「求められるのはエンターテインメント」──角川つばさ文庫編集長に聞く、児童向け作品の世界

KADOKAWAの児童向けレーベル「角川つばさ文庫」の主催する小説新人賞「角川つばさ文庫小説賞」が、第6回よりカクヨムからも作品を応募できるようになりました。
同賞は、7月1日(土)より作品応募を受け付けています。

今回はカクヨムでの応募受付が始まったことを記念し、角川つばさ文庫の編集長にインタビューを敢行しました。様々な話が飛び出た今回のインタビューは、角川つばさ文庫小説賞を狙っている人にとって、応募するにあたっての重要なヒントがいくつも隠されていることでしょう。

また、作品応募を考えていない人や、この機会に初めて角川つばさ文庫というレーベルを知った人も、大人になるとちょっと遠ざかってしまう「児童向け文庫」の世界を、このインタビューから覗いてみてください。



──まずは「角川つばさ文庫」というレーベルについて教えてください。

 角川つばさ文庫は2009年に創刊しました。
 角川文庫65周年の機会に、十代の読書体験を調べたところ、角川グループの発行するさまざまなジャンルの文庫が、小・中学校でたくさん読まれていることがわかりました。そこで文庫を読む前の、さらに若い子どもたちに、「本を読むこと」を体験し、楽しんでもらいたいと「角川つばさ文庫」を創刊しました。
いまも子どもたち自身が読みたいと思う作品、子どもたちが自分の物語だと思える作品づくりを目指しています。

──自社作品が子どもたちに支持されていると判明したことがきっかけで誕生したレーベルなのですね。そんな経緯で誕生した角川つばさ文庫ですが、レーベルで刊行している作品やシリーズにはどのようなものがありますか?

 角川つばさ文庫の一番の代表作は、『ぼくらの七日間戦争』です。1985年に角川文庫で発売された作品ですが、いまも角川つばさ文庫の人気作です。
『ぼくらの七日間戦争』宗田理/作 はしもとしん/絵
 つばさ文庫では、読者の子どもたちを招いて、意見を聞く試みをしているのですが、小学3年生の女の子が、『七日間戦争』を手にとり、「悪い大人をやっつけるんだ!」と嬉しそうにいっていたのが心に残っています。ぼくらシリーズは世代を超えても、子どもたちが楽しんでいる物語です。

 ほかには『オンライン!』『怪盗レッド』、角川つばさ文庫小説賞、第一回大賞受賞作『こわいもの係』、第二回大賞受賞作『こちらパーティ編集部!』、同金賞受賞作『いみちぇん』、女子に大人気の『1%』などの各シリーズがあります。

左:『オンライン! クリア不可能!? 悪魔のゲーム!』雨蛙ミドリ/作 大塚真一郎/絵
中:『怪盗レッド(1)2代目怪盗、デビューする☆の巻』秋木真/作 しゅー/絵
右:『1% 1 絶対かなわない恋』このはなさくら/作 高上優里子/絵


 また角川つばさ文庫は、オリジナルの小説だけでなく、『バケモノの子』『君の名は。』といったノベライズ作品、『ジュニア空想科学読本』シリーズ、『多摩川にすてられたミーコ』、『目がみえない 耳もきこえない でもぼくは笑ってる 障がい児3兄弟物語』といったノンフィクション作品、『銀河鉄道の夜』『坊っちゃん』『不思議な国のアリス』『新訳 メアリと魔女の花』といった名作と言われる作品も刊行しています。


──長く支持されている名作や一般小説の児童向け版といったものまで、角川つばさ文庫では幅広い作品を取り扱っていますが、これらの作品を楽しんでいる主な読者層は、どういった方々なのでしょうか?

 角川つばさ文庫は児童文庫になりますので、小学生から中学生を読者対象として本づくりをしています。一番多い読者は小学校高学年の女の子です。当然のことかと思いますが、やはり本を読むことが好きな子が多いです。
 また小学生なので、本を買うときは、保護者といっしょに本を買われる方が多いようです。子ども自身が選んで、保護者の方がその本を確認して、いっしょに買われているようですね。


──確かに、小学生だと、まだ自分のお金で買うのではなく、保護者の方に本を買ってもらうことも多いでしょうね。それでは次に、今までの角川つばさ文庫小説賞を受賞した作品について教えてください。

 第一回の大賞受賞作、「こわいもの係」シリーズは、前にもお話をしましたように、つばさ文庫の代表作のひとつです。
『四年霊組こわいもの係』床丸迷人/作 浜弓場双/絵
あさひ小では4年1組4番の子が「こわいもの係」になる決まりがある。主人公の友花は始業式の日、1年上の麗子先輩に呼びだされ、廊下のかべの向こう側にある、ひみつの教室「四年霊組」に案内された。そこで友花が出会う、ちょっと怖くて、すごくおもしろい事件とは!?

──という内容なのですが、選考委員のあいはら先生、宗田先生、本上先生のお言葉(※注1)からもわかりますが、小学生に親しみやすい内容で、おもしろい! ということが受賞の一番の理由になりました。

※注1・・・第1回角川つばさ文庫小説賞 選考委員選評より、下記に抜粋
あいはらひろゆき先生: まず大賞に決まった「四年霊組こわいもの係」ですが、これはまさに学園幽霊ものの王道を行く作品と言っていいでしょう。つばさ文庫の読者にもぴったりの作品と言え、今から人気シリーズ化が予感されます。明るく成長していく主人公の友花はもちろん、かわいい花ちゃんやクールな鏡子さんといったキャラクターたちも魅力的で、次々と起こる事件がテンポよく解決されていく展開も小気味よく、楽しく一気に読めました。これから、つばさ文庫の新しい顔に育っていってほしいという願いも込めて、大賞に選ばせて頂きました。
宗田理先生: 学校の怪談を題材にしながらも、ぞくぞくさせるだけのただのこわいもの話にはせず、ユーモラスに処理したところも新鮮で、読後感もよかった。こうした特長を伸ばしてテンポを良くすれば、シリーズ化も期待できる。以上のような理由から、「つばさ文庫」らしさ、というものも加味して、大賞には「四年霊組こわいもの係」を選んだ。
本上まなみ先生: 「四年霊組こわいもの係」は、子どもたちの(そして私も)大好きな怪談ものです。この作品はかなりライトで、ユーモアもあり、とても楽観的なところが美徳だと思いました。情景を豊かにビジュアライズできる力のある作風で、小学校生活が鮮やかに描かれています。いわくつきの北校舎、ヒロインが過ごす4年生の1年間=春夏秋冬を1話完結の連作スタイルで描いた、連続テレビアニメーション的な手法が、次第に登場人物たちのキャラを立ち上がらせていくことに成功。最後の終業式の章はちょっと胸きゅん感覚さえやってきました。シリーズとしてもっと読みたい気持ちにさせるところも頼もしいです。

 つばさ文庫にはたくさんの応募作をいただくのですが、正直なところカテゴリー・エラーな作品も多いです。
 小学生が読者であるということは、簡単なほのぼのしたお話を書けばよいということではありません。小学生にもわかる易しい言葉と短いページ数で、読者があきないような、おもしろい話を書かなければならないということを理解していただけたらと思います。


──いただいたお話から、角川つばさ文庫で求められるのは「児童向けエンターテイメント作品」であるということを強く感じました。それでは、それらと一般小説との違いはどのような点にあるとお考えでしょうか。

 一番大きな違いは、メイン読者が小3から小6の小学生だということです。
 一般小説ですと、読者さんもある程度、一般的な知識を持ち、さまざまな経験をしたうえで本を読まれているので、作家が描こうとしている世界を、うまく理解してくれることが多いと思います。
 一方で小学生が読者ですと、その子の経験に限りがあります。たとえば、通学電車に乗ったことがある子は、あまりいません。また友だちだけで映画やカラオケに行くというのは、珍しいことになります。大人にとってはあたりまえのことが、子どもたちにとっては大冒険になるのです。
 そういったことを踏まえて、作品のテーマを選ぶときに、小学生の経験から想像できるもの、興味があるものにする必要があると思います。
 また読者は小学生ですが、本の購入者は保護者です。そういう意味でも小学生にとっておもしろく、保護者にとって安心できる作品であることが重要になります。



──主なターゲットである小学生の子が読んで理解、共感でき、なおかつその作品が保護者にとっても安心できるようなものであることが大事なのですね。最後に、今回で6回目の開催となりますが、この賞でどのような作品がくることを期待されていますか?

 11歳前後の小学生を読者として想定した「エンターテインメント小説」が望ましいです。
 今後の希望としては、ミステリーパズル要素のあるもの、冒険もの、また小学生男児向けのものなどにも、幅を拡げていきたいと考えています。

──ありがとうございました。



「第6回角川つばさ文庫小説賞」一般部門のカクヨム応募は、2017年8月31日 23:59まで受け付けています。
くわしくは下記の記事をご覧ください。

kakuyomu.jp