ひまわりドール

古町小梅

p.1

「…ん、あれ」


目が覚め、辺りを見回す。

俺は電車の中に座っていて、俺の他に乗客はいなかった。


電車自体も動いておらず、何故か外も暗い。というよりは木々が多く見える。まるで森の中にいるみたいだ。

重たく感じる体を動かして座り直す。

その場から立ち上がろうとするのだけれど、何故かそれは出来ない。何かを巻きつけられているわけではない。

俺は一気に恐怖に駆られた。


-ガシャン…


近くの電車の扉が開いた。そこから、人が入ってきた。

白いワンピースを身に纏い、髪はクリーム色のようなほんわかした色合いで、ふわふわしていた。

彼女はこちらに目線を向ける。


「…っ」


妙な胸騒ぎを覚えた。

目はくりっと大きく唇は薄い。整った顔立ちに肌は白くて、…まるで、人形みたいだ。


彼女はそのままこちらに歩みを進め、俺の前に立った。言葉を発したい、それなのに声が出ない。彼女の目を見つめることしか出来ない。

すっと彼女の手が伸びてきて、俺の左頬に優しく触れる。体勢を屈め、その綺麗な顔がゆっくりと近づく。


「(何だ、これ。俺…キス、されんのか?)」


先程まで動かせた上体も動かせなくなり、彼女のなすがまま。俺は彼女からのキスを受け入れよう。これはあくまでも、体が動かないという。そう、不可抗力だ。


その綺麗な形の唇が、俺の微かに震える唇に触れようとする-…





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る