作動すると同時にドアがプシューと解放される。

(すまない…行かせてもらう…)

 床に横たわるイルカに一度視線を送り、部屋を後にする。


 通路には火災を知らせるブザーが鳴り響き、各部屋のドアは解放されている。


 T字の通路を右…その突き当りがM2の研究室兼プライベートルームだ。

 その通路から姿を現したのは…F´…。

「来ると思ってたよ~サード…」

「F´…」

 タケルは右手の紫水晶を握りしめた…。


 Sodalite…『古くから魔除けや悪霊退治のお守りとして用いられてきた。ラピスラズリより黒味が強く色が暗い。石言葉は勇気』

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