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「俺、向日さんに告ろうと思う」
「…そうか」
シートの上に仰向けに寝転がる。
俺は割と頑張っていた方ではないかと思う。恋愛経験値が少ない割には話しかけたりして会話も出来たし、さっきなんて一緒に海に入って、焼きそばとかき氷と、ついでにフライドポテトも食べた。
そしたらオプションで“あーん”も付いてきた。なかなかレアじゃないか。
…でも、だめだった。元々彼女は郁也に惹かれていた。郁也がまだ気がなさそうだったから、何とか俺も足掻いていられた。
「(終わった…)」
二人はもう両想い。郁也がこうして宣言してきたのだから、いつ告白しても返事は決まってる。
あとはもう告白パラダイスだ。お互い好き好き言い放題。そんなんも我に返った後に恥ずかしいねー、なんて言って二人で笑い合える。
ああ、なんて幸せな光景が頭に浮かんだのだ。
彼女の相手が俺でないのが腹立たしい。
「正樹は?」
「は? …いや、何が?」
いくら両想いになって腹立たしいからって、こいつに当たるのは違う。今の返事はおかしいだろと、慌ててあとに言葉を付け足した。
幸い郁也は気に留めてなく、そのまま話が進む。
「…向日さんに、告白しないの?」
「え? だって、郁也が告白するんだろ?」
「するよ。だから、正樹も告白しないのかって」
「いや、俺が告白しても振られんだろ…(彼女はお前の事が好きなんだし)」
「……まあいいや。でもこれだけは覚えとけ。俺が上手くいく行かないにしろ、彼女はいつか誰かと結ばれる。それがいつになるかは分かんない、10年後かもしれないし、早ければ今日かもしれない」
「……」
「告白なんて、いわば大会のエントリーみたいなもんだよ。言わなきゃ何も動かない、言わなきゃ何も始まらない。結果なんて後回しにしとけ、目の前の出来事を
郁也はそう言って、俺の横に寝転んできた。それが何となく気恥ずかしくて、俺は反対側に寝返りを打って背中を向ける。
山下も、似たような事を言っていた。
鮎川さんも、同じような事をしていた。
そして、郁也も今まさにそんなような事を言った。
-これは俺の自惚れかもしれない。
みんなに、背中を押されてる気になる。
いや、背中を押されてる、なんて生易しい言い方は違う。前に前にと、押し出されてる感じかもしれない。
“お前今まで自分から動いたことないんだよな? ここで動かなきゃ今までと何も変わんねえぞ? お前の頑張りなんて結局その程度かよ。
彼女に自分だけを見て欲しくねえのかよ!”
そんなの、
「(…見て欲しいに、決まってんじゃねえか)」
俺の腹は決まった。
「…郁也、」
「んあ?」
「チャンス、蔑ろになんて馬鹿な真似はしねえよ。でも、タイミングは自分で決める。…それでいいか?」
「…気持ちの整理付けたら10年後、とかはやめてくれよ。それはまじ勘弁」
「んなこたしねえよ。…でも、ちゃんと告るって決めたから」
「ん。こういうのは男から行くもんだからな」
「…そうだな」
それから彼女たちが戻って来るまで、俺たちの間に会話はなく。
ビーチバレー大会は順調に進んで行き、決勝は山下たちのペアと森山さん・原田ペアが残り、優勝は森山さんたちのペアだった。
山下は森山さんと組めなかった挙句、決勝でよりにもよってそのチームに敗退。山下太夫が現れるよりもさらに悔しさを増し、気持ちが入って尚面白かった。
一方俺と鮎川さんのペアは3位、ほぼ鮎川さんのお陰で好成績をマークした。
そして最下位は向日さんと郁也のペアだった。一回戦の山下たちに勝ったものの、それ以降は全敗だった。
こうして、山下提案のビーチバレー大会は幕を閉じた。
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