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彼女と俺は何となく日の出を一緒に見て、「じゃあ」と一言だけ交わしてお互い戻って行った。部屋に戻ると、3人ともまだ寝ていた。今から寝る事も出来ないし、仕方ないからテレビを見ていた。

誰の携帯かは分からないけど、7時頃にアラームが鳴り響いた。それを筆頭に全員起き始め、顔を洗うなり各々支度を始める。


「正樹、お前早起きだね」

「なんか目覚めちゃって。暇だからテレビ見てた」

「ふーん、山下は?」

「フライアウェイ」

「何それ。朝飯食いに行きたいんだけど、あいつ置いてってもいいかな」

「…いいと思う」

「んじゃ行くか」


今あいつがどこで何をしているのか分からないし、下手に携帯を鳴らして雰囲気とかぶち壊しにしたらかわいそうだ。そんな考えが一瞬にして浮かび、俺なりに気を遣ってみた。

山下抜きの4人で朝飯を食べ、部屋に戻って荷物をまとめる。9時にはチェックアウトするので、それからまた女子たちと合流するみたいだ。


ちなみに山下は、7時30分に戻ってきたらしい。先に朝飯を済ませてしまったので、一人で食べに行かせたらマッハで帰って来た。「さすがに一人は寂しかったよう…」と嘆いていたが、俺はそっと山下の肩に手を置いてやった。


-荷物をまとめ、時刻はまもなく9時。


フロントでチェックアウトし、今日は一度女子たちの宿泊先へ向かい、そこで合流した。彼女たちはロビーにいて、みんなで海の家へ向かい、荷物を預けて着替えをした。


先に男子陣でシートを敷いてパラソルを立てて準備をする。


「あ、いた。お待たせー」


森山さんの声に、心臓がどくんっと跳ねた。

女子たちが来たということは、もちろん彼女もいる。ということは…だ。

俺はゆっくり振り返る。


昨日と同じく眩しい水着姿。しかしその中で、俺の中では一際異彩を放つ人物がいた。


「お、向日さんも今日は水着なんだね」


郁也が真っ先に話しかけた。俺が何も声を発せずにいたのに対し、かなりけろっとした様子。向日さんは俺と目が合うと、瞬間にぱっと逸らした。

俺もずっと見てはいたいけどそれはだめだろうという思いと、こちらも何故か照れてしまう気持ちとで目を逸らしてしまった。


白地にひまわりがプリントされているワンピースタイプの水着だった。ワンピースといっても、昨日の洋服のワンピースとは丈が違う。圧倒的に水着の方が短い。

そのスラっとした白い足が曝け出され、目のやり場に困った。


彼女はパラソルの下に入るも、俺とは対角線上に離れた距離に座った。


「(何だか、昨日の振り出しに戻った気分…)」


今朝は偶然とはいえ一緒に日の出を見た。昨日だって、一緒に海に入る約束まで出来た。

なのに今はこの有り様だ。話しかけたくても、近づくのが緊張する。せっかく縮まったのではと思えた距離も、躊躇えば躊躇うほど長く伸びていく。


また、話しかけるタイミングを見計らっている。





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