13

 「実戦を開始しよう。」カラ王は言った。「まずレーティアンヌとクイーナで戦ってもらう。」

 レーティアンヌとクイーナは礼をする。茶髪でつるんとした髪の毛のクイーナが、「かわいい顔してるじゃない?」と挑発をする。

 「それでは用意。」と言いながらカラ王は槌を振り上げる。

 カン。戦いの鐘が鳴らされた。レーティアンヌとペイラムは戦い始める。片や万年筆を、片や人形を持った腕を振るい、激しい火花を散らす。クイーナはわけもわからず人形を激しく振り回しているが、レーティアンヌはその動きの一つ一つを丁寧に読み、自分に向かおうとする波動をかわしたり耐えたりした。そしていつの間にか、というほど一瞬の隙をついてクイーナの喉元に万年筆を突きつけた。

 「驚いたな、レーティアンヌ。」カラ王は言った。「すでに高い戦闘技術を身につけているな。」

 「この万年筆の持ち主がいろいろ教えてくださいました。」レーティアンヌは言った。「親を失った私のために。」





 「えい!えい!」幼きレーティアンヌは万年筆を振って、ファレンの傘の柄をぺちぺちと殴る。「えい!」

 「まあ始めのうちは戦いはできんな。」ファレンは笑っていた。

 「そんなことない!」生来の気性である負けず嫌いの気がレーティアンヌの心を離さない。「私、強い!強いもん!」

 「そうかそうか。」ファレンは傘の柄で万年筆を受けながら微笑む。

 「えい!」

 万年筆から只ならぬエネルギーが放出され、ファレンはとっさに避ける。めきっという音がしたのでファレンが振り返ると、柵の一部が崩れていた。

 「なんと・・・。」ファレンは苦笑いした。「これは油断できぬな。」

 「言ったでしょ。」レーティアンヌは慢心の笑みを浮かべる。「私、強いって。」

 「そうかもしれんが」ファレンは傘をしまった。「力ばかりではなく洗練させんといかん。」

 「隙あり!」レーティアンヌは嬉々として万年筆から力を放出した。

 「こら、それはいかん!」ファレンは怒鳴った。レーティアンヌの力はファレンの腕に命中し、ファレンの腕の表面が服ごと切り裂かれた。

 「・・・・・・・!」レーティアンヌは息を飲んだ。

 「レーテや。」ファレンはちょっと厳しく語りかけた。「堕魔人は、容易に会話の通じる相手ではない。だからこそ、相手を出し抜くような卑怯な手に頼ってはならん。奴らは狂っているからこそ、そういうのを敏感に感じ取る。」

 「ご、ごめんなさい・・・。」

 「わかればよろしい。」ファレンはうなづいた。そして傷ついた右腕を見る。

 「ファレン・・・?」レーティアンヌは驚く。ファレンの傷ついた右腕からは、血肉の代わりに金属片が飛び出していたからだ。

 「気づかれてしまったな。」ファレンは苦笑した。「私は、当時最先端の魔術を駆使して造られた魂で動いている自動人形だ。人間ではない。」

 「そうなの・・・。」

 「傘がなんで私の偶像(idol)なのかというと、同じ部品が入っているからだ。」

 「私・・・知らなかった。」

 「どうかね、レーティアンヌ。こんな金属じじいは。」

 「・・・素敵。」レーティアンヌは顔を赤らめた。「伝説だけだと思ってたの。自動人形って。本で読んだことがあったんだけど・・・。」

 「堕魔人が増えてから、暴走を恐れた人間に壊されてしまったのだ。」ファレンは嘆息した。「まあもっとも、私ほど健やかに長生きしているのも珍しいんだろうけどな。」

 「私、誇らしいです。」レーティアンヌは言った。「私の好きなおじさまが、自動人形!いつか私が立派な戦士になったら、自動人形から戦いを教わったんだって自慢できる!」

 「ははは、ちょっとそれは怖いかな。」ファレンはしかし笑っていた。「でもありがとう。嬉しいよ。レーテや。」

 「うん!」





 「戦いに慣れてきたじゃないか。」

 金属の鎧で覆われた戦士レーテはヘルモに言う。レーテのそばには、マルカレン=ゲゲレゲだった胎児がだらしない笑顔を浮かべながら眺めている。

 「ありがとうございます。レーテのおかげです。」ヘルモは木の棒を素振りしている。

 「休んでいいんだぞ。日が暮れるぞ。」

 そう言ってレーテは胎児を持ってそばの洞穴に入る。洞穴の外からヘルモの素振りが数十分間続いたが、やがて、疲れたのか汗だくのヘルモが洞穴に入ってくる。

 「レーテさん。」ヘルモの声が洞穴で木霊する。「あなたのその恩師ってどのような人だったんですか。」

 「今の若いひとに言っても知らないのかもしれないが、自動人形だ。」

 「自動人形・・・・?」

 「魔術を駆使して作り上げた魂で動く人形。私の恩師はそのなかでもとびきり優れていた。とても献身的で、堕魔人が現れ始めた時も彼らの退治に一生懸命つとめていたという。」

 「はあ。」

 「だが、人工魂を人々は恐れた。なにぶん彼らは人間とはちょっと違うから、何をしでかすか分からないと怯えていて、それと堕魔人の恐怖が重なって、次々と自動人形たちは駆逐されてしまった。恩師だけは人間に上手に擬態して逃げおおせたのだ。」

 「そうなのですか・・・。」

 「私の母は私を産んだ後に堕魔人になり、父を殺して逃走した。父はおそらくそれを予測していた。彼は父と古い知り合いだったそうだ。両親を失ってから、恩師は私を守り、鍛え、育て上げたのだ。」

 「恩師は今どうしているのですか?」

 「この傘を見てわからぬか?」レーテは小間のない折れた足の傘を掲げた。「彼は死んだのだ。」

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