p.16
鮎川さんは花火を持ち、他の所へ向かった。彼女なりに、今俺といるのは気まずいのだろう。恋愛ビギナーな俺でも分かる。
俺は鮎川さんが去った後、花火を物色した。どっかのアホがアイドルのライブのサイリウムみたいに指に挟んで遊んだせいか、打ち上げ花火などしか残ってなくてかなり少ない。
あとであいつにねずみ花火三つ投げつけてやろう。
※サイリウム持ちやねずみ花火を投げつけるなど、絶対真似しないでください!!
打ち上げ花火は後で全て終わってから上げるのだろう。あと残っていたのは、
「線香花火って残ってるの?」
「うおっ、あ、うん。あるよ」
「ちょうだい」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
向日さんは線香花火を手に持ち、それに火をもらって点け。慎重にどこかへ歩いていくかと思いきや、波打ち際にしゃがみ込んだ。俺は同じ線香花火を火を点けずに持って行き、彼女の隣にしゃがみ込む。
「火ちょうだい」
「うわっ、はい、どうぞ」
「ありがとう」
彼女の花火から火を点け、パチパチと小さくはじける火花を見つめる。
「何でこんな波打ち際に?」
「…本当は水面に映したいんだけど。水面に映ると、二倍楽しめる」
「謎のお得感…ふふっ」
「聞いてきたくせに笑わないで」
彼女は仏頂面になった。ばかにしたつもりはなかったが、怒らせてしまったようだ。俺は彼女の手元に自分の花火を近づけた。
「じゃあ、これで四倍楽しめる?」
「…っ! ばか」
「ばかって…」
波が近づけば火花の数が増え、引くと火花は彼女と俺の二つになる。行ったり来たりを繰り返しながら、線香花火は最後に落ちるまで燃え続けた。
俺たちが線香花火をゆったり楽しんでいる間に、打ち上げ花火以外の物は全て消費されていた。主に山下のせいで。森山さんはかなり怒っており、打ち上げ花火の火点け役をやらせた。
他の人は絶景のポイントを探し、固まって座る。俺の隣には彼女がいてくれて、時折花火から視線を逸らして彼女を見ると、空を仰いで驚いたり、笑ったりしていた。
手を下に降ろした拍子に、彼女の手とぶつかった。
「あ、ごめん」
「…~っ別に、いいよ」
彼女は仏頂面になってしまった。しかし花火のあのカラフルな色が俺たちに光を差し、彼女の頬を赤く染めているようにも見せた。
その表情が照れているかのように思わせ、そんな彼女がどうしようもなく可愛く思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます