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暫くして、山下と森山さんに声を掛けられた。俺たちは荷物番を引き受けたものの、原田が海から上がってきた。
「ふい〜、ちょっと休憩ー」
「原田お前シート入ってくんな、濡れるだろ」
「海に来てまで濡れることなぞ気にするでない。ほれ、荷物番代わっから入ってきなさい。向日さんも一緒に」
「ううん、私は大丈夫。ほら、柿原くん行きなよ」
「うん…じゃあ、行ってくるわ」
「ういー」
何故か原田と彼女を二人にするのはあまり気にならない。それは原田が別の子狙いだというのが分かるからだろうか。
実際二人の話す様子を見ても、楽しそうに談笑してるくらいで、特に親密そうな感じもしない。
寧ろあいつ、向日さんに恋愛相談でも持ち掛けそうだな。
俺は海へと入ると、「あっ!柿原くーん!」と鮎川さんに可愛らしく声を掛けられた。彼女はドーナツ型の浮き輪ごとこちらへやって来る。
他の子もそうだが、水着姿が眩しい。現役女子高生の破壊力は半端ない、とか思っている時点で思考が変態すぎる。俺はどんどん不純になってしまっている気がしてならない。
「ねえねえ柿原くん、もう少し沖の方に行ってみない? 私浮き輪に乗って引っ張ってほしい!」
「うん、いいよ。じゃあ紐引くから乗って」
「やった!」
鮎川さんはドーナツ型の中心に乗り、上半身と足だけ外に出す。俺は横の紐を引っ張って、波を何とか乗り越えながら足のつくぎりぎりまで来た。
ブイよりはまだまだ手前だが、人も少なく、海の水が冷たく感じる。
「はあー、なんか海に人いっぱいいるのに、ここだと二人ぼっちみたいだね。静かだなー」
鮎川さんは空を仰ぎながらそう言った。ブイよりは手前でも、岸よりはだいぶ離れた。パラソルも位置は分かるけど、人はぼんやりとしか分からない。
何だか寂しく感じる。
「あっそういえばね、さっき山下くんとミキが夜はみんなで花火やりたいねーだって」
「そうなんだ。いいね、楽しそう」
「…柿原くん、今日楽しい? ひまわりに気遣ってばっかりだけど」
「え! 気なんて…あ、いや、そりゃ遣ってるけど、俺は俺で楽しんでるよ?」
寧ろ彼女に気を遣うという体で近づいているようなもの。一緒にいたいが為に理由を探して、それしか思いつかないのだ。
「良かった。…柿原くんて、優しいね。モテるでしょ?」
「いやいや、俺全然モテないよ」
「じゃあ今彼女は?」
「いないよ。つか、今日来てる俺らみんないない。だからてっきり男同士で海に来たと思ったら鮎川さんたちいたから、びっくりした。さっき向日さんもそんなようなこと話してたし」
「ふーん…柿原くん彼女いないんだ。そりゃこれから柿原くん争奪戦が待ち受けてるかもね」
「ははっ、俺にそんなモテ期来るのか」
「来るかもよ、実はもう誰かに想われてたして」
「なら嬉しいよ」
俺はそんな風にさらっと流した。
出来ればその相手は彼女がいいな、なんて思いつつ。
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