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「山下くんて、なんかずっと元気だね」

「あーでもあいつ、本当は森山さんと組みたかったと思うよ」


鮎川さんと審判をしてる途中、そんな風にして話しかけられた。お互い試合の流れを見ていなきゃならなくて、目線を合わせて会話をすることは出来ないけれど。


「森山さんの事が大好きなくせに、格好つけちゃって」

「…それは柿原くんも一緒じゃないかな?」

「え?」

「ひまわりの前じゃ格好いいと思われたいでしょ?」

「な…っ」

「だてに柿原くん見てるわけじゃないよ。まあ、側から見て分かりやすいってのもあるけど。何も気付いてないのはひまわりくらいじゃない?」

「ま、まじで…?」

「まじで。あははっ、あー…妬けちゃうなあ」


鮎川さんは体育座りしている膝の間に顎を置く。横目に少し顔を見ると、笑っている。しかし作られた笑顔がそこにあった。

彼女はどうして、


「…どうして、俺の事、好きになってくれたの?」

「…っ! それ、今聞く?」

「あっいや、ちょっと気になっただけだから、言いづらかったら、別に…」


鮎川さんは俺の方を見て、ふっと笑ってからまた顔を前に戻す。

暫くして、彼女の口が開く。


「…昨日も言ったかもだけど、本当、最初は見た目が少し好みだなーってくらいだった。今回のだって、特に何も期待とかしてなかったし。そんな時にビーチバレーやるってなって、柿原くんが上手く輪に入れてない気がして、話しかけてみたの」

「ああ、あの“ポンプ実はあったよ事件”っすね」

「そうそう、それ。その時に、別にこの人、普通に話してくれるんだなって思って。どうせ男子の中で誰かと話すんなら、柿原くんがいいなって思って。

…それで、今に至ります」


彼女は立ち上がり、声を張り上げる。


「はい、試合終了ー! 10対8で榊くん・ひまわりペアの勝ちー!」

「チックショーっ!」

「ほら、山下太夫のペアは次審判だよ。柿原くん、私たちは荷物番パラソルへだよ」

「あ、うん…」


荷物の元へ行き、原田たちと交代する。山下は鮎川さんに名付けられた“山下太夫”がよほど気に入ったのか、原田たちの前でも披露している。

そして案の定森山さんに冷たい視線を向けられ、審判の空気がかなり暗い。


俺たちが戻ってシートに座ると、郁也たちが戻って来た。


「おお、お疲れさん。なかなか接戦だったな」

「山下の一回転レシーブとか笑い堪えんの大変だったわ。あれはなかなかの強敵だ」

「ははっ、俺たちも気を付けよ」


郁也たちがシートに座り、水分補給なんかしたりする。


「…ひまわり、私ちょっとお手洗い行ってくるね」

「あっ、あたしも行く。クミちゃん待って!」

「置いてかないって」


そうして女子二人がトイレへと行ったため、シートには俺と郁也の二人になった。

いつもどんな話をしていたっけ、そんな考えが頭に巡る。


郁也は飲み物のキャップを締め、「なあ、正樹よ」と話しかけてきた。





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