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打ち上げ花火も全てやりつくし、ごみなどをすべて回収して片付けをした。女子たちを宿泊先まで送り届けて、俺たちも自分たちの旅館に帰る。

風呂に入り、敷かれた布団の上に倒れ込む。


「(何て濃い一日だったのか…)」


高校入学以来、こんなに一日濃い体験をした日はなかった。それと同時に、やはり楽しかったことは間違いない。俺は布団を被り、みんなの話し声を聞きながら眠りについてしまった。


―-…

―…


「…んっ、」


うっすらと目を開ける。部屋は暗く、俺の腹の上には誰かの足が乗っかっている。起き上がるとそれは郁也の足で、「重い…」と言って退かした。郁也はそのまま寝返りを打つ。

よく見ると、俺以外誰一人としてまともに布団で寝ていない。原田なんか二枚に渡って横になって寝ているし、そのおかげで浅見が床で寝ている。俺は浅見に自分の布団を掛けてやった。


携帯だけを持って、何となく海に行く。時刻は朝の4時。

誰よりも早く寝たのと昼寝したのとで早く目が覚めてしまった。


海へ行くと、まだ日は昇っていない。砂浜の上に座り、海を眺める。


「あれ、柿原くん…」

「あ、森山さん。おはよう」

「おはよう。どうしたの、こんな朝早く」

「昨日昼寝したから、早く起きちゃって。森山さんは?」

「私はこれから日の出見に行くんだ」

「一人で?」

「いや、えっと、山下と…」

「…そっか」


まさか早朝の海で森山さんに会うなんて思ってもみなかった。森山さんは俺と少し距離を置いて砂浜に座り、同じく海を眺める。

ただ、ここへ来るときに山下がまた寝ていた気がするのは気のせいだろうか。


「…森山さん、山下とは何時に待ち合わせてんの?」

「朝の4時30分に海岸でって。あともう少しだね」

「30分前行動か、えらいね」

「いやいや。まだ時間あるから、ひまわり起こして来ようか?」

「え! なっ何で、別にいいよ!」

「ふふ、柿原くん分かりやすっ。冗談だよ、山下来るまでここにいる」

「……」


森山さんに見抜かれていたのか。俺たち含め、一番しっかりしてる感じの森山さん。やはり周りをよく見ているのか、おそらく彼女だったら誰が誰を好きとか、そういうのが全部把握できてしまっているのだろう。

まるで漫画や小説の読者の視点だ。


何となく、見抜かれていたのが森山さんで良かったと思っている。

それはおそらく山下は森山さんを好きで、俺は向日さんが好きで。森山さんが俺に惹かれるってこともきっとないだろうし、向日さんが山下に惹かれるってことは絶対にありえない。


お互い恋愛感情が絡んでこないからこそ、知られても大丈夫だなって思ったのだろう。


「…森山さんは賢いよね、きっと。勉強とかそういうのだけじゃなくて、内面的にも」

「んーまあ、割と周りの状況や物事を把握するのは早い方かも。でも、賢いからっていいことがあるわけじゃないからね。周りが良く見えてるだけにその周りをどうにかしたいって思っちゃって、自分の事は何もしてこなかったから、いざという時何をどうしたらいいか分からないし」

「え、そうなんだ…」

「要はお節介てことだね! それでもって自分の事になるとどう立ち回っていいか分かんない、意味ないねーははっ」


森山さんは笑い飛ばすように言ったが、彼女は彼女なりに悩んでいるのかもしれない。もしかしたら、山下の事と何か絡んでいたりするのだろうか…。


「でも、そうやって森山さんが周りをどうにかしたいって動いてくれたのなら、いざ自分ってなったときに、それが跳ね返って来るのかもよ?」

「え?」

「恩返し…みたいなさ」

「なるほど、それは考えたことなかったかも。良い事言ってもらったな」

「大したことじゃないけどね」

「どんでもない、充分私には響きましたよ?」

「お気に召して頂けたようで」

「あはは! 柿原くんて話してみると面白いね。そんな感じで、ひまわりにも話してあげてね」

「え…」

「恩を頂いたので、恩返しに一つ。…ひまわりは、照れ屋さんだからね。感情表現下手べたとでもいうのかなあ、あれは。でも、本当は素直で可愛い子だからね」


森山さんの話に思わず聞き入ってしまった。昨日一日振り返って、照れてる様子なんてあったか分からない。笑った顔を見ては仏頂面をされる…もしこれが“照れ”というものであれば、俺の思い描いていた照れとかなりかけ離れたものだ。


必死に考えていると、後ろの方からザッザッ、と砂の上を走って来る音が聞こえ、さらに。


「…っみ、ミキちゃ~~~~~~ん!!!!」


山下の叫び声が聞こえた。

森山さんは立ち上がり、砂を払った。


俺たちの前に来て息を整えると、俺の姿を確認した。そして即座に、


「うっ浮気!?」

「たまたま会っただけ。てか付き合ってないでしょうが!」


森山さんが綺麗に山下の頭を叩く。


「うう、ちべたい…柿原いねえなあと思ったら、こんな所にいたのか。俺はてっきり寝相悪くてベランダから落ちたのかと思ったわ」

「だったらベランダ探しに行けや」

「行った行った、そしたらいなかったから便所かと思って」

「探したのかよ」

「おう。…あっやべ、ミキちゃんそろそろ行こう!」


山下は森山さんの手を取り、歩き始めようとした。


「柿原、ほんじゃまた後でな! 朝飯までには戻る」

「戻らんかったら食っとくから安心なさい」

「だめ!」

「じゃあね柿原くん、またあとでー!」

「気を付けて行ってらっしゃい、森山さん」

「お前らやっぱり何かあったんかー!?」

「あーはいはい! ほら行くよー!」


山下が引っ張っていたが、いつの間にか二人隣に並んで歩いていた。

側から見てもお似合いでも、当人同士ではやはり不安なものなのか。


俺は二人を見送ると、砂浜に仰向けになって寝転んだ。


まだ少し濃く青の残る空。日の光は少しだけ差し始めていた。





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