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 そのレーテの顔に一瞬見えた青の光に、どのような魔術を込めて拳をふるえばいいのか、なんとなくヘルモは知っていた。それをぶち破った時、レーテの目に一瞬正気が戻り、ヘルモを殺そうとする腕が一瞬ひるむのが見え、拳がレーテに直撃し、後方へと倒れた。

 (僕の力・・・!)

 ヘルモは拳を見ながら息切れをした。

 そうか、僕は見えてしまうのだ。魔術の動きが。その事をすっかり意識の外に忘れていた。あの光は、ネジネジがレーテに送る指令であった。

 オルガノの力技の訓練に慣れすぎて、戦闘に応用しようとは今までついぞ思いつきもしなかった。しかし、そうだ、その力をつかえば・・・

 青い光がまたレーテを覆うのが見えた。そしてレーテはまた死んだ目で立ち上がる。

 「レーテ。苦しいんだろう?僕が殺・・・救うよ。」

 もう口癖のように言っていた言葉すら否定するヘルモ。

 「僕は君を、救う。」

 再び前方から駆け出すレーテ。ヘルモはマルカレンの胎児を胸に当てる。ふとヘルモの背後に気配がし、咄嗟に避けると、渦巻きの顔をしたアラスタが腕を振るってきた。

 「!?」

 ヘルモは悲鳴すら出ない程に驚愕した。一方からレーテが来る。他方からアラスタはヘルモの顔を掴もうとする。ヘルモが受け身を取ると、アラスタとレーテが追突し、二人はともに転ぶ。

 急いでヘルモは二人から距離を取った。レーテもアラスタも共に立ち上がり、まっすぐヘルモに向かってくる。かつて仲間だった二人と戦わねばならないこ状況にヘルモはひどく寂しさと恐れを感じた。

 (大丈夫。)マルカレンの胎児。(落ち着いて。よく見て。)

 レーテとアラスタの前方を覆う青いオーラ。

 (ヘルモは力で戦うタイプじゃないんだよ。)

 ・・・・それは分かっていた。何がレーテに対して一番有効か、さっき知ったのだから。ヘルモは一度深呼吸し、青いオーラを見る。手のひらを前に出し、その青いオーラを吸い込んで掴む。すると二人の歩みは遅くなる。掴んだ手を、今度は真剣の気持ち込めて刀の形で振るう。レーテの顔と方を繋いだ触手が切れる。レーテが倒れる。アラスタだけが近づいてくる。アラスタは絶望の夢を見ているようだ。ヘルモはアラスタに一歩二歩進み、ほぼ目の前にまで近づいて、その額に腕を当てた。

 「眠れ。レームナフラ。」

 仕事人アラスタはそのまま仰向けに倒れ、二度と目覚める事は無かった。

 そのアラスタでさえ、ネジネジは操るのが精一杯だったようである。彼は発作をおこしたかのように痙攣を起こしていた。凹んだ顔の渦巻きから青い液体が漏れていた。ほとんど全力を注いでレーテに注いだ魔力が、唐突に断線されて行き場を失い暴走を始めていた。車椅子から転げ落ちてもピクピクと動き回るネジネジを、ヘルモは見下げ、そして走って逃げた。案の定、ネジネジは爆発した。魔力増幅液の爆発。

 そしてレーテは起き上がったことにヘルモは気づいた。その顔の半分は触手の残骸に覆われている。

 「私は」(私はレーテ)(レーティアンヌ)(お母さん、お父さん)「その」・・・心の声と喋りが同時に、脈絡もなく流れてくる。残念な事に、完全に思考が壊れてしまったようだ。・・・「今日は」(ヘルモ)(ヘルモがいる)(愛しい)「大変な1日だったよ。」(ゲゲレゲ)(ファレン)(傘)「ヘルモは元気。」

 「レーテ。」ヘルモは言った。「あなたはもう死んでしまったのですね。」

 「死んだ?」(オド)(堕魔人)(クリシェ)「いい天気じゃないか。」(スニングス)(マルカレン)(胎児)(弱点)(カラ)

 「そう、カラ。」ヘルモはうなづいた。「あなたはまだ最後の使命が残っています。カラを殺す使命が。」

 「使命」(使命)(守る)(救う)(殺す)(カラ)

 「いきましょう。」ヘルモは瞳の動きが落ち着かないレーテの手を取る。「最期の戦場へ。」

 (最期)(死)(人格再定義)(アラスタ)(死)「私は、死ぬのか。」

 初めて人の言葉のような質問を聞いて、ヘルモは安心した笑みを浮かべた。「あなたはみんなの心に永遠に生きますよ。聖戦士ですもの。」そして涙を一滴地面に落とした。

 (泣いてる)(涙)(悲しいの)(ヘルモ)

 「ああ。」

 (どうして)(ヘルモ)(私?)

 「いいや。」すっかり心が子供のようになってしまったな、とヘルモは思った。これがレーテの本来の姿だったのだろう。「むしろ、君は、慰めてくれる・・・」泣いてしまうので、続ける言葉が出なかった。それよりも。

 「行こう・・・」

 (行こう?)(どこにつれていくのかしら)(ここはカラの魔城)(懐かしい。訓練を受けた場所。)

 「そうだ。ここにいって、決着をつけよう。」

 ヘルモに連れられ、きらきらとした瞳のレーテはカラの魔城の中に入っていく。

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