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 連れ去られたあの時、ヘルモは自分の事をはっきり見た、と、ネジネジたちの運転するトラックでレーテは思い返していた。オルガノは全く気づかなかったが、その時、ヘルモは二回意味深な瞬きをした。まるでそれはレーテにとっての意味があるかのようだ。ヘルモは言葉では、カラに忠誠を誓い引き渡したかのように思えた。だが、"そうではないですよ"とヘルモから言われているような気がした。

 視線を感じたが、それはトラックの荷台の中のレーテを監視するネジネジの一人であった。レーテはふ、と笑い問いかけた。

 「お前はどういう気持ちなんだ?」

 ネジネジは答えない。

 「お前が物を言ったのを見た事はない。まあ厳密にはお前はネジネジではないのだが。」

 ネジネジは答えない。

 「私は、何も被害を生み出す前からこの魔の力と適応して、このように人を保てている。ヘルモもじきにそうなる。だが、お前はすでに多くの人を殺めてしまったし、その力を使って権力すら握ってしまったのだろう?」

 ネジネジは黙っている。

 「堕魔人は大抵元に戻る事ができない理由は、そこなのだろう。」ゲゲレゲのまま死んだオドをレーテは思い浮かべた。「だから、カラもお前も、もう後戻りはできないわけだ。」

 この荷台ではトラックが道の段差でちょっと跳ねたり揺れたりする音しか聞こえない。ネジネジに洗脳された彼らを見て何を言っても、あの秘密基地の胎児の前の独り言とやってる事は変わらないな、と思ってレーテはすこし懐かしい気分になった。 

 「なあ。」レーテは今度はネジネジの素体の村人に問いかけた。「本当は苦しいんだろう?」

 やはりネジネジは何も答えない。

 「これを見たまえ。」レーテは仮面を外した。その時ネジネジは身構えるが、単に仮面を外すだけなのを確認したネジネジは元の体勢に戻る。仮面の下のレーテの顔は、左半分がねじられている。「お前と私はちょっとだけ同じだ。だから痛みは多少わかる。あれは本当に痛い。」ネジネジはレーテを見るだけである。

 ふと、レーテは気付いた。自分は、ネジネジになるための魔力増強剤のような液体を注入されただけである。だが、本当にそれだけなのだろうか。どこかに微弱ながらネジネジの洗脳の魔術が眠っていて、それを意図的に増幅したら彼らと同調できるのではないか。乗っ取られる危険のある思いつきであったが、この状況を好転するにはこの方法しかない。

 レーテは人差し指を左顔のあちこちに当てた。どこかに怪しいところはないだろうか。静かにその部位を探し求めた。あった。ここを増幅すれば・・・だが、ちょっとずつだ。あまりに大きくするとレーテ自身がネジネジの傀儡になってしまう危険がある。レーテはその魔術を少しだけ、制限をかけながら目覚めさせる。

 途端に様々な情報がそこから受信される。その情報は思考回路そのもの、とでも言えるようなシンプルなものであったが、言語化するならば、"レーテを捕えよ" "カラ魔王や部下には従え" などの命令も含まれていた。気をつけれねばならない。これは自分のものではないと思わないとただちに取り込まれてしまう。だが、明らかに監視しているネジネジの反応が変わって、何か戸惑っている様子なのが見えた。おそらく、自分と同質の仲間だと認識してしまったのだろう。ここまではいい。だが、これだけでは何ら発展はない。

 "操らねば"

 そう、レーテの左肩の魔が囁きかけた。その通りだ。だが、今の自分にはなぜかできない。お前ならそれをできる気がする。レーテは魔に囁いた。その仕事はお前に託そう。左肩から細い触手が伸びた。その触手は顔を伝ってレーテのこめかみに繋がった。触手はそのまま泊まり、魔は、ネジネジから得た情報を自動的に計算をしている。それも邪悪な方向に。

 "私はレーテ。攻撃目標のレーテ。でも私もお前たちと同じになった。" そう、もう一人のレーテがネジネジたちに呼びかける。"だから、牢屋に入れずに共にカラ王の元に帰ろう。しかし、誤解を与えるかもしれないから、我々が王に説明できるまで、こっそりと城に忍び込ませるのだ。"

 そうやって容易な侵入にするわけである。自分では思いつかない奸計である。

 "さあ、行こう。"

 するとネジネジたちはこくりとうなずいた。

 しかしレーテはふと思いついた。

 "しかし、その前に、私の元々の仲間も引き連れよう。彼らも後で仲間にするのだ。"




 「なるほど。」

 レーテの経緯を聞いたアラスタはうなずいた。「逆に操り返したということですな。」

 「そうだ。」レーテは答えた。「手段は選ばぬ。それに仲間になってるだけだから、ネジネジの親分の指令を横取りしたわけではない。だから問題は起きないしばれないだろう。お前たちを仲間にする、というのも嘘だ。」

 「なるほどこれで、城に侵入しやすくなりましたね。」

 「ああ。」

 ヘルモが胎児を持ってるのを見てレーテは驚いたような目をした。「それを偶像(idol)にしたのか。」

 「私がになるためにはどうしてもこれが必要でした。」ヘルモは言った。「もうあまり、あなたを殺したいとは思いませんね。殺したいというのが、なんだろう、本当は違う感情であることに気づいたから。」

 レーテはふふ、と笑った。「そうかそうか。やっと前のヘルモのようになってきたな。」

 「悪い夢を見てました。」ヘルモはにこりと笑った。

 「意外とあっけなく戻ったな。」

 「早めに対処してくださったおかげですよ。」

 3人はトラックに乗ってカラの魔城へいく。

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