20

 「カラ・・・どうしてここに・・・」レーテは言った。

 「久々に会ったというのに呼び捨てとは感心しないな。」カラ魔王はため息をついた。「どうしてここに、は私が問いたいぐらいだ。」

 「お前には関係無い。」

 「そうか。」そしてカラは左目でレーテの懐を見る。「その光ってる瓶はなんだ?」

 「お前には関係無い。」

 「つれないなあ。」そしてカラはレーテに手のひらを向ける。

 「殺すのか?」

 「なんで私が君を殺すのだ?ちょっと調べさせてもらうだけだ。」カラは広げた拳を握る。「なるほど。考えたな。ゲゲレゲを探していたわけか。」

 「お前には関係無い。」

 「いいや、関係あるともさ。」ここで初めてカラの目が笑った。「なるほど、これは実に面白い。ゲゲレゲを通して僕たちは出会う運命だったということか。」

 「どういう事だ!」

 「ほうら、気になってきた。じゃあ教えてあげよう。我々はゲゲレゲが人間に戻る瞬間を捉え、その素体の人間を確保した。」

 「・・・!」「え!」レーテは言葉を失い、ヘルモは叫んだ。

 「そこでここで確保していた。私はたまたま視察に来ていたのだが、お前たちがその瓶に引き寄せられて、わざわざ会いに来てくれたから、まるで運命を感じるよ。」

 「さっさと解放してくれ。ゲゲレゲを確保してるのなら、私には用は無い。ここから立ち去る。」もちろんこれはレーテの嘘で後に忍び込むつもりであった。

 「そうはいかない。まず、その若いお連れさんの事が気になるんだ。」

 「彼を・・・どうする気だ・・・・。」

 「おいおい、ちょっと待ってくれ。なんでそんなさっきから、まるで私が君や彼を殺すかのように食って掛かるんだ。」

 「それはお前が常日頃やっていることだからだ!」

 「意味がわからぬ!全く、意味が、わからぬ!」カラは憤りをあらわにした。「私が無差別の殺人狂ってことか?ああ、レーテよ、お前は自分の言ってる事が分かっているのか?」

 「分かってたまるか。」

 「ああ、レーテよ。私がなぜ、お前の親友を殺したのか、何を伝えたかったのか、やっぱり今も理解してないみたいだね。」カラは今度は憐れみの眼差しを向ける。「可哀想に。お前のように立派な戦士にはどうしても世界の深奥を知って欲しかったのに。仕方ない。そのお連れさんを、君と同じ人格再定義の処置をする。」

 レーテは途端に燃えた瞳をカラに向けてファレンの傘を広げた。「そんな事は許さない!カラ!殺す!」

 「私を殺してみろ。」カラは言った。「私は多くの堕魔人を手中に治める活動をしている。私を殺したらそれまで手の内であった堕魔人は野放しにされ人民は多く死に、やがてお前を呪い始めるであろう。私が死んだら、ネジネジは好き放題増えるぞ?」

 「・・・・・」レーテは震えていた。

 「あの青年はとても純粋だな。そしてお前はあの青年を好いている。」カラは言った。「素晴らしい。実に素晴らしい。やっと、私の言いたい事が、伝えられるかもしれん・・・。」

 「やめろ・・・絶対にやめろ・・・・。」

 「いいか?どんなに正義を唱えても所詮は言葉、殺してしまえば全く意味が無い。どんなに純粋でこの世の奥を知る人間でも、何度も暴力を振るえば、正しさなど分からなくなり、この世を呪うようになるだろう。そのいわゆる正義の脆さ、馬鹿馬鹿こそに、愚か者には理解できないこの世の真実があるのだ。」カラはヘルモを指差した。「それを今から証明してやる。」ヘルモはこれから何をされるだろう、と瞳が泳いでいる。

 「うううう!」レーテはうめいた。「たとえ、人々に恨まれてもいい!ヘルモを助ける!だから、お前を殺してやる!」そしてファレンの傘を降った時、マルカレン=ゲゲレゲを入れた瓶が激しい光を放って割れた。マルカレンの胎児がレーテの脚に掴まり、レーテは驚いてまた立ち止まる。「・・・・え?」

 「さすが探知機は敏感だな。ゲゲレゲを起動したのだ。」カラは言った。「やつらはネジネジを食らって次々と子分を作るだろう。せいぜい頑張れ。惨めなネズミのようにここから逃走するのがよいぞ。」

 「貴様、仲間までも利用して・・・・」

 「本体さえ生きれば、なんでもいいのだ。やつらはもともとただの愚民だ。」カラはそう言って天に手を伸ばし、そのまま空の中へと消えていった。



 轟音。



 鳴き声。

 ゲゲゲゲゲゲゲゲゲレゲゲゲゲゲ。



 「レーテさん、レーテさぁぁん!」

 ヘルモの悲鳴。彼はネジネジに連れ去られる。



 「ヘルモ!」

 すぐに見失う。


 そして掴まれる。親玉ゲゲレゲの巨大な腕に。レーテの体は持ち上がり、勢いよく空高く空高く昇っていく。振り返ればなつかしい巨大な顔。異常な目と白いマスク。その口は開かれようとしていた。幸いファレンの傘を持った腕は自由だ。その傘は熱く燃えている。レーテは仮面の下で笑みを浮かべ、言った。


 「久しぶりじゃないか。」

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