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始業式が終わり、俺は走った。
郁也に何か話しかけられたが、そんな
電車に飛び乗り、その間に駅を出てから彼女の高校への行き方を調べる。
おそらく向こうも始業式だとしたら、午前中には終わるはず。校門前にいても、入れ違いになるかもしれない。
会えるかどうかも分からないけど、そんなのは着いてから考えればいい。
彼女の高校へ着くと、生徒がちらほら出てくる。校門の前に立ち、ネクタイを緩めて風を通す。
出て来る子達がちらちらとこちらを好奇の目で見て来る。明らかに誰かを待っているのは分かるだろうが、どんな奴かと見ているのか。
居心地は良くないが、我慢しなければ。俺は向日さんが来るのをひたすら待つ。
「あれ、柿原くん?」
「あ、森山さん…」
「びっくりしたー…どうしたの?」
「あのっ、むっ向日さんって、まだいるかな…?」
「ひまわりなら、もうすぐ来るんじゃない? …あ、ほら」
森山さんが校舎の方を指差す。遠くから、制服を身に纏った彼女が歩いてくる。俯き気味だった顔をふと上げて、こちらの様子を見ると目を見開いて立ち止まった。
俺は彼女の方へと歩いて行き、数メートル離れて立ち尽くす。
「…かっ、柿原くん、何でここにいるの?」
「向日さん、俺、…向日さんに話したい事があって」
「…とりあえず、目立つからここ離れよう」
「あっそうだね!」
通り過ぎる生徒たちが興味津々にこちらの様子を伺ってくる。俺たちは逃げるように校門を出て、それから向日さんが先頭を歩いたので、俺は後に続いて歩いた。
彼女は校門を出てから、校舎をぐるっと周り歩き、着いた先は裏門だった。
裏門の扉は鍵が掛かっておらず、普通に開けられた。
「あっあの、俺入ったらまずいんじゃ…」
「こっち」
躊躇いながらも中へ入り、歩いて行く。
連れられて来たのは、中庭だった。
彼女はベンチに座ったので、俺もその隣に少し距離を開けて座る。目線を前に向けると、立派な向日葵が花を咲かせていた。
「…ここ、ちょうど木の陰になってるから、職員室からも見えないから大丈夫。それに涼しいし」
「うん」
「あたしの、…お気に入りの場所」
風が吹くと木々が揺れ、汗も少しずつ引いていく。だんだんと気持ちが穏やかになっていく。
同じ風が二人の髪や服を揺らす。
「…向日さん、」
「なに?」
「俺、…向日さんが好きです」
彼女の方を向き、真っ直ぐ、はっきりと伝える。彼女は少し驚きながら、こちらに顔を向ける。
「え…?」
「みんなで海に行ったあの日から、好きでした」
彼女の視線が泳いでいる。急に言われて戸惑っているのか。
「俺と、付き合ってくれませんか?」
今自分が一体どんな顔をしているかなんて想像出来ない。顔だけでなく、耳や首まで熱を放っている気がする。きっと赤くなっているだろう。
本当は俯きたい。でも、彼女から言葉を聞くまでは真っ直ぐ見ていなければ。
言葉を言い終わってからもなお、心臓がばくばくしている。
ふと、彼女が少し口を開いた。俺は少しだけ目を細め、膝の上に置いた拳に力が入る。
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