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「…ほっ、本当に、あたし…?」


彼女はしどろもどろになりながらも、そう言葉を発した。俺はこんな時でさえ、そんな彼女が可愛いと思い、思わず口元が緩む。


「…俺は、向日葵さんが、好きです」

「…っ」

「俺と、付き合ってくれませんか?」

「…〜っ、はい」


彼女は返事をしたら、すぐに顔を背けてしまった。顔は見えずとも、耳や首まで真っ赤になっているんだから、きっと顔も赤いんだろう。

告白して返事をもらえたはずなのに、何故か夢見心地だ。


それでも、


「…はあ、緊張したー…」


俺はようやく息を大きく吐き、ベンチに座ったまま前屈みになった。

胸に手を当てなくても、心臓がありえないほどばくばくしているのが分かる。鼓動は大きく、整えるのには時間がかかりそうだ。


「…柿原くん、緊張してたの?」

「そりゃするよ。俺、恥ずかしいけど…向日さんが初めての彼女だし」

「え…」


向日さんが突如そっぽを向いてしまった。何故。もしかして、“自分が初めて”というのが気に食わなかったのか。男ならば色々経験を積んでから、とかそんな風に思われたのだろうか。


「向日さん…? ごめんね、俺、そんなんだから、その、い…色々と、ヘタれると、思う。嫌だった、よね。そんなリードとか出来ない男なんて。なっ何なら、さっきの返事はなかったことにしても…」

「ちっ違うよ! ばか!」


向日さんは俺の肩にパンチしてきた。が、それはさほど痛くない。


「…ぅあ、あたしの、と、つっ付き合う前に、えと、かっ彼女がいなくて、良かったなって言うか。…あたしが、柿原くんの初カノになれて、良かったなって、思っただけ…!」


言葉を必死に選び出して、顔を真っ赤にしながらもそう告げてくれる俺の“彼女”。どうしてこんなにも可愛いのだろうか。

俺だって向日さんが初カノではあるが、がないわけではない。


だから理性がどうのとか考える前に、俺は彼女を抱き締めていた。


「…ありがとう。ちゃんと、ずっと向日さんに好きでいてもらえるように頑張るから」

「……あ、あたしも、」


彼女が俺の背中に手を回し、シャツを軽く掴む。


「…柿原くんに、好きでいてもらえるように、頑張ります」


どうしようもなく彼女が愛しくて、さらにぎゅっと抱き締める。すると彼女もさっきより強く抱き締め返してくれる。


「俺はどうしたって、向日さんが好きだよ」

「…あたしも、柿原くんが好き」


彼女が俺の胸の中で小さく笑ったのが分かった。見た目だけじゃ分からなかったけど、実際触れた彼女は、こんなにも小さかったのか。


夢の中でも分からなかった。

“友達”という肩書きに縛られたままでも分からなかった。


今日走らなかったら、きっと間に合わなかった。

彼女に自分の気持ちを告げていなかったら、伝わらなかった。


少しでも狂えばあっという間にひっくり返ってしまう。“あの時ああしていれば”と思うことなんて、忘れてしまっただけできっと多々あった。これからもあるだろう。


でも自分で思った事を実行出来れば、今みたいに“こうして良かった”と思うことが出来る。


-好きな人と、抱き締め合うことが出来る。





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