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「…帰ろっか。正直、いつどこから先生が来るのか分からなくてひやひやする。女子高に男子なんて大問題でしょ」

「あたしが中庭に連れ込まれて柿原くんに襲われてるようにしか見えないからね」

「ばっ…! ちょっ、冗談でもやめて!」

「ふふ、柿原くんってこうしていじればいいのか。なるほど。榊くんにもっと教えてもらおう」


突然郁也の名前が出て来て、俺はおそるおそる聞いてみた。


「あっあのさ、俺はてっきり、向日さんは郁也の事が好きなんだと思ってた…」

「え、何で…?」

「海で二人でいた時とから、すごい仲良さそうに話してたりしたから、もしかしてと思ってて、」


向日さんは少し考える素振りを見せてから、小さく笑った。


「…榊くんとは、本当に何でもない。その、…色々、相談に乗ってもらってただけです」

「相談? 何の?」

「そっそれは内緒です! プライバシーなんで!」

「はは、そうっすね…」


そんな秘密の相談を郁也にしていたのか、聞く前よりもさらに疑問として俺の中に残ってしまった。ともかく、彼女が好きだったのは郁也ではなく俺であった、という事実だけはちゃんと確認出来たから良かった。


「…柿原くんは、何が好きなの?」

「え?」

「食べ物とか、色とか、動物とか、…そ、そういうのを榊くんに聞いてみたけど、曖昧な答えしか分からなくて…」

「……」


向日さんの横顔は赤く染まっていた。


彼女と一緒にいると、“好き”という気持ちが止めどなく募っていく。


よく“付き合う事というのがゴールに感じてしまって、長く続かない”なんて事を聞いた事があった。

結局それは憧れとかそんなんで、本当に好きではないという事だったりするとかなんとか。


ただ俺は、向日さんと付き合えたという事はもちろん嬉しいが、これから二人で出掛けたり出来るのかと思うと、楽しみでならない。

俺はスタートなんだと思えてる。


「…俺も、向日さんのこと、色々知りたい。もちろん、本人から教えて欲しいな」

「うん…あたしも、柿原くんのこと、もっと知りたい」


二人顔を見合わせて、笑い合う。


最初会った時は人形みたいに綺麗な顔立ちだけど、仏頂面される事が多くて。でもそれも今考えれば、仏頂面ではなく、森山さんの言っていたように本当に照れていただけだったのかもしれない。

そんな彼女と付き合えることになった。


今俺の前で笑う彼女の笑顔は、名前の通り、向日葵みたいに花が咲くようにはじけていた。


夏が過ぎれば秋が来て、冬が来て、春が過ぎればまた夏になる。


向日葵の花は夏が過ぎれば枯れてしまうけれど、俺は彼女のこの笑顔をずっと近くで見ていたい。

枯らさないように、俺が守っていく。


今はまだ照れてしまうけれど、いつか、自然に彼女の手を取る事が出来るようになろう。

ずっとずっと、そばにいられるように。





【完】





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