17
「レーテ。」面接室でカラ王は腕を組みながら言う。「お前は随分と成長した。高度なクラスに行ってもよいだろう。どうだ?」
「あ、はい。もちろん行かせていただけるのなら・・・」レーティアンヌはおずおずと言うが、やっと高次の戦術が学べると思って喜びが湧き上がっている。
「よしよし。」カラ王の左目は笑う。「何か他に気がかりな事はないか?」
「あー・・・大したことではないですが一つだけ。」
「何かな。」
「親友にクイーナ・ペルデンガスがいるのですが、彼女とは離れ離れになるということですか?」
「ああ、うん。」カラの目はニコリと笑った。「もちろん、わかっている。その件も処置済みだ。」
「処置?」
カラは手招きをした。面接室の扉が開かれ、現れたのは、かつてはクイーナであった、渦を巻いた顔の人間であった。
「クイーナ!?」レーティアンヌは叫んだ。クイーナの後ろから堕魔人ネジネジとその感染者が数人現れる。「というか・・・え・・・ネジネジ・・・どういうことですか!カラ王様!なぜここに堕魔人が!」
「私は魔術のマスターであるから、堕魔人をも掌握できる。」カラ王は言った。「そして、こんなこともな。」カラ王は細長く大きな指でクイーナの顔をつかんだ。
「カラ・・・王・・・様・・・?」
轟音と共にカラ王の手のひらから紫色のエネルギーが放たれ、クイーナの頭は砕け散り、体は焼き尽くされ、人型のススが地面に大きく広がった。
「・・・・・ッ・・・・」
レーティアンヌはひっくり返った声が思わず出た。
「わからないか?レーテ。」カラ王は言った。「これはメッセージだ。私は愛を持って、君に大事なことを伝えるために、君の親友をまず魂から殺し、次に肉体を滅却した。」
「・・・・・ふやあああああ!うやああああ!ああああああ!」
レーティアンヌは頭を抱えて叫び出したのでカラ王は呆れたように眺めた。
「・・・まだまだ未熟だな。せっかく高度の戦士になれるチャンスだというのに。私が何を伝えようとしているのか、わかるまでは監禁だ。」
「ああああああああああ!・・・・・あああああああああああ!」
叫ぶレーティアンヌの後ろから何人かのネジネジ感染者が押さえ込み、そのままどこかへ連行しようとしていた。
「!」
戦士レーテは目がさめる。悪い記憶だ。とてもとても悪い夢。目の前は眠るヘルモの背中。その背中から、昨日の出来事を思い出し、レーテは悪夢の気分から解放され、ふふふと笑った。この私が、心身ともに化け物の私が、見ず知らずの少年と愛に溺れてしまうとはな。自分がまだ人間を捨てていない事にどことない安堵を感じていた。でも、同時にヘルモが心配でもあった。なぜならば・・・。
「いいのか、私で。」
ヘルモが目覚めて、小人の作ってくれた朝食を共に食べていた時にレーテは問いかけた。「私は悪いものを常に背負っている。女性としての能力もない。いずれ君が不幸になるかもしれない。それでも、いいのか?」
「特に、迷いはないです。」ヘルモは丁寧に答えた。「レーテさんが背負ってる事は知っています。」
「そうか・・・。」心配とはいえ、受け入れるしかない。そう思いながらレーテは茶をすする。
「お茶、おいしいですね。」ヘルモは言った。
「ああ、そうだ。あの作ってくれた小人は、生前お茶が好きでよく茶葉を集めたりしてたらしい。荷物も運んできたのだ。」
「そうなのですね。」ヘルモは茶を飲んだ。「いつでかけます?」
「いつでもよかろうが、しかし長居も無用だな。ゲゲレゲの胎児は?」
「ここにいます。」そう言って胎児をひょいと摘んでレーテに見せる。「しかし俺はこれがマルカレンに見えて仕方がないです。」
「ほう・・・。」
「そもそも子分ゲゲレゲだったこいつは、何にもなかったらからマルカレンを長い間貪っていた。だからもとはゲゲレゲでも、マルカレンだったときも多くあると思うんです。長い間友人だったから、そんな匂いがするというか・・・。」
レーテは歪んでいない方の口で微笑んだ。「友情、か・・・。」
「レーテさんは友達はいたんですか?」
「ああ。いた。だが、カラに殺された。」
「・・・・。」ヘルモはしばらく黙ってしまった。
「すまないな。暗い話ばかり。」
「・・・いえ。色々想像以上の人生を歩んでいるんですね。」
「もともと私があんまり君子ではなく、不器用だから、不幸を呼んでしまっているのかもしれん。」
「そんな!レーテさんは尊敬する戦士ですよ。いまだ、かなわない。」
「ヘルモ。お前はいずれ私を超えるんだ。」レーテは言った。「私も君と同じ感覚をもっていたが、君は優れている。」
「レーテさん・・・。」
「さ、行こう。」
ヘルモはしばらく黙って、そしてゲゲレゲ=マルカレンの胎児を持って立ち上がった。小人たちに一礼をして、レーテの後を追い、秘密の館の外へと出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます