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とりあえず全員が入れるだけのシートを敷いてパラソルを立てた。
人生で初めての合コン。というか、女子とこんな風に出掛けたことすらない。一人どきまぎしていると、山下が声を発した。
「ほんじゃまあ、とりあえず…何する? やっぱ親睦を深める為にビーチバレーでもする?」
「あっはい!私ビーチボール持ってるよー!」
「クミちゃんナイス!」
どうやら全員参加のビーチバレーをやるみたいだ。俺は彼女に何気なく目を向けると、相変わらず俯いたままだった。さっきからタイミングを伺っては声をかけてみようと試みる。も、不用意に近づいたら不信感を抱くのではとかそんなことばかり考えて近づけずにいる。
いや、そもそもこういう事を考えている時点で俺はだいぶ挙動不審、側から見ればかなり怪しい奴になっているのでは…
「柿原くん」
「うわあっ! はっはい!」
「ふふっ、そんなに驚かなくても。これ、膨らましてもらってもいい?」
「ああ、うん…」
俺にビーチボールを差し出してきたのは、これを持ってきてくれた
本来なら別に驚くほどの事でもないのかもしれないが、俺の場合、彼女に気を取られていたせいか。それを何となく、悟られたくなかった気もするというか。
俺は鮎川さんからそれを受け取り、息を吹き込んで膨らます。パンパンになるまで膨らまし、栓をして鮎川さんに渡す。
「ありがとう柿原くん。実は空気入れポンプあったの忘れてた」
「えー…まあいいけど」
「ごめんね、怒ってる?」
「いや、怒ってないよ」
「本当? 良かった」
鮎川さんはビーチボールを顔の横に並べ、可愛らしい笑顔を浮かべた。
この子はきっと自分が可愛い事を知っている。しかしそのあざとさも時に男側からすれば可愛らしく思えるものだ。
もちろん俺も例外ではない。
ビーチボールの用意が出来ると、少し広い所に行こうとした。
「…っあ、あの!」
声の方を振り向くと、彼女がいた。
みんなの方を見ようとせずに、俯きながら目線だけパラソルに向いていた。
「あっあたし、荷物番してる、ね…。ほら、全員いなくなっちゃうと、荷物ほったらかしはまずいし」
「あ、そっか。じゃあ俺も向日さんと一緒に荷物番しとくよ」
そう名乗りを上げたのは郁也だった。
俺は彼女が話す言葉を聞いているのに精一杯で、自分が一緒にいようなんて微塵も考えつかなかった。
「(しまった、これは荷物番を口実に自然と二人きりになれた場面では…)」
一気に後悔した。
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