第20話
わたしは楽しいことがすき。ふしぎなモノも好き。いろんな場所で色んなものをさわったり食べたりけったり考えたりすることが、大スキっ!
さぁ冒険の始まりだ。
水脈はコンクリートに閉ざされ吹く風はときおり強く、桜が散ったあとは侘しいだけの、広大なる大地。
地下迷宮の冒険は終わった。蒼と金のカギ(バスの周遊切符)で、空飛ぶ船(飛びません)でたった独りで前国王(喜一郎)の城にも辿り着いた。炎は街を焼き払い、しもべは魔王によってみっつに引き裂かれたのだった。
つまんない。
しょうがないから一緒にあるく。
その先は十字路。どこにでも行けるはずなのに通称、三毛ドラはいつもどおり右に曲がろうとする。
「だぁめ! 今日はまっすぐいくの!」
しっぽをひっぱるがドラゴンは動じない。
おっきい。すごくおっきい門扉。さすがは魔王の隠れ家だ。
……レベル2ではとてもまだ無理……
勇者は戸惑うも、三毛ドラはあくびをしながら悠然とその門を潜る。あれれ? おかしいな。あらら、あれれ? あらあらら。
「静乃? はてはて? ……あれあれ、かわいいお客さんだこと」
魔王はにっこり微笑んだ。
*
「どうしても俺はこの場所なのか?」
「しょうがないだろ? 俺は手がこんなだし……」
「それは自分でやったんだろうが」
「……記憶にない」
「記憶にないっておまえ……」
「しょうがねぇだろ? 俺はあれだ……組織に口封じのために毒薬を飲まされ、組織が知らなかった薬の副作用によって脳の記憶障害に陥り、そのため目覚めると自分の行動を……」
「ええ加減にしんしゃい。おしゃべりもそこまでじゃけん。おじいちゃんもあきらめんさい。免許証どころか日本国籍もないんじゃけん。そこで阿波踊りの格好で横に寝てたら外からは見えんけん。恨むんじゃったら、ゴルフの道具入れるのに改造して2シータ―にした娘婿をうらみんしゃい」
「山梨で一回交代だからな!」
「はいはい。つかなんでじいさんまで広島に行くんだよ? 俺は家が無いから取り敢えず、彼女んとこにやっかいになるけどさ。もう捜査もやめるんだろ?」
「ああ、ボール七個集める前にラスボスが死んだからな。もうやることはない。でもまだ、ゾンビだからなぁ、福島に帰るわけにもいかん。アリゾナキッチンに行ったから
「三人とも広島にいかんといけんのじゃけん。仲良くいこうやぁ。目的もなし、ゆっくりぶらぶらでええんじゃん」
「目的は一応ある!」
「へ?」
「え?」
「尾道で尾道ラーメンを食う。これだけは譲れん!」
「はいはい」
「ほいほい」
その先は十字路。どこにでも行けるはずなのに。
猿と豚とカッパを乗せてビートルは広島へと向かう。
急げ!
※
静乃は静乃専用座布団で金目鯛の白焼き。
愛依は栗ようかんとコーラでほっこりと。
因みに金目は伊豆、栗はカナダ産である。
「ほかほか、よし君に新しい彼女ができたんね」
「うん。赤い彗星のカープ女子」
「話ばっかり聞くだけで、弓絵ちゃんにも会って見たかった……けど、そう言う事情だったんやねぇ。テラスハウス的なあれじゃろうか? ちょっとさみしかけんどしょうがなかね」
散りきった庭はどこか物足りぬ寂しさで、かわいい3匹の猫は、束の間、肌を寄せあった。
「それで喜一郎さんはまだ浅草に?」
「うん。アリゾナキッチンと海老フライともんじゃ」
「ほかほか。海老フライは食べたかねぇ」
「いらん。ハンバーグが食べたい。それよりなんで知ってるの?」
「だって魔王じゃから、なんでもしっとるよ。愛依ちゃんさっきそう言うとったろぉぉ?」
「ふぎゃぁ」
魔王のくすぐり攻撃に、愛依はひっくり返って笑い転げる。静乃は我関せず、カナダ産の栗を狙っていた。
※
おじちゃんは死んじゃった。死んじゃった。死んじゃった。死んでしまった。
申し訳ない。もうしわけない。申し訳ない。もうしわけない。申し訳ない。もうし……
わけない。
はぁ、DNAの提供なんか意味なかった。
ショートカットになんかしなきゃよかった。
意味がなかった。申し訳ない。もうしわけない。申し訳無い。はぁぁぁあ。
保険など無駄。やはり私がやるべきことをやるべき季節にやらねばならない。
私がおじちゃんを大好きだったのは、高校まで育ててくれたからではない。
恐らくそれはタコヤキ。たこ焼きの味。駅前で買ってきてくれた懐かしい味。銀紙に包まれてまだ熱い、甘辛いソースの味。私が味覚を失うまえの、
最後の……舌の……記憶。
おじちゃんは駅前に車を止めて、いつもひとりでやってきた。
少しドン臭い父と違って、おじちゃんは都会的で颯爽として朗らかに見えた。
そう見えた。幼い頃の私にはそう見えた。あぁかっこいいなぁとあこがれた。
謎だらけだが、わかったこともたくさんある。
議員の山林は几帳面な性格で、重要なことには全て赤い傍線が引かれていた。
おじちゃんはこれまでの人生をどんな思いで生きてきたのだろうか。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
もう死にたい。でもまだ死ねない。だから隣で寝ている男は殺さない。
警察イヤイヤ。やくざバイバイ。赤ちゃんハイハイ。ゴキブリ……
まちどおしい。その季節が待ち遠しい。桜は散り、あと、あともう……少し。
16歳のあの日、その先は十字路。どこにでもいけるはずだった。
私は迷わず家出した。私はいつも行動を起こしてから後悔をする。
この先は十字路。どこにでもいけるはずだから、私はやはり……過去に行く。
※
「もうそろそろ交代だっ!」
「まだ30分しかたってねぇじゃねーか! なんだかんだでじいさんよりも俺のほうが後ろだかんな! 昼まで辛抱しろ!」
「もうええ加減にしんしゃい。運転するのが一番疲れるんじゃけん! 男はこれじゃけえ、あかん。静岡なんじゃけ、鰻重と肝吸いでも食べて休もうやぁ」
「うなぎは好かん。もうちょっとサッパリしたのが食いたい」
「俺も川魚系はちょっと……皮のほうが気持ちわりぃし……なんかこうセンスのいい…………」
「誰のガソリン燃やして車が走りよるんでしょうか? 誰のお陰で昼飯が食えるのでしょう~~~~か?」
男達は、黙るしかない。
国道を一応は避けて、古いビートルは疾走する。
それは心電図の波のようにゆるゆると、気長に南下を続けている。
呉に着くには恐らく一泊が必要で……
後ろの席が一番有利だとは、まだ誰も気付いてはいない。
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