第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト大賞受賞インタビュー|『鍋で殴る異世界転生』しげ・フォン・ニーダーサイタマ

現在、第4回ドラゴンノベルス小説コンテストが開催中ですが、昨年のコンテスト受賞作が7月5日(火)から順次発売となります。

▼第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト受賞作特設ページ
(※今年からコンテスト名が変更になりました)

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そこで、大賞受賞作『鍋で殴る異世界転生』(8月5日発売)の著者、しげ・フォン・ニーダーサイタマさんにインタビューを実施。
作品やコンテスト、書籍化作業についてなど、担当編集が聞き手となってお話をうかがいました。

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■作品作りはTRPGのGM感覚で

――第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト大賞受賞作、『鍋で殴る異世界転生』が8月5日に発売となります。改めまして、コンテスト大賞受賞、そして書籍発売おめでとうございます! 『鍋で殴る異世界転生』は、初めて書かれた長編小説ですよね?

しげ・フォン・ニーダーサイタマ(以下、しげ):はい、そうですね。

――そもそもWeb小説を書き始めたきっかけは、何だったのでしょう?

しげ:僕は元々TRPG(テーブルトークRPG)プレイヤーで、GM(ゲームマスター)としてシナリオを書いていたんです。で、シナリオを作れるってことは小説も書けるんじゃないか、とふと思って。仕事中、車を運転しながら唐突にそう思ったのがきっかけです。何かの天啓なんじゃないかと思うんですけど(笑)。

――そんなきっかけが。でも、「書けるんじゃないか」という気持ちの裏には、書きたいものがあったということですよね?

しげ:そうですね。TRPGのほかに歴史が好きでもあったので、中世末のヨーロッパのものを何か作ってみたいという気持ちが心の奥底にあったんだと思います。

――カクヨムにアップすることを選んだのには何か理由が?

しげ:じつはWeb小説というもの自体、「小説家になろう」ができたころにちょっと読んでいたくらいで。ただ、TRPGで知り合った方がカクヨムに小説を上げてらして、カクヨムの存在は知っていたんです。それで、この人が使っているなら安心できるなと思って。春海水亭さんって方なんですけど。

――え、あの短編作品で有名な?

しげ:そうです、短編マスターのあの春海水亭さん。たまたまTRPGで知り合って一緒に遊んでいたんです。

――そんなつながりがあったとは。では、春海水亭さんの影響もあってカクヨムに小説をアップすることにして、「書ける気がする」と思ってからどれくらいで書き始めたんですか?

しげ:よく覚えてないんですけど……18時で仕事が終わって21時くらいにはできていたんじゃないかな。とにかくその日に第1話をアップしました。

――フットワーク軽!(笑)

しげ:TRPG感覚だったので(笑)。セッションやるよーって言って、その場でシナリオないけどやるねーみたいな、そういうノリです。その時点で頭にあったのは、舞台は中世ヨーロッパ、神聖ローマ帝国にしようということと、あとはクトゥルフ神話を取り入れよう、ヒロインは平坦にしよう、とそれくらいだったと思います。

――読者からすると、『鍋で殴る異世界転生』って世界観もとても練り込まれているし、とくに冒頭のシーンはインパクト大で考えに考えて作り上げられたように思えるんですけど……。

しげ:ほぼ思いつきでした(笑)。あとは、TRPGと小説の違いは何だろうかと考えて、TRPGの場合はしっとりゆっくり入っていく感じのものが多いんだけど、それでは読んでもらえないだろうなとああいう導入にした、というのはあります。

――内容もオリジナリティーがあるけど、作られ方もまた独特だったんですね。

しげ:そうですね、ほかの小説作品がどうかっていうのはとくにリサーチしてなかったです。それよりはGM感覚が強くて、たとえばTRPGだと一緒に遊ぶ仲間はルールブックを事前に読んできてくれて、世界観を知っている状態からゲームを始められる。でも、小説だとそれがないので、どうやって世界観を伝えればいいのかと考えたんですよね。結果的に、お話の中に練り込んじゃってお出しする、ってことを意識したんですけど。初めて小説を書く方はそこに到達するまでに時間がかかると思うので、その工程をすっ飛ばせたのはTRPGのおかげかなと思います。

■レビューは励みになるけど心に刺さる?

――では、第1話をアップしてみて、反響は何かありました?

しげ:確か10PVもいかなかったかと。それでも当時は毎日更新をしていて、1ヵ月後には数百PVを超えてたのかな。そのころには、楽しいからこのまま書いていこうって気持ちになってたはずです。

――1ヵ月というと、お話としてはどのあたりですか?

しげ:ちょうどカエサルが出てくるあたりですかね。

――あー、あれは衝撃的でしたし、このお話の方向性を決定づけた象徴的なエピソードでした。カエサルの登場はいつごろから決まっていたんですか?

しげ:えっと、彼が登場する話を書く時に……。

――え? その場で!?

しげ:はい(笑)。いまはさすがにプロットを立てるようにしているんですけど、以前はナラティブなTRPG形式というか、その場でシナリオを書いてその場で回しているような、本当にGM感覚だったんです。書いたものをお出ししてみて、読者の方はみんなどういうのが好きなのかなって確かめながら、話の味をちょっとずつ変えたりしながら進めていって。

――読者さんの反応はどんなものが多かったですか?

しげ:レビューでは世界観を褒められることが多くて、あとはごくたまに、平坦好きな方からコメントをいただいたり。世界観を褒めてもらえるのはうれしいんですけど、書いてるこっちとしてはほとんど決めずに書いたものなので、じつは心にザクザク刺さっているんですけど……(笑)。

――読者さんはきっと、世界観ノート1冊分くらいあると思ってますよ(笑)。

しげ:いやいや、頭の中にぼんやりあるものを毎日切り取りながら文字にしていくみたいな、そんな感じです。逆に今、文字としてプロットを残しておかなかったことを後悔していて、あとから調べるのに苦労してますけど。

――執筆の時間はどれくらいかけていますか?

しげ:1日3000字を目安にしていて、初期は設定を考えずに書いていたので30分くらい。いまは1時間くらいかかっていますね。最近は、朝活というか、早起きして書くようにしています。朝パッと書いてから仕事に行くとかいいなあと思って。まあ寝坊することも多いんですけど……(笑)。

――朝小説家、カッコイイじゃないですか! これまでの連載で苦労したことは、何かありますか?

しげ:歴史オタクなので、小説を書いている間は資料を読むことができないのが苦痛で……。アウトプットして自分の中の知識がゴンゴン流れていくのに、取り込むものが全然ないっていう、その苦しさがいちばんきつかったですね。

――逆に、うれしかったことは?

しげ:それはやっぱりコメントやレビューで反応いただけたこと。小説のことをほとんどわからずに始めたので、本当に小説が書けているのかなって常に不安だったんです。この世界観で楽しんでくれているんだなってわかって、これでやっていけると自信になりました。

■講評が欲しくて参加したコンテストのはずが……

――コンテスト受賞についてもお聞きしたいのですが、応募したのはドラゴンノベルスコンテストが初めてですか?

しげ:はい、初めてでした。今考えると何言ってんだって感じなんですけど、じつは講評が欲しかったんです。コンテストで受賞すると短い講評がつくじゃないですか。初心者なので、ちゃんと小説になっているのかずっとわからなくて、それをプロの目で見てもらいたくて。それで何かコンテストに参加してみようかなって思ったのが動機です。そんなタイミングでドラゴンノベルスのコンテストが開催されていて、「新古典ファンタジー求む」っていうレーベルのキャッチコピーを見て、これは合致するんじゃないかと応募させていただいたんです。

――初めて書いた小説、初めて参加したコンテストで大賞受賞の連絡がきたときはどう思いました?

しげ:最初に思ったことは……詐欺かな、って(笑)。

――予想外すぎたんですね(笑)。

しげ:最終選考に残って、もしかしたら特別賞がもらえるかも、編集さんにアドバイスがもらえるかもって期待は生まれてたんですけど、大賞とは思ってもみませんでした。メールで連絡いただいたんですけど、個人情報を入力するフォームの案内とかあって、うーん、これは詐欺なのか……? って(笑)。

――受賞の実感が湧いたのはいつごろ?

しげ:本当に実感したのは、最初の打ち合わせの時ですよ。編集者さんっていうのが実在してたんだなあ、と(笑)。

――都市伝説みたいな(笑)。大賞の賞金30万円はもう何かに使われましたか?

しげ:つまんない回答でアレなんですけど、貯金です。じつは大学に通ってみたいなと思っていて、そのための資金として。

――もしかして、歴史関係を勉強するためですか?

しげ:はい、歴史と語学をやりたいなと。

――わー、素晴らしい! じゃあ書籍の印税も?

しげ:そうできればいいなと思ってます。

――おお! がんばって売りましょう!!

しげ:よろしくお願いします(笑)。

――書籍の話が出たところで、書籍化作業についてもお聞きします。このインタビュー時点ではまだ絶賛制作中ですが、ここまでの作業はいかがでしたか?

しげ:初めてのことばかりですべてが新鮮だったんですけど、いちばん驚いたのは、自分の書いた文章を何回も読み直すのは結構精神にくるなあ、ってことかと。何回修正してもどんどん修正箇所が見つかって、完璧だと思って提出しても戻ってくるとものすごい赤が入っていて……。

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※大賞受賞作は8月5日(金)に発売!

――……すみません(笑)。

しげ:いえいえ、僕が気づけなかったことを気付いてもらえてありがたかったです。ここがわかりづらいかも、って指摘が本当にありがたくて。自分の頭の中で完璧に映像化できちゃっていることなので、わかりづらいってことがわからないんですよね。

――そう言ってもらえると何よりです。

しげ:それに、書籍だとページ数の制約があるじゃないですか。Web版からどこを削るのか考えて、削って、でもそうすると味気ないからってそこにまた別の要素を突っ込んでみようって膨らませて、また削って……って、やっていくうちに結果的に質が上がっていくのがおもしろかったです。鉄を精製するみたいな感じで、鉄をぶっ叩いてスラグ、つまり不純物が吹っ飛んでいくような感覚でした。

――書籍化というとイラストがつくことも大きな要素ですよね。

しげ:イラストについては、プロはすごい、って感想と、あとは苦労をおかけして申し訳ないって気持ちが……。僕はファンタジーより史実の知識があって、そちらに軸足を置いて書いているんですが、史実をそのまま出すと絵的にまったく映えないんですよね。それをライトノベルの形に落とし込むアレンジはイラストレーターの白狼先生に完全にお任せしちゃったわけですけど、やっぱりプロはすごい。史実要素を汲みながら映えるものを出してくださって、プロの仕事を間近で見れて本当に幸せでした。

■人間の逞しさを感じていただける作品に

――最後に、書籍版とWeb版それぞれのアピールポイントや展望などお話しいただければと思います。まず、発売間近の書籍版について、見どころをぜひ。

しげ:書籍版については、Web版よりさらに人間の逞しさや社会の複雑さを深掘りしているので、それを楽しんでいただければと思っています。もちろん難解にはしていなくて、よりこの世界の人たちが生きているんだと実感できるものになっているかなと。書籍版に限らずですけど、「オープンワールドのRPGの世界に一人称で飛び込んでみた」っていう読書体験を提供したいと思っていて、そういう仕上がりになっているかと思います。

――まさしくそういう作品だと編集も思います。では、Web版のほうの今後については?

しげ:Web版のほうは、人間の逞しさに重点を置きつつ、でも人間ってどうしようもないっていうクトゥルフ的テーマもありつつ、このまま進めていく感じかなと。どこに向かっていくかは……ここでは伏せておきます。

――今はかなり先のところまでプロットが決まっているんですよね。

しげ:ただ、相変わらずTRPG方式なので、プレイヤーであるクルトたちが勝手に動いていくと僕のプロットから外れてしまう可能性もすごく高いので……(笑)。どうなるのか僕もよくわかっていないです。

――書いているうちにキャラクターが勝手に動いてしまう?

しげ:ほぼそんな感じです。一話一話のプロットで、こういうシーンを入れたいっていうものを作ってはいるんです。そこにたどり着くまでの導入と、そこからどういう結末に向かうかはキャラクターに任せる感じ。方法はお任せするので、途中でこのシーンを入れてください、あとは勝手に動いてくださいね、お任せしますって。

――「お任せします」って言っても、書いてらっしゃるのご自身ですけどね(笑)。

しげ:そうですね(笑)。なんというか、脳内でセッションして、それを文字起こししている感じなんですよね。

――もしかして、キャラクターを憑依させながら執筆するタイプですか? キャラと同じ表情しながらとか。

しげ:……そうかもしれない(笑)。

――では、今後もGMとして脳内セッションしつつ、朝小説家としてキャラを憑依させながらの執筆が続くと(笑)。

しげ:はい(笑)。あとは資料を読むだけでなく、甲冑を着てみたり、ライ麦を育ててみたりだとか、そういう実体験も大切にしているので、それを小説を通して皆さんと共有できたらうれしいですね。がんばりますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。


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第4回ドラゴンノベルス小説コンテストの応募は7月15日(金) 23:59までとなります。
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