抜けないと思っていた聖剣を抜いちゃったのは、盗人のはぐれ者だった!? ここに嘘の勇者と聖剣のコンビが爆誕!
「ライトノベル小説では、とっくにこすり倒された世界で、いかに遊ぶか? を考えました」
おだやかな笑顔でそう語るのは『勇者からは逃げられない』著者の富士田けやきさん。
ここに至るまでの作家の道のりと本作への意気ごみを伺った。
取材・文 おーちようこ
■おもしろい、と、おもしろそうだ、は違うということを学びました
――カクヨムネクストという投稿サイトとしての新たな挑戦の場からの書籍刊行です。
富士田: 本当にありがたいことで、感謝しています。カクヨムネクストは課金制ですが、それでも読んでくださる、奇特(?)な読者の方々には感謝しかありません。だから、同じものでお金をいただくよりも、もっと楽しんでいただくために、書籍版では少し設定を変えて、その先を分岐させる予定です!
――なんと、まさかの展開です。
富士田:
実は……別の結末を思い付いたら書きたくなってしまったんです。今、連載しているお話も楽しんでいただいてますが、こんな未来もあるんだぞ、と届けたくなりました。これは、僕の小説を楽しんでくださっている方々へ、恩返ししたい、という想いでもあります。
サラリーマンの経験もあるので、貴重なお金と時間を使っていただくことの重さはわかっています。だからこそ、とことん楽しんでほしいと考えて、書籍の担当編集さんに相談したらおもしろがってくださって実現しました。装画も夢いっぱいに、toi8先生にお願いできたら……と伝えたら、なんと、叶えていただけました。書籍化で、そういった心強い方々と出会えたことも、今回、うれしいことのひとつです。
――それはやはり、物語に力があったからかと。そもそもどういう発想から生まれたのでしょうか。
富士田:
「おもしろそう」と思っていただけるような冒頭を心がけました。6年前に1冊、著書を出していただいたときは、自分では「おもしろい」と思って書いていましたが、それをわかってもらうことができませんでした。4〜5年の間、その作品だけに集中して、文庫で30冊分くらい書いていたので、書籍化が1冊で終わったことにものすごく落ち込みました。さらに長年集中しすぎて、次を始めるための方法もわからなくなっていた。
だから、自分のできることを広げるためになんでもやってみようとあがいたんです。当時、30代を迎えた自分には小説しかないとわかっていたから。なのでイラストレーターさんと関わってみたり、漫画の原作を考えたり、あれこれやってみた結果、自分の価値観を拡張することができました。
気付いたのは「おもしろい」と「おもしろそうだ」は違うということです。漫画原作で、担当編集さんにものすごくダメ出しされていて、このー! と思っていたんだけど、あとから、言われたことが飲み込めて、足りないものはそこだったのか、と気付きました。
■聖剣伝説、ヘタレ勇者ーー使い倒された設定を遊び倒す!
――どんなふうに立ち上げたのでしょうか。
富士田:
始まり方を意識しました。ライブ感を大切に、毎回、事件が起こり山場があって、種をまいて種明かしつつ、ついてきてくれるように工夫しています。RPGの骨格を拝借して掘り下げつつ遊んでいる感じでしょうか。ライトノベルではすでにこすられすぎている設定をあえて、視点をずらして書いていて、いろんな意味でギリギリを攻めている自覚はあります(笑)。読んでくれる方々を飽きさせず、楽しませ、でも、外しちゃう手前までいっちゃうみたいな感じです。
登場するキャラクターも単体で考えるのではなく、関係性をふまえています。RPGなら当然、神様がいるし、聖剣があるなら勇者がいて。でも、その勇者となるソロくんは実は勇者らしからぬ存在で。そこに集うアンドレア王国の人々、敵対する四天王というベタな存在もいる。いずれも定番の存在ですが、それぞれの見かけと中身のギャップや、パーティで見たときにおもしろくなるような属性を考えました。
――さらにD.P先生によるコミカライズも始まります。
富士田:
恐れ多いことです。僕は物語を考えるのは得意で、このネクストの連載もすでに100万字近く書いていますが、それでもまだ、物語の半分なんです。でも、それだけ書いておきながら、申し訳ないことに景色とかキャラクター造形といったことを細かく考えるのがものすごく苦手で。なので、漫画で描いていただくための細かい設定を作るにあたっては、普段と異なる脳みそを使う感じです。うれしい一方で難しいと感じながら、新鮮な気持ちで楽しませていただいています。
――100万字で半分! そのアイディアはどこから生まれてくるのでしょうか。
富士田: インプットをやめないことでしょうか。僕の場合は映画が多くて、映画って物語の起承転結の必要なものが全部詰まっているんです。ことに名作と呼ばれるものは、普遍的おもしろさがあって、さらにその見せ方といった、すべてのことが勉強できます。あとはレビューサイトを読むのが好きですね。ひとつの作品に対して真摯な感想が書かれていて、僕が感じたことはこういうことだったのか、と発見したりと、2度、楽しむことができるんです。
でもやっぱり、いちばんの糧は学生時代に読み漁ったたくさんのライトノベルです。キッカケはささいなことで、中学のときに部活の先輩が時雨沢恵一先生の『アリソン』を持っていて、水着の女の子のカラーイラストを見ちゃったんです。それで、中学男子としてはものすごく興味を持ってしまって(笑)、軽い気持ちで図書館に借りに行って、ライトノベルに出会い、衝撃を受けたんです。
――どんな衝撃でしょう。
富士田: 表現の幅広さと自由さですかね。それまでは『月刊コロコロコミック』や『コミックボンボン』といった漫画雑誌を読んでいたんですが、ある意味、残酷な描写は抑えられていたと思うんです。でも、鏡貴也先生の『伝説の勇者の伝説』は生徒たちが戦地に送り込まれ、1巻で多くの登場人物が死んでしまう。これまで読んできた物語とはまるでちがっていて、水着を見たいといった気持はどこかに吹き飛び、一気に魅せられてしまったんです。
もともと父が書店員で、本に関してはかなり自由な環境にあったので、そこからものすごい勢いで読み始め、ときには1日、三冊くらいのペースでした。当時、恥ずかしながら反抗期に突入していたのもあって、本はすべてのことから逃避していた僕の唯一の逃げ場でもありました。でも、振り返ってみれば、そこで今の下地ができたのかもしれません。
■執筆のキッカケは「おもしろい」と言ってもらえたことです。
――読み手から書き手へと変わったキッカケはあるのでしょうか。
富士田:大学で「声優研究会」というサークルに入ったんです。僕はオタク系のサークルだったらどこでもよくて、同じ学部の友だちについて行って入りました。学祭のときに声優さんを呼ぶような感じのゆるいイベントサークルで。でも、まあ、サークル活動としてドラマCDを作ろうという話になって、軽い気持ちで脚本を引き受けたら、意外なことに「おもしろい」と言ってもらえて。その反応に驚きながらも「え、こんな感じで良ければ、いくらでも!」と書き始めたのが最初です。
そのうちに後輩に小説家志望の仲間ができまして。そいつとは今も付き合いがあるんですが、そいつから「公募ガイド」というものの存在を教わり、初めて小説の投稿をしたものの、当時は、応募作を規定のサイズでプリントアウトして紐で綴じて郵送するという、すごく手間のかかかる作業をしなくてはならなくて、これは僕には向いてない! とすぐ諦めました(笑)。次にネットの小説掲示板というものを覚えまして。いろんなところに、いろんな名前で、ありとあらゆるシチュエーションで小説を書いては投稿することを続けていました。だから改めて思うのは、現在の、誰もがweb上で投稿できるという仕組みがあったからこそ、書き続けることができたのかもしれません。
――お話を伺っていると、そもそも創作活動がご自身にとって身近であり、日常だと感じます。
富士田:それは確かにあります。小説を書くことに苦労はない……というか、一番好きなことが小説なんです。今回も刊行特典として、いろいろなSSを楽しく書かせていただきました。担当編集さんがいろんな企画を考えてくださって、書店さん別にソロやルーナやソアレ姉妹やヴァイスたち登場人物にまつわるSSが掲載されたしおりのプレゼントを準備しました。また、同じくカクヨムで連載している『何がために騎士は立つ』との、まさかのコラボSSもフォロワーメール用に書き下ろしたりと、思いっきり遊ばせていただきました。追いかけていただくのは大変かもしれませんが、すべて、おもしろいものを届けたい、読者をうんと振り回したい(笑)、という願望から生まれています。
カクヨムネクスト発の書籍化、というだけにとどまらず、web連載との分岐や書店別の特典、コミカライズ開始といった、とてつもなく幸せな形で送り出してもらえる『勇者からは逃げられない』の行く末を見守り、一緒に育てていっていただけたら、これほどうれしいことはありません。どうか、最後までお付き合いください!
▼『勇者からは逃げられない』作品詳細
kakuyomu.jp
▼購入ページ sneakerbunko.jp
▼『勇者からは逃げられない』Discord イベント開催予定!📢
カクヨムでは 新刊を記念したDiscordイベントを現在企画中!!
富士田けやき先生への100 の質問も大募集中ですので、こちらからぜひふるってお寄せください。
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イベントの日時は決まり次第ご案内します。


