26
人の背丈の二倍以上にも膨れ上がっていたザンドルフの前に立ちはだかる戦士レーテ。しかし本来腕のなかった左肩から触手を生やして、蠢いているのをみてレーテはうろたえる。
「これは・・・・・」
"殺したい。" "寂しい。" "満足したい。"
触手から伝わる気持ちのいい響きの声。気が付いたら、ザンドルフの足のうち4本を触手で丸ごと掴み右手に持つファレンの傘で殺そうとしていた。
「う、うわああ!」
レーテは身震いして、離したいと望むと触手はすぐに反応し、足がぐねぐねに曲がったザンドルフを突き放す。レーテもよろめいて尻もちをつく。
「成功した・・・くくく。」ザンドルフは笑う。「精神によって肉体を強化するのが魔術。しかし肉体そのものが変化したらもう精神は暴走を止められぬ。それが堕魔人。」一本ずつ足を直しながらザンドルフはねちこく言う。「愛が叶わぬと知った時から、お前を俺同然に貶めて汚してやりたかった。」
「お前・・・・」
"殺したい。" "寂しい。" "満足したい。"
怒りと共にまた心地よい響きの声。だめだ・・・。レーテはこのままでは本当に腐ってしまうと怯えてなにも動けない。
「しかし、むかつく気持ちは満たされんな!」ザンドルフは笑った。「思ったより脆い!脆すぎる!どうせなら、みんなの憧れる聖戦士の死体が堕魔人になりかけたみじめな姿で発見されて皆の記憶から葬り去られるというのも悪くない。ここでとどめをさして、仮面を奪って高額で売りつけてやる!その姿でその顔ならば、ますますおぞましい姿で発見されるだろう!」
ザンドルフは足の一つを極めて鋭角にして、レーテの右目に狙いを定めた。
「死ね!レーテ!」
そして銃声と共にザンドルフの後頭部は破裂し、7つの足に力を失ってどろどろに溶けた。レーテはハッと息を飲んで前を見た。後ろには老人オドがいた。
「危なかった。」オドは言った。「わしは寝てた。だが、お前の連れている胎児が夢の中で危険をしらせてくれた。」そう言ってオドはポケットの中からすやすや寝ている胎児を見えた。この胎児にはそんな力が・・・魔術感性の鈍そうなオドにも伝える力があったのか、とレーテは驚いた。助けにきたのはありがたいが、しかし、今の自分は・・・。
"ヘルモに会いたい。" "魔城の道を知ってるあいつを殺して脳の記憶奪っちゃおう" "そうしよう"
「オド!!やめてくれ!」レーテは叫んだ。「私は、おかしくなってしまった!このまま共にいると、あなたを殺しかねない!」左肩の触手がぐねぐねと動く。
「おや、そうか。」
「私はしばらく解決法を探す!その間、遠くのところにいてくれ・・・私が化けてしまったら・・・・見捨ててくれ・・・・。」
「あなたならきっと大丈夫じゃよ。」オドは笑った。「でもわかった。このお連れさんはどうする?」
「預けてくれ。何の害もない。今の私はそいつも殺しかねないから。」
「そうかそうか。」オドは言った。「じゃあ、健闘を祈る。」そう言ってオドは森の茂みの中に行ってしまった。
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