2025年4月より、TVアニメ『ある魔女が死ぬまで』が放送されます。原作となる小説は、カクヨム上の「電撃の新文芸2周年記念コンテスト」で大賞を受賞し、電撃の新文芸より刊行されました。
TVアニメ放送を控え、著者である坂さんに『ある魔女が死ぬまで』や、カクヨムネクストで連載した『魔王のアトリエ』について、お話をうかがいました。
・カクヨムへの投稿とコンテスト受賞、そして書籍化へ。
―—執筆歴20年、とプロフィールに書かれていますが、そもそも物語を書くようになったきっかけと、カクヨムに投稿するようになった経緯を教えてください。
物語を書くようになったのは読書家だった高校時代の親友の影響と、当時ブームだったブログを書いていたことが理由です。当時から本は好きだったのですが、本格的に色々なジャンルの小説を読むようになったのはその友人の影響でした。
ブログは学校で流行っていてその流れで僕も書き始めたのですが、文章を書くハードルを大きく下げてくれました。そのお陰で小説を書きネットで投稿を行うようになりました。
当時はかなりマイナーなサイトで投稿を行っていたのですが、KADOKAWA社が本格的にWeb小説のプラットフォームを立ち上げるとネットニュースで読んだのでカクヨム創設半年後に登録した記憶があります。ただ、当初は本業が激務でほとんどまともに執筆できず、本格的な投稿を始めたのは登録してしばらく経ってからでした。
―—『ある魔女が死ぬまで』は「電撃の新文芸2周年記念コンテスト ――編集者からの4つの挑戦状――」の「熱い師弟関係」というテーマで大賞を受賞しました。作品自体は、コンテストの開催前から連載を続けていたものかと思いますが、応募しようと思ったきっかけは何でしたか?
『ある魔女が死ぬまで』は元々別の公募用に書いていた作品だったのですが、そちらは残念ながら一次落ちでした。
他に投稿できる場所はないかなとコンテスト情報をちょこちょこチェックしていた時、電撃の新文芸2周年コンテストが見事に作品の方向性と噛み合っていたため応募に踏み切りました。カクヨム経由であれば気軽に応募できるのも個人的に魅力を感じたポイントです。
「編集者からの挑戦状」として4つのテーマが示された
―—受賞したときの気持ちや感想を覚えていらっしゃいますか?
かなり失礼な話なのですがそもそも応募したことを失念しており、受賞の連絡と共にすべてを思い出して血の気が引いたことを覚えています。指先が冷え、体温が下がり、思考が停止して仕事が手につかなくなりました。何が起こっているのか把握できていなかったと思います。
―—受賞後、2021年12月に電撃の新文芸から書籍として発売されました。初の書籍化だったと思いますが、大変だったことや嬉しかったことなど、思い出をお聞かせください。
本業と並行で書籍化作業を行っていたのでずっと時間に追われていた記憶があります。また、変更の方向性を編集さんから色々ご提案いただき、アイデアをひねり出したりシナリオを調整するのが大変でした。
嬉しかったことはイラストレーターのコレフジ先生がメグやファウストを描き下ろしてくださった時です。自分の中で曖昧だったイメージが明確に形になった時、とても深い感動を覚えました。
『ある魔女が死ぬまで』1巻書影
・TVアニメ化について
―—2022年8月に一度、WEB版を完結されました。それから約2年後、24年6月にアニメ化発表、7月に2巻の発売があり、驚いた方もいたと思います。アニメ化のお話は、いつ頃から動いていらっしゃったのでしょう?
アニメ化のお話をいただいたのは2022年の4月です。WEB版が終わる半年ほど前ですね。
元々『ある魔女が死ぬまで』は書籍の売上があまり思わしくなく、最終巻まで出すのが難しい状況でした。二巻までは出せたのですが、個人的にはラストを読んでもらえないのなら意味がないと思っていたので編集さんと話して制作を止めることにし、趣味としてWEB上で完結することを目指していました。アニメのオファーのお話が届いたのはそんな時です。
―—アニメ化が決まったときは、どんな思いでしたか?
めちゃくちゃ冷めたことを言ってしまい大変申し訳なく思うのですが、アニメの企画は流れることも少なくないと思っていたので、あまり期待しすぎないようにしていました。少なくともアニメ化に固執したくなかったので、それはそれとして今まで通りの創作活動を続けることを意識していました。
―—アニメ化に関して、原作者の立場でどのように関わったのか、思い入れや裏話などあれば、お聞かせいただきたいです。
元々複数のメンバーでコンテンツを制作する仕事をしていたため、アニメ化で意識していたのは先の工程を常に意識して立ち回ることを考えていました。
例えば確認事項の回答を自分が止めると制作現場も止まりかねないのでなるべく早い返信を意識したり、修正して欲しい箇所があればただ否定するのではなく代替案を提案するようにするなど、なるべく制作工程のノイズにならないことを意識して関わるようにしていました。
個人的にとても印象的だったのは、アニメ制作サイドが本当に原作を尊重してくださっていたことです。
文字しか情報のない小説作品を形にすることはとても大変な作業なので、妥協せねばならない部分がたくさんあるだろうなと思っていたのですが、むしろ僕以上にアニメ制作サイドが原作を尊重してキャラデザインや背景・脚本などを作ってくださっていたのでとても嬉しかったです。
TVアニメ「ある魔女が死ぬまで」より
―—物語をつくる人にとって、アニメ化というのはやはり一つの夢の到達点だと思います。もし「これからアニメ化する後輩作家たち」に何か伝えることがあれば、是非お願いします。
「これからアニメ化する後輩作家たち」へのメッセージとして正しいかは分からないのですが、もし「絶対良いものだけど最後まで書くか迷っている」作品があるならば、完結まで執筆して欲しいと思っています。
書籍化や続刊を狙って執筆されることが多い昨今、第一章や第二章で制作を止めてしまうことも少なくないと思います。僕も割とそうした書き方をすることが多いのですが、たまに「最後まで書くべき作品だな」と確信させてくれるものが生まれることがあります。もしそうした作品と出会えたならば、たとえ思ったような評価を受けられずともぜひシリーズ完結まで導いてあげて欲しいと思うのです。
シリーズを完結させることは大変な労力です。『ある魔女』も連載当初は全く伸びず、星も50行かないくらいでした。当初狙っていた公募にも落ちてしまったので正直全然評価はされていませんでした。奇跡的に書籍化はされましたが、そちらも1巻で制作が停止しています。
ですがそれでも作品の価値を信じてラストまで書いたことで続刊の目処が立ち、シナリオが見通せたおかげでアニメ化やコミカライズなどのメディアミックスで大きな助けになりました。
もちろん執筆当初はそのようなことを考えて書いていなかったため、書いたところで思ったような評価を受けないことが大半です。ただ、『ある魔女』も今の形になるのに6年掛かりましたし、何がどう転ぶかなんて本当に分からないなと思うのです。
「この作品は自分が魂を込める価値がある」と信じられる作品があるのであれば、その想いを最後まで形にしてもらいたいです。少なくとも自分はそのお陰で人生の代表作と呼べるものを一つ書き上げることができました。
たとえ受賞やアニメ化をしていなくとも『ある魔女が死ぬまで』を最後まで書いたことは自分の作家人生において重要な意味があったと思っています。
・カクヨムネクストでの『魔王のアトリエ』連載について
―—24年12月からは、カクヨムネクストでも『魔王のアトリエ』という作品を連載いただいています。カクヨムネクストは有料サービスですが、著者として通常の連載と異なる心構えなどはありましたか?
元々企画や本編の内容は編集さんにチェックいただけていたので、作品ができた段階で「十分なクオリティのものを読者さんに提供できるのでは」と考えていました。
僕はWEBで連載しているものは現在進行系で執筆しつつ日々更新することが多いのですが、『魔王のアトリエ』は完成してブラッシュアップしたものを更新しています。
趣味で執筆したものと、お金を出してもらって読んでいただくものでは、その辺の事前準備の工程に大きな変化がでるのかなと思っています。
―—また、『魔王のアトリエ』は富士見L文庫からの刊行ということで、電撃の新文芸から刊行された『ある魔女が死ぬまで』とは、レーベルの読者層なども異なると思います。執筆の際は、そのあたりも意識して執筆されたのでしょうか?
富士見L文庫は女性がメイン読者層だと聞いているので、『魔王のアトリエ』もメイン読者は女性を想定しました。男性向けの作品はスピード感や分かりやすさを重視していますが、女性向けの作品はキャラクターの心理描写や動作、また背景描写などをなるべく繊細に描くことを意識しています。文体なども文芸寄りの重たいものにするなど、自分なりに書き分けるようにしました。
―—『魔王のアトリエ』では、かつて勇者に恋した魔王の少女と、亡くなった勇者の双子の弟が出会い……という、キャラクター設定と二人の関係性にとても心惹かれました。キャラクターや人物関係を形づくる際に意識されていることはありますか?
作品のテーマを毎回重要視していまして、テーマは主に主人公から欠落しているものになることが多いです。主人公から何が欠落しているのかが分かると、それを満たすことができる人物を第二のメインキャラクターに添えるよう意識しています。
『魔王のアトリエ』の主人公の魔王ヤミはお飾りの魔王で、ずっと人形扱いをされたために自分が何をしたいのか、どうなりたいのか分かっていない人でした。
彼女の人生は暗闇に閉ざされていたので、彼女を照らす人物が必要でした。そこでこの物語のテーマが『光』に決まりました。
彼女を導く『光』となる人物として勇者ルクスとその弟のレイが生まれ、名前も『光』を象徴するものにしました。
ただ、ルクスはヤミの手を引いて先を歩いてくれる人だとしたら、レイは後ろから道を照らして寄り添ってくれる人で、それぞれ導き方が異なるのだなと思っています。
歩き方を知らないヤミにはルクスが必要だったのですが、歩き方を覚えたヤミが一人で歩けるようになるにはレイが必要でした。
『魔王のアトリエ』ではそうした二人の『光』が持つ性質の違いを、物語を通じて読者の方に伝えることを意識しています。
―—『魔王のアトリエ』も『ある魔女が死ぬまで』も、その他の作品も含めて、坂さんの作品は劇場版アニメーションのような、エモーショナルな雰囲気の世界観が魅力の一つかと思います。各作品の世界観をどうやって創り上げていらっしゃいますか?
自分が作品を作る時に「劇場版アニメみたいにしたい」が毎回根底にあるので、劇場版アニメーションのようと言っていただけるのは本当に嬉しいです。
僕はストーリーが先行するタイプで、まず最初にストーリーを作ってからキャラを動かしてみて、メインキャラの人となりや空気感を掴んでから細かい設定を作っています。
また、ストーリーを作る最中に作品のメインビジュアルとなるような印象的なシーンがいくつか画で浮かぶのですが、それが作品の世界観を決定づけているような気がしています。
黄金の稲穂の中を電車が走っていたり、イギリスの街で魔女が桜を咲かせたり、工房で魔王がアクセサリに魔法をかけてたり。
そうしたイメージは今まで見てきた色んな媒体の作品の影響を受けているんだろうなと思っています。
・今後の活動について
―—2025年は、『ある魔女が死ぬまで』のアニメ化と新刊発売、『魔王のアトリエ』書籍発売など、にぎやかな年になりそうです。今後の執筆活動についての展望をお聞かせください。
本当に今回のインタビュー含め、自分の人生では考えられないくらい貴重な経験をたくさんさせていただいていると思っています。商業でいつまで活動できるか分からないのですが、自分なりに面白い作品を模索して更新することは胡座をかかずに続けていきたいです。
―—最後に、ファンの方、読者の方に一言お願いします。
『ある魔女が死ぬまで』をラストまで書けたのは、毎回10件のPVがついていたからです。「確実に10人は読んでくれている人がいる。この人たちに届けよう」と思えたのが一番の理由でした。それがなければたぶん途中で書くのを辞めていました。
皆さんの書いてくださったコメントや感想、イイネなどのリアクションや日々のPVなどが、自分の背中を押してくれました。本当にありがとうございます。
引き続き良い作品を作れるよう頑張っていくので、見守っていただけると嬉しいです。
―—ありがとうございました!
TVアニメ『ある魔女が死ぬまで』2025年4月放送開始
小説『ある魔女が死ぬまで』(電撃の新文芸)
最新第3巻は3月17日(月)発売
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『魔王のアトリエ』(富士見L文庫)
3月14日(金)発売
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