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昼飯を食べ、それからは海に入ることにした。荷物番は山下と森山さん。正直あの二人はすでに付き合っているのではと疑っている。話している姿も誰よりも親しげ。仮に違うとしても、付き合い始めるのは時間の問題だろう。

鮎川さんたちはドーナツ型やイルカの浮き輪を持って入る。それに続き男子も入ったが、向日さんだけは波打際にいた。


「(そっか、水着じゃないから入れないのか…)」


かといって、山下たちの所へ行くわけにもいかず。あれはさすがに誰でも空気を読まざるを得ない。

俺はやはり彼女が気がかりで、彼女の元へ行った。


そして、波打際に腰を下ろした。


「それ、下に敷けば座れるんじゃないかな」

「え、パーカーを? だめだよ、汚れちゃう」

「汚れたら洗えばいいよ。ほら、ここだったら足伸ばしてれば足元にしか波来ないよ」


彼女はパーカーを敷いて、その上に腰を下ろして足を伸ばす。彼女は足先だけを動かして、波をぱちゃぱちゃとさせる。

横顔を見ると、楽しそうに笑っていた。


「(良かった…)」


不意にこちらに目線を向けた彼女と目が合うと、そっぽを向かれなかったけれど口を噤んで仏頂面になる。

そんなに俺に顔を見られるのが嫌なのか、彼女の中での俺は一体どんな物になっているのか聞いてみたくなった。期待は全くしていないが。


「…柿原くんは、みんなと海に入りなよ。あたしここにいるから」

「……」


ついに追い払われた。

確かに、嫌いな奴に側にいられてはたまったものではない。離れようとしたが、ふと周りに目を向けた。


「あー…一人でいたいのは分かるけど、今は一人にさせられないかな」

「な、何で…」

「海には良からぬ輩がいるんだよ。こんな俺でも、虫除けくらいにはなるからね」

「虫除け…?」

「…さっきから女性に声を掛けてナンパしてる奴がいる。今君を一人にしたら声掛けられそう」

「そんなことは…」

「冗談抜きで。ちょっと待って、郁也にここ代わってもらうから」

「だから何で榊くん…?」


俺は海にいる郁也を探した。

団体で固まっているかと思いきや、意外とばらけてしまっていた。郁也は浅見と鮎川さんといた。


「…あ、おーい! いく…」

「待って!」

「うおっ!」


郁也を呼ぼうとした瞬間、彼女が俺の海パンの裾を引っ張った。紐できつく結んでいるとはいえ、脱げたら大変な事になる。

慌てて少しずり下げられた海パンを引き上げた。


「ごっごめん!」

「いや、どうした?」

「…榊くんは、呼ばなくていい」

「でも、一人にはさせられな…」

「だから、…柿原くんが、ここにいて」

「え…俺が一緒なのは、嫌なんじゃ」

「…そんなことない。柿原くんなら、別にいい」

「…〜っわ、分かった」


俺は再び、彼女の隣に腰を下ろした。

特に会話はない。なのにさっきよりもドキドキする。心臓の鼓動が早く、何だか落ち着かない。


海には人が多くいるはずなのに、その周りの声が入ってこない。聞こえるのは、波が行ったり来たりする音だけだった。





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