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 ヘルモとレーテの関係は劇的に良くなったのだが、アラスタはその理由がなぜなのかわからない。ヘルモはいつも申し訳なさそうにレーテの前に現れる。レーテが「なんだ、戦いたいのか?」と言うと、ヘルモは恥ずかしそうに頷く。「そうかそうか」と言ってレーテは立ち上がる。それからアラスタの目の前で激しい戦闘が繰り広げられるが、毎回当然の事ながらレーテの勝利である。組み伏せられたヘルモはなにか憑き物が落ちたかのような腑抜けた顔で息を吐いた。

 「手加減したな。」レーテは笑った。「強くなった証拠だ。」

 正直、アラスタは気まずくなってきた。まるであれが悲惨な戦いではなく、愛を交わしているかのように見えてきたからだ。

 「あの、その、さあ。」ヘルモが去った後、アラスタは言った。「何かあったんですか?」

 「ちょっといいことがあったのだ。」レーテは手紙の事を言わない。

 「・・・・」おもしろくないものを見るかのようにアラスタは頬杖を突く。「いちおう私も人格再定義の資料が欲しいんで聞きたいんですけど。」

 「簡単な事だ。ヘルモはカラのせいで私に怒りを抱く人間になってしまった。だから、私はその気持ちを受け止めた。そしたら彼はその事を素直に告白してきたのだ。」

 「そういう話を聞いてからますます気まずいのですが・・・まあ、いいでしょう。」アラスタはお茶を飲んだ。「つまり単純な事で、堕魔人の衝動を受け入れたら、おさまってくるというわけですね。」

 「そうだな。要するに攻撃も憎悪も人間の本能として当たり前にあるものだ。そこに流せばよかったのだ。」レーテもお茶を飲む。仮面の下顎の部分は外せるのでそこで飲めるのである。「今や見ての通り、ゲームでもしたいような気持ちでヘルモは私と戦うようになった。要は衝動の使いようなのだろうな。まあちょっとその変化に戸惑っているようだがな。」レーテはふふふと笑っている。

 「そ、そうですか・・・。」アラスタはあまり事態を飲み込めなかった。

 「おや、またヘルモが来たようだぞ。」レーテは後ろを振り返った。「まだ怒りが収まらないのか。もう一度付き合ってやろう。」

 それが怒りなのか単にレーテに会いたいだけなのかアラスタはもうわからなくなってしまった。チェッと舌打ちしながら彼はソファに蹲った。



 

 「ヘルモ。おーい、ヘルモ!どこにいるんだ!」

 野太い声が外から鳴り響いた。聞き覚えのある声である。レーテがレーティアンヌだった頃に、カラの魔術学校の助手でひどく痛めつけてきた筋骨隆々の堕魔人だ。 

 「やっぱり予知通り堕魔人というわけだな。」アラスタはマルカレンの胎児を持ちながらレーテに言うと、レーテはこくりとうなづく。

 「あれはお前のリーダーなのか?」レーテはヘルモを見て訊ねた。

 「ああ。先生でもある。」ヘルモはレーテに憎しみを込めた目でうなづいた。レーテは知っている。カラに植え付けられた洗脳は解かれるはずがない。ヘルモは昔の良き思い出を捻じ曲げてでも生存しようとしたからだ。だが、それゆえにヘルモは今や葛藤している。憎しみの目を持ちながらレーテに手を出そうとしないのがその証拠だ。

 「どうするんだ?私がここにいる、と通報するのか?」レーテは言った。

 「もともとレーテ、ここにいると、カラ王から言われ、僕はここを希望した。」ヘルモの言葉でレーテとアラスタは目を合わせる。やはり行動がバレていた。「カラ王は喜んでいた。これであいつもわかってくれる、と。」

 「なるほど。」レーテは窓を見つめて言った。「ヘルモ。私と一緒にあいつと会いにいかないか?」

 「正気か?」アラスタは思わず口走った。

 「お前には選択が必要だよ。」レーテは言った。「それがカラには分かってない。いいじゃないか。私をあいつのもとに引き渡し、自分はカラの魔城に帰る。それはそれでお前は楽になる。それとも、昔を思い出す旅に出かけるか?それを選択する事になる。」

 「しかし、レーテさん、あなた自ら無用な戦いをするのですか。」

 「これは賭けだよ、アラスタ。」レーテは言った。「ヘルモが私側についても、あいつ側についても、私は魔城に忍び込む事ができる。ただ、私が捕まったら、アラスタ、君とはお別れだ。」

 「・・・・。」アラスタは黙り込む。

 「なるほど・・・。」ヘルモはニヤリと笑う。「それなら行こうじゃないか。」

 アラスタはヘルモを一瞥した。

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