中間の部・1
ゲゲレゲ編
18
「おやおや、今度はお連れさんですか。」暗い部屋で人格再定義士アラスタが微笑んだ。「それと禁じられた胎児が一人。」
「その胎児の事で頼みがある。」
「じゃあそのお連れさんは誰だ?」
「ヘルモ・グリーンブル。こいつを引き取った時そばに居たのを覚えているだろう。唯一の親友を失い村を出たので私が戦術を教えている。」
「ほう・・・?それにしては親密そうだな・・・?」
アラスタがニヤニヤと笑う。レーテもヘルモも罰が悪そうに沈黙し、ヘルモは唇を噛んで拳を握る。
「大切な、パートナー、か。羨ましい。」アラスタはとても面白いものをみたかのようないやらしい口調で言った。
「・・・そんな事より要件だ。」レーテはぼそぼそと言った。
「はいはい。なんですか。」
「この胎児はゲゲレゲの魔術でできている。だからゲゲレゲの魂のパターンを持っている。これを用いて、あの神出鬼没で悪名高いゲゲレゲの居場所を探し当てる事はできないだろうか。」
「うーん・・・」アラスタはゲゲレゲの胎児をレーテから受け取り、指であちこち当てたり耳を当てたりなどして確かめている。そして胎児をレーテに返し、後ろの棚をがさごそがさごそと探し、瓶と4つの玉と一枚の紙を取り出す。
「これはパターン反転の魔術。」アラスタは赤い玉を取り出して言う。「そしてこれは魂のパターンを検波する魔術。」青い玉が二つ。「そしてこれは、二つの青い玉の魔術を加算させた結果、ゼロに近づくほど光り出す魔術。」白い玉。
「つまりどういうことだ・・・?」ヘルモは言った。
「この胎児とゲゲレゲは魂のパターン、周波数が同じです。だからこの胎児の方の周波数を逆にして、周りの人間の魂のパターンと足し合わせる。もしもゲゲレゲがそばにいたら、足しあわせた結果ゼロになるでしょう?すると白い玉が光るという仕組みということです。」
「・・・?」ヘルモは首を傾げた。
「これは専門知識だから若い者には早かったですな。」アラスタはそう言って青い玉を瓶の表面に、赤い玉と青い玉と白い玉を組み合わせたものを瓶の中に放り込み、その中に胎児を入れた。「要はゲゲレゲが近づくと光るってことです。」
「・・・なるほど。」
「ただし」アラスタは言った。「これは結構大雑把にしかわかりません。ゲゲレゲに非常によく似たパターンの別人でも反応するかもしれない。しかも近くといってもまあ、半径20メートル以内のどこかって感じで、本当にここらへんの街にいるようだ、ぐらいしかわからない。それにゲゲレゲが人間の姿をして潜んでるとも限らないしな。せいぜい気をつけてください。」
「ありがとう。でも非常に助かる。」レーテはそう言って瓶を受け取った。
「あとこれ、ゲゲレゲについてまとめた資料です。ちょうどコピーがありました。気軽にとっといてください。」そういってアラスタは机の上の紙を指差した。
「なあ。」ヘルモはアラスタの館を出た時にレーテに尋ねる。「アラスタってやつとはどうやって知り合ったんだい?」
「最近だ。」レーテは言った。「どうも奴は私の動向を追っているらしい。私が堕魔人を無力化するとすぐに現れて人格再定義してくる。最初は胡散臭く感じたものだが、ネジネジの気配を私から感じたのが理由だそうだ。」
「ああ、なるほど。」
「この顔な。」仮面をつけたレーテはフッと笑った。「アラスタはネジネジの人間の頃を知っている。もとは優秀な人格再定義士でありながら極めて強い堕魔人に陥り、再定義士の汚名を被せた悪人。人格再定義というのは嫌われやすい仕事だ。何しろ一旦だめになった人間が対象とはいえ、人の人生を簡単に操作してしまうからな。だが、アラスタは自分の仕事には裏世界なりの誇りを持っていた。だから許せなくて、ネジネジの気配を虱潰しに追っていたそうだ。」
「そうなのか。」
「私はネジネジ本人の頭に一撃を与え凹ませた情報をアラスタに与え、ネジネジを倒すという希望を条件に、私に情報を与えるようになった。そんな感じの仲だ。」
「わかった。」
「さあて、そのアラスタが作ってくれたこのゲゲレゲ探知機はうまく動いてくれるかな?」レーテは瓶を持ち上げた。「どうやら、北のほうに気配を感じるようだ。わずかだが、光っている。」
「そうですね。」ヘルモは答えた。「いよいよ、ゲゲレゲか・・・。」
「絶対に油断するな。」レーテは言った。「あいつは動きが遅いが相当強い。体力はちゃんとつけとけ。」
「はい。」ヘルモは伸びをした。
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