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 カラが非常に強いことは、カラの周りに見える魔術のオーラから明らかであった。しかしヘルモに対し完全に油断していたようだ。というのは次どこにあの切り裂く波動が来るかが明瞭に見えたのでヘルモはしゃがんでそれを避けた。

 「!?」カラは驚いた。

 「・・・・。」ヘルモは無言で立ち上がり、そして腕を振るう。ヘルモは、魔術は微力であったが、どこに世界の流れが繋がっているのか見えていた。したがって、カラのこめかみに避けられない一撃を与えることができた。こめかみが爆発したが、どうやらカラはどうすれば傷を最小限に防ぐかも心得ていたようである。小さな切り傷しかなかった。しかしそれがカラの心の深い傷となった。

 「お・・の・・・れ・・・・・!」カラは怒りに震え、殺さんがばかりの熱い視線をヘルモに送った。だが、それもすぐに収まった。「不覚だったな。お前の魔術感性の才能を見くびっていた。どっちかというとあの人格再定義人の奴の方がすぐれているように見えたが。」

 「アラスタさんには大して戦闘能力はありません。僕がここまで強くなったのは、あなたの訓練のおかげですよ。」

 「そうか。」

 「だから感謝して死んでください。」

 「ふっ、恩を仇で返すとは。」と言って、今度はカラは本気で切り裂きの波動を出すが、初手で油断したのがやはり失敗であり、ヘルモに完全にパターンを掴まれて見切られ、見事に避けられてしまった。

 「・・・・・。」ヘルモは何も言わない。再びカラは、今度は炎を繰り出すが、ヘルモはその炎を腕をふるって空気を動かし、かき消してしまう。脇のレーテは天井をふらふら見つめている。

 「・・・そうか。」カラは鼻笑いをした。「どうやらおまえはセンスがいいばかりか私より素早いらしい。それは認めよう。だが、以前訓練を受けたような猛々しさはない。どうやらその素早さは、見た限り、パワーを捨てなければそうなれないみたいだな。だから私にはかすり傷しか与えられない。だから常に逃げてばかりいる。」

 「逃げてない。」

 「そうか?じゃあそれを証明しよう。」

 カラは今度は上の空のレーテの背後を回りその首を肘で締めた。

 「!!」ヘルモは息を飲んだ。

 「今からこいつを殺す。といったらお前は守れるのか?」

 「クッ・・・・」悔しいがヘルモはパワーの差を認めないわけにもいかなかった。

 「私は、普通に人を殺せるぞ。」カラはこの上なく淀んだ笑いを込めて言った、鎧のレーテをぐしゃぐしゃ揺すりながら。「ほらほら。どうだ?やっぱり力が欲しいだろう?真実がどちらにあるのか、これで明らかだろう?」

 「・・・・!」どうしていいのかヘルモはわからない。

 「そうだ、そうだよなあ。肝心のパワーの持ち主がこんな様だしなあ?」カラはレーテを見ながらニヤニヤと目で笑う。レーテはぼんやり虚空を見つめている。

 「ッ!!」ヘルモは胎児を投げつけた。その胎児はカラの持つクィラの胎児をも弾き飛ばした。

 「・・・!貴様!」

 「そんなにパワー、パワー言うのなら、拳で戦え!卑怯者!」ヘルモは言った。

 「ほう?」カラはレーテを投げ飛ばした。レーテはそのまま仰向けに伸びる。「面白い提案じゃないか。遠慮なく殺してやる。」


 仰向けのレーテは首を傾け、その光景を眺める。 


 ・・・マルカレンとクィラの胎児がお互い這いつくばりながら取っ組み合いをしている。


 お互い初めての戦いのようで、その動きはおぼつかない。


 さらにレーテは他方に首を傾けると、カラとヘルモが取っ組みあっている。


 力押しのカラにヘルモは苦しそうである。


 否、そもそもカラが全く表情を見せない。


 カラは長い右腕でヘルモの頬を殴りヘルモは仰け反った。


 「雑魚が。」カラは起き上がろうとするヘルモの両足にのしかかり、左腕を抑え、右腕で、さながら大工が丹念に金槌を振るうように丁寧に殴っていく。「雑魚が。雑魚が。雑魚が。雑魚が。」

 

 レーテは思い出す。


 ・・・「おら!立て!」過去にオルガノにひどく痛めつけられたレーティアンヌ。そのあとカラに切り裂かれたレーティアンヌ・・・


 ・・・同じように過去にオルガノにかつて痛めつけられたヘルモ・・・


 そして今、カラがヘルモを殴り続ける光景。「雑魚が、雑魚が。」


 かわいそうなヘルモ。


 自分は何をしていたのだろう、とレーテはふと気がついた。


 死をくぐり抜けたあの時の思い出が、レーテの中で蘇った。


 私は一度死んで、信念のみで蘇った。


 そして、もう一度死んでいた。そして再び。


 起き上がる?


 「カラ。止めて。」というレーテの声が聞こえて、カラの手が止まる。

 「おや。」カラは伸びたヘルモを放置して興味深そうにレーテを見る。「本当に執念深いですなあ。」

 「私は・・・」しかし未だに呆然としているレーテはふとファレンの傘をもったままである事に気づく。

 「ヘルモには教育価値があったから加減したが、私はお前には容赦しないぞ。」カラはレーテをぎょろりと見る。「もう決して許さないからな。お前には全力を注いで殺してやる。」そう言ってカラは胎児を探す。「さて、クィラはどこだ、どこにいっ・・・・ぁぁぁぁああああああああ!!!!!」

 カラは絶叫した。クィラとマルカレンが戦った所はひどい血だまり。なんとクィラはマルカレンに食い殺されて絶命していたのだ。

 「あの子はゲゲレゲのなり損ない。」レーテは無表情にそう言った。

 「うううううぅぅうううう!」カラは獣のように唸った。倒れているヘルモは静かに微笑む。マルカレンの胎児がふわふわと浮かび始める。

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