「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト」カクヨム100選発表

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「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト」では、全部門合計8,687作品のご応募の中から選考委員である歌人・佐佐木定綱さんと俳人・堀田季何さんが選んだ受賞作品をついに発表しました。
kakuyomu.jp


また、今回は惜しくも受賞を逃した作品の中から、カクヨム運営や選者のお2人、更に歌人・渡邊新月さん、俳人・小谷由果さんをゲストに迎えて「短歌・俳句カクヨム100選」を選出し、歌人・俳人からの作品コメントをプレゼント致します。選出作品を一挙公開!

※順不同

【短歌一首部門】

ローファーの中に真っ赤な秘密在りペディキュア塗った足が浮かれて
著:蜂賀三月

隠されている真っ赤な秘密というのが良い。つま先まで興奮の熱に包まれているのだ。

佐佐木 定綱




ひかえめに3cmのサンダルにする会いたいんだよ走るよ今日は
著:薊屋ろむ
気持ちと行動が一致している。全速力で行ってほしい。

佐佐木 定綱




ワンルーム 週に一度の外出でくじらのように息継ぎをした
著:川野笹舟
たぶん外出してはじめて息詰まっていたことに気づいたんだと思う。くじらがうまい。

佐佐木 定綱




五歳児はカレーも強さで分けて呼ぶ「弱いカレー」はハヤシライスだ
著:夜桜くらは
子供の言語センスの素晴らしさ。人は強さも弱さも愛せる。

佐佐木 定綱




卒業してバンドも辞める先輩のアルペジオまだ拙いままで
著:森 退子
卒業まで頑張ってたのにあまり演奏の上手くない先輩。こういう先輩すき。

佐佐木 定綱




戦争が終わらない今日この部屋でバチンバチンと響くスイッチ
著:瞳
今この瞬間、同じ時を生きている。暗闇も光も、自分たち次第なのだ。本当は。

佐佐木 定綱




えへごめん馬鹿だからさって笑う口は貴様の脊髄を断つためにある
著:壱単位
どんどん断ってこ。

佐佐木 定綱




「あのちょうちょ、お父さん」と言う母と 探し足りない気がする私
著:安城
亡くなったすぐ後に見つけたちょうちょを即父認定した母。私の温度差もいい。

佐佐木 定綱




駅前で串カツ田中だけ光る 建てたばかりの戸建てに帰る
著:山下
串カツ田中も、自分の頑張った結果の戸建ても、光ってる。

佐佐木 定綱




制服のオセロは白が優勢か教壇上にも初夏の風吹く
著:芹川 直
先生が見ている季節感。ぼくはずっと寝てたのでこの感覚に驚かされました。

佐佐木 定綱




ビジネスホテルのドライヤーみたいな溜め息 そこまでしなくても
著:岩永 美知子(いわなが みちこ)
本当にたまに疲れ切って死の一歩手前みたいな溜め息のドライヤーあるよね…

佐佐木 定綱




すりきれたパスケースに居るスナフキンごめんね行き先仕事ばかりで
著:巳波 叶居
おれも本当は旅に行きたいんだ。「すりきれた」がうまい。

佐佐木 定綱




目を閉じる父の横顔照らしだすスタッフロール下から上へ
著:トーセンボー(蕩船坊)
感動してるのか疲れながらも付き合ってくれたのか。映画館で一緒に来た人の横顔にハッとしてしまう一瞬。

佐佐木 定綱




水泳が得意だった祖父ちゃんが少しきつそうにしてる棺桶
著:六畳庵
デカい祖父ちゃんへの挽歌。「少しきつそう」がとても良い。

佐佐木 定綱




CLOSEの看板の奥 店じまいしたパン屋からあしたの香り
著:さと
パン屋ではもうあしたが作られている。素晴らしい感覚。

佐佐木 定綱




やばくない宗教の子とやばい宗教の子が公園でなわとび
著:森エルダット
宗教二世たち。境遇は自分では選べない。でもお互いに跳び越えてゆくことができる。

佐佐木 定綱




月が七つある小説が好きだった 村上春樹の3.5倍
著:朱虹
村上春樹みたいに有名じゃないけど、自分だけの大切な作品。こういう作品をいくつ自分の中に持っているかって大切だと思う。

佐佐木 定綱




ばあちゃんは早起きだったじいちゃんが死んでいないか確かめるため
著:山崎なお
お、今日も生きとる。

佐佐木 定綱




夏空に儚く消える棒アイス あなたと話す時の代償に
著:夜海ルネ
どうにかして一緒にいられる時間を引き延ばそうとしている。ささやかで美しい相聞詠。

佐佐木 定綱




マスタード一本だけを買いにきたひとりぐらしの女の背中
著:結城熊雄
個人的にはおでんであってほしい。

佐佐木 定綱




このことは死ぬまで秘密二番目に好きなあなたで妥協した春
著:島風ひゅーが

結句体言止めの妙。これからいくつの季節が回ってきても、何度春が来ても、秘密は秘密のまま。

渡邊 新月




永遠に隠した嘘は嘘じゃないそんな気がした一人寝の夜
著:大和田よつあし
上の句の発見。自分ひとりの心と向き合う夜を印象付ける下の句。

渡邊 新月




もういいや あとは野となれ山となれ とりま肉でも食いに行こうぜ
著:ハルカ
下の句によって、「あとは野となれ山となれ」という慣用句が実態化して、狩りにでも行くかのようになるのが面白味。

渡邊 新月




家を出て 向かうその足 題知らず 会いにゆくのか 愛に会うのか
著:モトミヤ ヒロ
「題知らず」の使い方が意外で面白い。「あい」の反復も抽象的な内容を引き立てる。

渡邊 新月




弱虫と面と向かって言われた日フィクションぽくて少し笑った
著:草村
笑っているのはむしろショックの深さゆえ、下の句の行動が上の句に逆にリアリティを持たせている。

渡邊 新月




夕空に溶けこんだ雲 必要のない悩みってないと思うの
著:もくめ
風景と感情とを重ね合わせる手法は歌の基本。晴れやかな共鳴が心地よい。

渡邊 新月




雑踏にあふれるほどの人がいて、君の気持ちをだれも知らない
著:北山双
読点のリズム、詠嘆。僕の気持ちではなく「君の気持ち」であることで広がりが出た。

渡邊 新月




そうやって味方のような顔をするあすには雨を降らせる空は
著:睡密堂 蓮
上の句の表現がユーモラスで共感を誘う。空への愛憎が軽く表現されている。

渡邊 新月




美しく空を映した水溜り 上見て歩けと言われたみたいだ
著:TINY PUNK
俯いていたら水溜りに空が見える、上向きへの目線と気持ちの流れが綺麗。初句は「美しく」とそのまま言うのでなく、美しさをより具体的に。

渡邊 新月




この件は水に流してあげるから流せるだけの水をください
著:結城熊雄
「水に流してあげる」とは言いながらも、本当は許せない。心の屈託がよく表現された下の句。

渡邊 新月




風船の空気をふつと抜くように君のピアスを外してみたい
著:雪乃助
ピアスを抜く時の肌の感覚まで思い出させるような一首。上の句の比喩が付きすぎず離れすぎず、エロティックな印象も。

渡邊 新月




水彩の青でぬられた空あおぐ僕らも影になれそうな冬
著:彩世悠陽
下の句が魅力的。冬の青空の下、「僕らも影にな」って風景と一体化する。

渡邊 新月




月光に蒼くかがやく貝殻になっているから探さないでね
著:滝口アルファ
変身願望と脱出願望が重ね合わさって清新な一首。あるいは「蒼くかがやく貝殻」が自分の本当の姿なのかも。

渡邊 新月




スパロウの鳴り響いてる黎明に犬と二人で駆け落ちしたよ
著:あまがっぱ
初句は雀かキャラクター名か? 「犬と二人で駆け落ち」の意外性。ここから物語が始まるような一首。

渡邊 新月




本当は演劇部に入りたかった 定時で帰る満員電車
著:鍵崎佐吉
普段の自分とは違う何かになれる「演劇部」への憧れが長く心の中にある。思いを噛み締める下の句。

渡邊 新月




金曜日のチーズみたいな三日月とワンルームに香るボロネーゼ
著:鍵崎佐吉
「金」「チーズ」「三日月」が色彩的に響き合う。「ボロネーゼ」がおいしそうに見えて良い。

渡邊 新月




さざなみを歯牙にもかけぬ高波でさしでがましくしてさしあげます!
著:本間あく
具体的な内容は読めないが、サ行音と濁音の響きが音的に面白い、韻を踏んだような歌。勢いがあって楽しい。

渡邊 新月




凍星の こんぺいとうを 黒に混ぜ 夜空の代わりに コーヒーを飲む
著:洞貝 渉
「代わりに」とは言っていながらも、まるで星空そのものを飲んでいるようなロマンチックな一首。コーヒーを結句に出す種明かしの構成も魅力。

渡邊 新月




あまりにもすばらしい悪態なので骨が詩集になってしまった
著:高遠みかみ
ナンセンスな歌ですが、上の句から下の句への展開が面白い。

渡邊 新月




日本史に残らないことをしています ふたりで、鈍器、選んでいます
著:高遠みかみ
ほとんどの私たちの行動は「日本史に残らない」のが当たり前だが、ことさらに言い立てるのが面白い。下の句の行動が怪しく思えてくる。

渡邊 新月




冷やしてたエクレアは汗をかいていて別れの時を予感している
著:@ii_tenki_
冷やしていたのにエクレアは暑い外に出され、汗をかいてどろどろに溶けてしまう。モチーフに心を託すのが上手い。

渡邊 新月




方舟を降りたかったという人に夢のにおいのお菓子をあげる
著:石村まい
生き残ったことの不思議さ、辛さ。生きねばならぬ人に「夢のにおいのお菓子」の優しさ。

渡邊 新月




潔く千切ろうとしたさかむけがずるずる痛い彼のはぶらし
著:萌
「彼」のことはもう思い切ろうとしている。肉体感覚を喚起する上の句が、序詞的に「彼のはぶらし」にかかって、思いの屈託が伝わる。

渡邊 新月




仕方ない琥珀に君を閉じ込めて未来で復活させてもらおう
著:寧依
初句「仕方ない」から「琥珀」が出てくる意外性、さらに「未来で復活させてもら」うに至る三段跳び。過不足ない表現。

渡邊 新月




飛行機が空を覆って私たち一瞬地獄に行っちゃったよね
著:星
日常の景色が破れて異界と不意に接触する瞬間。「地獄」の語が唐突で印象深い。

渡邊 新月




向日葵は憎んでいないまぶしさに閉める窓ひとりの保健室
著:睡密堂 蓮
「窓/ひとりの」の句割れ、「ひと/りの」の句跨り。言葉の詰まった下の句に孤独感の屈折が現れる。

渡邊 新月




蓮根の穴には孤独が詰まってるような気がするから早く食べよう
著:たらこ飴
「蓮根の穴」という虚に、孤独がみっしりと詰まっている。結句でオチもついた。四句は「気がして」などにすると定型か。

渡邊 新月




生きている象の時間を観ていたらばかでかい16時9分
著:船津智慎
自分も象になって時間を感じてみると、「16時9分」という時間すら巨大なものに見えるということか。体言止に不思議と説得感。

渡邊 新月




新曲を推しが出すたび知っていく花や星座や難読漢字
著:岳谷佐保
曲のタイトルの言葉を大切に調べて覚え、「推し」と同じ世界を見る。結句の少しの飛躍で一首にリアリティーが出た。

渡邊 新月




さそり座の中で光ったアメリカ行き あの点滅は心臓ではない
著:ばやし せいず
星空に航空機の光。「アメリカ行き」の具体が面白い。結句の否定が、逆に本物の「さそり座」の「心臓」を幻視させる。

渡邊 新月


【短歌】20首連作部門

土曜日らしさを噛み締めてみる /一色凛夏
著:一色凛夏

なにもない日常こそが大切であると気付かされる。土曜日への細やかな視線が効いている。主軸の「ふたり」の輪郭が少しだけでも浮き上がるとさらに良かった。

佐佐木 定綱




ペダルを離す
著:古井咲花
音大生の生活。なるほど、ピアニストから見ると世界はこう見えているのかととてもおもしろい発見だった。実際に曲を奏でる場面や音楽の勉強などより具体的な歌をもっと読みたかった。

佐佐木 定綱




「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部」
著:@Mashimizu_Izumi
ホテルの清掃員としての一連。「うまい棒付きのチラシ」「水切り用の古新聞」などディティールの強さが素晴らしい。厳しい生活ではあるが、怒りではなく、淡々と詠み上げるところに非常な力を感じる。自虐的な歌がやや一般的になってしまったか。

佐佐木 定綱




訪問入浴
著:梅雨すみれ
訪問看護師の一連。妻が寝たきりの家族の家へ訪問入浴に行くシーンである。現場の緊張感、訪問先の家族の輪郭などが立ち上がってきて丁寧な作りに引き込まれた。表現の踏み込みにもう一歩欲しかった。

佐佐木 定綱




訪問介護士
著:rainy
訪問介護士の職業詠。「ハルさん」や「チヨさん」など固有名詞の多さが独特の世界を作り上げている。体言止めの連発など連作としての構成や、慣用句的表現など、細やかな部分の推敲度が上がれば完璧。

佐佐木 定綱


【俳句】一首部門

翀(まっすぐにてんくうたかくとびあがる)
著:休峠圭織

俳人・小津夜景は、漢字三文字を訓読した句を句集『花と夜盗』で披露したが、掲句は漢字一文字で同様の挑戦しているところが面白い。

堀田 季何




蝸牛遠い記憶の海の上
著:夢月みつき
海の上にいたら即死してしまうであろう蝸牛だが、海の上にいた遠い記憶があるという。前世で別の生物であった時の記憶なのか。

堀田 季何




文法を染めるなら藍色だろう
著:高遠みかみ
文法という概念そのものが藍色に染まるに相応しい、と解釈した。文法という抽象を視覚で感じているわけで、一種の共感覚を詠んだ句だろう。特異だが、私は共感する。

堀田 季何




背伸びしてゐる蛇の目に映るもの
著:水無月主水
蛇遣いに操られているときの蛇か、相手を威嚇しているときの蛇かわからないが、端的に言えば、視界が変わる。背伸びすれば、見えなかったものが見えるようになる。人間も。

堀田 季何




カメラ持って春の色みな吸い取りに
著:久保田弥代
特定の宗教や迷信によれば、カメラで撮影されると魂が吸い取られてしまうらしい。まぁ、真偽はいいや。春景色を撮影して、吸い取った春の色を写真にしてしまおう。

堀田 季何




パイロンが飛ぶ凩や夜勤明く
著:真田宗治
ここでのパイロンとは、カラーコーンのこと。夜の工事現場などでよく見かける。それが吹き飛ぶ凩が吹く、厳しい夜勤もようやく明ける。空が白んできた。

堀田 季何




いうれいのまぶた剥がれて白躑躅
著:ノセミコ
いうれい(幽霊)の句は最近流行っているが、その瞼を詠んだ句はお目にかかったことがない。そして、その瞼を白躑躅(見た目は瞼、色は骨、字面は髑髏に似ている)に見立てる美技。

堀田 季何




アガパンサス消去法でこれは恋
著:ねこどらいぶ
取り合わせの句。何らかの関係を考えたとき、消去法でありえない選択肢を消していくと、恋の可能性が残る。その感覚と、馴染みがなくても可憐なアガパンサスのイメージは呼応する。

堀田 季何




切り裂けばこぼるる臓腑万華鏡
著:見咲影弥
中七まではひたすらグロい世界なのに、季語でないがキーワード的な働きをする、万華鏡という言葉と合わせたら、あら不思議、いきなりサイケデリックな世界に。

堀田 季何




家族みな秘密主義者や風信子
著:滝口アルファ
ヒヤシンスを「風信子」と表記したのが技。この家族の間には、風の便りも風説もない。

堀田 季何




倍速の録画再生梅雨に入る
著:近江菫花
梅雨入の独特な気分と、倍速で録画を再生する感覚がどこか通じ合っている。取り合わせの妙だと思う。

堀田 季何




なめくぢりちょるのーびりゆぬらぬらと
著:河邑呂談(カワムラロダン)
チョルノービリ(チェルノブイリ)が詠み込まれているが、平仮名表記だと、ちゅ~る、ちょっと、のんびり、のびるといった連想が生まれて、なめくぢり(蛞蝓)と合う上、ぬらぬらしたなめくぢり自体が原発事故の産物のように見えてくる。怖い句だ。

堀田 季何




ねむれないしゆめも月もだしっぱなし
著:ゆきのした
摩訶不思議。覚醒しているなら月は出ていても夢は出ていないだろうし、完全に眠っているなら、夢は出ていても月は出ていないだろう。両方が出しっぱなしなのは、眠れないようで半分眠っているからだろう。

堀田 季何




ルーツとか血とかオクラを切れば星
著:@tairakarei
オクラの断面が星型だというだけの句は多いが、掲句は、オクラのように粘々して糸ひくルーツとか血というようなものを越えた希望の象徴として星を提示する。なお、オクラの原産はアフリカで、世界に拡散した歴史も、ルーツや血を思わせる。

堀田 季何




啓蟄のピアスホールに風が抜け
著:星野ぐりこ
風が抜けるほどのピアスホールって、大きいのか、それとも偶々なのか。どんな触感なのだろうか。そう思わせるところが季語「啓蟄」の働き。

堀田 季何




双六に銀行のあり破産せる
著:冨田輝
銀行(bank)と破産(bankrupt/bankruptcy)の語源は通じる。作中主体は、銀行のマスにとまって、必要金額を返済できずに、破産してしまったのだろう。不思議な絵双六だと、銀行自体が経営破綻する可能性もありそうだが。

堀田 季何




大蟻や風の匂へる未来都市
著:三輪修平
未来都市を「風の匂へる」と表現したところが、まず良い。さらに、「大蟻」を持ってきたところが素晴らしい。未来人の服装や生物の姿をはじめ、様々な想像を誘う。

堀田 季何




スパゲッティコードつついて蛇を出す
著:@otaku
スパゲッティコードは、スパゲッティの麺ように、不必要に、複雑に絡まったプログラム・コードのこと。プログラムの不具合で、バグ(虫)をさがそうとスパゲッティコードを色々と突いていたら、何と出てきたのは、それ自体が麺のような蛇。虫偏の生き物だけど……。

堀田 季何




窓は童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日色の朝
著:さんが(三可)
最長の季語とされる「童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日」を詠み込んだチャレンジに拍手。窓から見える朝の色としたところに、季語を踏まえた詩情がある。

堀田 季何




向日葵が天に唾吐く昼下がり
著:猫煮
向日葵(ひまわり)を擬人化する句は多いし、太陽の方を向くその性質を詠んだ句も無数にあるが、太陽(お天道様)に向かって唾吐く向日葵には、初めて出合った。運命の不条理に立ち向かう人類の象徴か。それとも向日葵が国花である、戦地ウクライナの象徴か。

堀田 季何




アイコンの 亡き愛猫に 思い馳せ
著:イノベーションはストレンジャーのお仕事
SNSのアイコンは、フォロワーもよく目にするもの。愛猫に思いを馳せるのはきっと飼い主だけではないはず。「馳せ」の終わり方に余韻がある。

小谷 由果




咲くまでは あるとわからぬ 曼珠沙華
著:平中なごん
曼珠沙華の花には葉がなく、咲くまでは緑の茎しかないのでわかりにくい(葉は花が終わった後に出る)。「あるとわからぬ」ところを詠んだのが良い。

小谷 由果




戦場に 空蝉残す 魔王かな
著:久遠 れんり
魔王は、空蝉から出ていったものなのか。または戦争を司る魔王のもとに息絶えた大量の戦士たちの比喩としての空蝉か。「かな」の詠嘆で魔王の恐ろしさが増す。

小谷 由果




先を見る花の蕾に砂嵐
著:Ricky
「先を見る」のは花の蕾自身か。擬人的なとらえ方が面白い。「見る」に「砂嵐」なので、目に砂が入るように、蕾に砂が当たったら痛そうな身体感覚も移る。

小谷 由果




悩みなど忘れて見遣る螢かな
著:とろり。
悩みなど忘れて、と詠んだ時には悩みのことを思い出していると思うが、蛍を見遣っていた瞬間だけはそれらを忘れられた、という刹那の儚さが蛍に表れている。

小谷 由果




ずりずりと砥石は我が身も刮げする
著:oxygendes
刮げ(きさげ)は、砥石で金属などを磨くこと。金属を磨くと同時に、砥石自身も磨かれ削られていく。砥石の方に着目したのが良い。

小谷 由果




姫百合や 涙溶けゆく 塔の風
著:にわ冬莉
沖縄の「ひめゆりの塔」のことだろう。涙の意味が自ずと沖縄戦で亡くなった犠牲者への思いだとわかるが、直接それと言わないことで広がる景色がある。

小谷 由果




ひび割れた 黒い道より 春いでし
著:釣鐘人参
「春」が出てくるという表現が良い。「ひび割れた」が現代語過去形、「春いでし」が古語連体形なので、「ひび割れし黒き道より春いでぬ」だと文法的に正しくなる。

小谷 由果




桜舞い駆け抜けていく君の風
著:isia tiri
「君の風」という措辞で「駆け抜けていく」君の勢いが起こしている風だとわかる。「桜舞い」は、自らの力で駆け抜けていく君に祝福の気持ちを添えているようだ。

小谷 由果




愛猫とシェアして旨し初鰹
著:いとうみこと
初鰹の旨さが、「愛猫とシェアして」こそ一層引き立つ。初物の喜び、旨さをシェアできる愛猫がいることの喜びも感じられる。

小谷 由果




泣くためにひとり湯をはる春深む
著:菊池浅枝
春深む時期だと、そろそろシャワーで済ませることも多くなるが、あえてひとりでも湯をはるのは「泣くため」。感情の大きさや深さが「湯をはる」ことに表れている。

小谷 由果




眠れずに 狐作る手 熱帯夜
著:尚
熱帯夜の中、月光や街の光が差し込む部屋で狐の手影絵を作っている。夜行性の狐を真似て眠れないことを肯定するような、眠るために羊を数えるのではない意外性が良い。

小谷 由果




曲がってる君も私も筍も
著:シュリ
君も私も筍も、並列なのが面白い。「筍や君も私も曲がってる」とするより、最後に筍がくることで視覚的に「曲がってる」さまがよく伝わる。

小谷 由果




立ちこぎでまた追い抜いた蝉時雨
著:草凪美汐.
また、ということは蝉時雨を何度も追い抜いているのだろう。「立ちこぎ」で急いで追い抜くさまから、蝉時雨の音の大きさ、夥しさが伝わってくる。臨場感のある句。

小谷 由果




荷を下ろし 心たゆたふ 十三夜
著:柚月
荷を下ろすとは何かを終えることでもあり、もの寂しさもある。十三夜は、旧暦9月13日の月で名残の月とも言う。たゆたう心と十三夜が響き合う。

小谷 由果




神鳴りは家鳴りとなりて鎮まりぬ
著:名無しのオプ=アート
「雷」ではなく「神鳴り」、「静まりぬ」でなく「鎮まりぬ」、そして神鳴りが「家鳴り」となるという捉え方に、自然や霊性への畏怖を感じられる。用字の選択が丁寧。

小谷 由果




アスパラを笑顔とともに和えている
著:夢月みつき
笑顔のままアスパラを和えていることの描写なのはわかりつつも、笑顔とアスパラとを一緒に和えているようにも取れる「とともに」が面白い。笑顔なのできっと美味しい。

小谷 由果




満月はここを抜け出すための穴
著:詠頃
明るい満月を「穴」とすることで、今いる「ここ」の暗さとの対比が感じられる。夜の物理的な暗さに心情も重なる。物質(満月)を空間(穴)と捉える目が良い。

小谷 由果




アボカドになってみたいと水をのむ
著:あづま乳業
独特の感覚が面白い。無季の句だが、俳句に季語は必須ではない。アボカドの種は水栽培で発芽して大きな葉をつける。水をのんだこの作中主体からも何かが発芽しそう。

小谷 由果




見えずとも 我が頭上にも 月満ちる
著:柚月
雲などに隠れた満月を想像しているのだろうか。見えずとも月が「満ちる」と言い切ることで、「我が頭上」すなわち天頂近くまで昇った満月の光の強さを感じられる。

小谷 由果


【俳句】20句部門

第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト
著:出井櫃人

20句すべてパンかサンドを詠んでいる意欲作。パンで様々な場面を描き、世界観のようなものまで見えて、作者の力量がうかがえた。但し、句の出来不出来の落差が惜しい。

堀田 季何




文字の速度
著:後藤麻衣子
作者の潜在的な力が感じられた連作。句材や表現への挑戦、詩への渇望を感じる。今後の課題は、狙いの見えすぎた句、措辞に凝りすぎて迫力が薄くなった句、結局は報告や当たり前になってしまっている句をどう削るかだろう。

堀田 季何




第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部【二十句部門】
著:凪太
異色というか、自在な句のスタイル及び句材の選択に惹かれた。詩的飛躍や象徴の技法を使った句に佳什が散見される。反面、面白さを目指すあまり、類想や不発ネタに陥った句も少なくないのが瑕。

堀田 季何




助手席
著:野名紅里
日常を丁寧に掬い取る姿勢に好感をおぼえた。句の措辞や型を使いこなす様を見ると、確かな実力が感じられる。しかし、類想の句、狙いの見えすぎた句、植物との安易な取合せの句が案外多く、作者にとって、次に飛躍する時機がやってきているのだと思う。

堀田 季何




殴りあふ花
著:佐藤研哉
硬質なトーンで描かれた一連。措辞が実に巧みで、かなりの実力派だとお見受けした。表題句なども良かった。但し、さすがに無理のある表現、やりすぎの表現といった句が悪目立ちしてしまい、作品全体の評価を落としてしまったのが悔やまれる。

堀田 季何



【コメント】
短歌:佐佐木 定綱渡邊新月
俳句:堀田 季何小谷 由果

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