第2話①「パーティー・レギュレーション」
「ま、待ちなさいよ」
明朗な声で楽しげに宣った呂馬であるが、それに制止の声が上がった。利理である。彼女は困惑と、多少の焦りを表情に浮かべながら、呂馬を見据えた。
「いきなり勝手に話を進めないで。こっちには聞きたいことが山ほどあるの」
「おや、そうでしたか。それは失礼、ついつい話すのが楽しくなって話を複雑にしてしまいました。お詫びいたします」
利理の苦言に、呂馬はぺこりと頭を下げて謝罪する。自由に見えて案外几帳面な彼の反応に、利理は一瞬呆気に取られた後、その視線を呂馬からハジメに移す。
「ねぇ、この人貴方の知り合い。なんだか随分言っていることに脈絡がないんだけど……」
「俺に聞くな。俺も昨日会ったばかりだ」
冷たくまた素気なく、ハジメは利理に言葉を返す。その冷ややかさに、利理はやや気圧されるが、同時にその言葉の内容に不審を抱く。
「え、知り合いじゃないの?」
「何をもって俺とそいつが知り合いだと考えたかは不明だが、俺も会ったのは昨日が初めてだ。こいつが、キリング・パーティーについていろいろ知っていると言うから、その情報について求めた。そしたら、その交換条件としてお前をここまで連れてくるように言って来たんだ」
そう言うと、ハジメは呂馬を見る。その視線に答えるように、呂馬は頷いた。
「そうです。今回はキリング・パーティーについての用件でお二人にお会いしたかったのですが、お二人それぞれに話をするよりも、まとめて話をさせていただいた方がこちらも楽で助かると考えましたので、ハジメ様にお願いしてこうして集まっていただいたわけです。幸い、お二人は昨日の一件でお知り合いになったようでしたので」
「待って待って! 話を勝手に進めないで。余計に混乱する」
ぺらぺらと淀みなく話を進める呂馬に、利理は手を前に突き出してその口上を制止させる。
呂馬がそれに応じて口を噤むと、一拍挟んで、利理は訊ねた。
「そもそもそのキリング・パーティーって何よ? 昨日から参加者だの参加しているだの。一体何なのよ、それ。頼むから一からきちんと説明して」
「――だ、そうだ。呂馬、彼女はキリング・パーティーについて全く知識をもっていないらしい。その辺りの説明から初めてくれないか?」
ハジメはそう言い、呂馬に対してキリング・パーティーについて一から説明するように求める。
その言葉を聞くと、呂馬は不思議そうに首を傾げた。
「おや、それはおかしな話ですね? お二人には、すでに大体のルールに関しては分かるように招待状を送っている筈ですが」
「招待状?」
呂馬の話に、利理が不審がる。一体何の話か、招待状とやらが何のことか、利理には全く話が見えない。
その反応に、呂馬は頷いてから首を傾ける。
「えぇ、招待状。もしかして、見ていらっしゃいませんか?」
「これのことか?」
利理に対しての呂馬の言葉を聞き、ハジメは懐からある一枚の封筒を取り出した。それは、白字で奇妙な紋章がデザインされた、黒一色に染められた封筒であった。やや不気味で異質なその封筒を見て、利理は眉根を寄せ、呂馬は手を叩く。
「そうそれです。ハジメ様はちゃんと持っておられるようですね」
「何よそれ? 私はそんな気味の悪い封筒なんて貰ってないわよ」
若干、その気味の悪い封筒に引いた顔を見せる利理を尻目に、ハジメが呂馬に視線を向けると、呂馬は顎を手で擦りながらやや思案する。
「ふむ。それはおかしな話ですね。確かに送ったはずなのですが……」
「はずなのですが、と言っても届いていないのが事実のようだ。こんな封筒、一度見れば記憶につく。そちらの手落ちじゃないか?」
「そうですね。このデザインを忘れるとは思いませんし、届いていないのは事実なのでしょう」
そのように言うと、呂馬は自らの懐へ手を伸ばす。そしてしばらくその中をまさぐってから、服の内側より同じデザインが施された封筒を取り出した。ハジメのそれが封を切っているのに対し、それは未開封のままだ。
それを、呂馬は利理に歩み寄って差し出す。
「これはスペアの招待状です。この際です、利理様に差し上げましょう。どうか中に入っているキリング・パーティーのルールについての説明をお読みください」
「ここに、キリング・パーティーとかいうものについての情報が書かれているのね?」
「左様です」
頷いた呂馬を見て、利理はそれを受け取る。そして、少し躊躇ってから、その封筒を指でつまみ、封を破った。あっさりと開いた封から、彼女は中身を取り出す。
中に入っていたのは、折り畳まれた白い用紙だ。
それを広げると、そこには文字が記されている。横書きの文章で、手書きではなくパソコンか何かで打ち込まれた文章だ。それは日本語で書かれており、利理にも容易に読み進めることが出来た。
文章の内容は、こうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おめでとうございます。貴方はこの度、キリング・パーティーに招かれることが決まりました。
キリング・パーティーとは、選りすぐられた千余名の参加者による予選と、そこから勝ち残った二十名による本選によって競われる殺し合いの大会です。
この大会での報酬としては、むこう百年に及ぶこの世界の観測者としての地位と権限を始め、賞金十億ドル、個人の願望を一つだけ成就させる魔法具の進呈を予定しております。
なお、予選から本選への出場条件としては次の三つを満たすことが必要となります。
一、参加候補者の一定数を殺害すること
一、一定数の参加者と遭遇して生き残ること
一、上記の条件を満たした上で、大会の主催者または進行役と接触し、本選出場の意思を表明すること
本選出場を決めた方に対しては、また後日本選用のルールを記した手紙を配布いたします。
それでは、是非生き残ってキリング・パーティー本選への出場権を勝ち取ってください。
大会主催者より
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……なにこれ」
目で文章を追い、それを読み終えた利理は、素直な所感を口に出した。文章の内容は、キリング・パーティーとやらの大雑把な説明であったが、その余りに突拍子のない内容に、利理は困惑を覚える。
茫然とする彼女に、文章を読み終えたことを悟った呂馬は、にっこりと柔らかな笑顔で会釈する。
「いかがでしょう。キリング・パーティーについて、ご理解いただけたでしょうか?」
「いや、いやいやいや」
訊ねられ、利理は表情を強張らせながら首を振る。呂馬を見ると、彼女は招待状を指で差しながら、彼に言う。
「なんなのよ、これ。全くもって意味が分からないんだけど……」
「まぁ、それが正常な反応だろうな」
困惑と動揺、そして苛立ちにまみれた彼女の反応に、ハジメが平然とした様子で、自身の持つ招待状を見ながら口を開いた。
「一見丁寧に説明されているように見えて、書いてある内容が意味不明だ。いきなり殺し合いの大会への正体など抜かしている時点で、普通の人間なら突っ込まざるを得ない」
「左様ですか? 一応、大会の趣旨と報酬、ルールについて無駄な装飾なく分かりやすく記したものなのですが」
ハジメの酷評に、呂馬が怪訝そうな顔で首を傾げる。どうやら彼には、二人の疑問が解せないようである。
それを見て、ハジメは表情を変えぬまま、しかしげんなりとしているのが分かる声色で言う。
「おそらく、理解しているのはこの文章を書いた人間たちだけだろうな。これから分かるのは、この大会が開かれるのが事実なら、相当頭のぶっ飛んだ馬鹿が起こした催し物であるに違いないということぐらいだ」
「失礼ですね。それは、主催者である我が主への冒涜ですよ」
皮肉と言うより暴言に近い発言を口にするハジメに、呂馬はやや不満そうに眉を持ち上げた。ただ、そこに怒りの色はなく、相変わらずどこか柔らかい。
「具体的に、どの部分が分からないというのですか? 要旨はきちんと押さえてあるでしょう?」
「全然押えていないな。まず、大会といっても場所や時間、規模などがまるで書かれていない。これでは、一体どの範囲や期限で殺し合いをすればいいかもわからない。そしてそれ以前に、殺し合いの大会とかいうものを催している理由が明確ではないからな」
「そ、そもそも何で私たちを勝手にその参加者に選んだのよ。意味が分からない」
比較的文章を読んであれこれと考えを巡らせたハジメと、今招待状を読んだばかりである利理は、それぞれ違った反応と疑問を口にする。ハジメの方が冷静に文章の欠陥を突いたのに対し、利理はどうして自分がこんなことに巻き込まれなければならないのかという直情的な疑念を言葉にする。
そんな二人の反応に、呂馬は糸目を瞬かせながら、顎に指を添えて考える。
「そうですね。そう言われると、確かに簡略化しすぎて話が上手く伝わらなかったかもしれません。では、お二人の疑問に一つずつ答えていきましょう」
緩やかに唇で弧を描きながら、呂馬はそのように提案する。二人がそれに異論を唱えずにいると、呂馬は二人が了解したと考えて、話を始める。
「では、最初にキリング・パーティーの開催理由について答えましょうか。そもそも大会を開くのは、これまで世界の観測者という地位にあった我が主が、新しい観測者へ引き継ぐためにその選定を行なう際に、何か良い選定の方法がないかを考えたかがきっかけです。主は自分の現在の地位を、猛者たちの殺し合いの中でもっとも優れた者に譲渡しようと考えたわけです」
「待て。世界の観測者とはなんだ?」
早速意味の分からない単語を言葉にされたことで、ハジメが口を挟む。その問いに、呂馬は糸目を更に細めて答えだす。
「文字通りに世界を観測する者、記録者です。この世界にはおよそ八百年前から、全世界を正しき方向に持っていくように誘導する支配者が存在しているのです。それが、世界の観測者です。細かいことについての説明は長くなるので省きますが、物語を紡ぐ小説家、会社経営をすべて主導するオーナーのようなものと御理解いただきたい」
「そんな人間が、この世に実在すると?」
「はい。信じるか信じないかは別ですが、大会主催者がそのような地位を持っているのは事実です。そしてその地位を、この大会を通じて優勝者に明け渡す気でいるのです」
ハジメからの疑念に、呂馬はそのように答える。
それは、何とも壮大であり、かつ誇大しているのではないかと思える、荒唐無稽で信憑性にいまいち欠ける話であった。世界がそんな人間の一手によって紡がれているなど、常識的な考えの持ち主なら鼻で笑って済ませるような内容である。
そんなことを大真面目に語る呂馬に、ハジメは無反応、利理は困惑を浮かべたままであった。それを見て、呂馬は続ける。
「開催理由についてはこんなところです。続いて、ハジメ様が気になっていた大会の期限や範囲についてお答えしましょうか。この大会は、世界各地で行われています。招待状が届いた時点で大会は開始されており、参加者同士は殺し合いを繰り広げております。なお、予選の期限は本選に出場する二十名が決定した時点まで行われる予定です」
「つまり、すでに大会は始まっていると?」
「えぇ。そして、現在の時点で仕留めた他の参加者の数は、きちんと撃破数として確認しております。中には、すでに本選への出場条件を満たした人もおります」
招待状にあった、一定数の参加者の殺害と、他の参加者との遭遇は既にカウントされているらしい。
中にはそれら二つに最後の一つの条件を既に果たして、本選への出場を決めた人間もいるということだった。
「ちなみに、お二人ともすでに参加者の数名を殺害しています。具体的な数は他の参加者同士が会っている現状では公開しませんが、その数は予選突破の第一条件を目指すのに近い数です」
「待って。私、他の参加者とやらを倒した覚えはないわよ」
呂馬がさらりと口にした言葉に、利理が口を挟んだ。利理は、キリング・パーティーの詳細やルールを今知ったばかりだ。そんな自分が、すでに何人もの参加者を殺害しているはずがないと利理は考える。
それに対して、呂馬は首を振った。
「覚えはなくとも、実際には何人も殺しているのです。招待状を知らなかったことからすると単なる偶然と見るのが妥当でしょうが、利理様は咎人狩りとして何人かの咎人をここ一カ月で仕留められたでしょう? その者たちの何人かが、キリング・パーティーの参加者だったのです」
そう言われ、利理は驚きで目を見開く。確かに彼女は、ここひと月で三・四人の咎人を討伐している。彼らの内何人かが、偶然にもキリング・パーティーの参加者だったのだという。
単なる偶然か何者かの意図か、どちらにせよその事実に驚愕で固まる利理へ、呂馬は彼女からハジメに視線を移す。
「ちなみにハジメ様も相当の数の人間を仕留めていらっしゃる。本選出場決定まであと一歩と言う数までね。そしてお二人とも、第二条件である多くの参加者との遭遇も果たしている」
ゆるりと笑いながら、呂馬は告げる。そこには、彼らの健闘を心から喜ぶ様子が感じ取れる。
「お二人とも、三つの条件をほとんど満たしています。本選への出場を決めるまであと少しだ。だから私はこうして、お二人に会ってその事を告げにきたのです」
「待って! それってつまり、そのキリング・パーティーに私もかなり足を突っ込んでいるってことよね?」
多少焦りを含みながら利理が訊ねる。それに対し、呂馬はその言葉を不思議に受け取った様子で、双眸を細めながら顎を引いた。
「えぇ、そういうことになりますね。それが何か?」
「私、こんな滅茶苦茶な大会とやらに参加する気はないわよ」
キリング・パーティーの話をあらかた聞いたところで、利理ははっきりと自らの意思を示す。その言葉に、呂馬が眉根を持ち上げながら寄せて、ハジメが凝然と彼女を見据える。
二つの視線を浴びながら、利理は言葉を紡ぐ。
「こんな馬鹿げた殺し合いの大会なんて、まっぴらごめんよ。大体、どうして私がそんな殺し合いの参加者に名を連ねられたというの?」
「参加者については、一人一人が世界の観測者である我が主によって選定されました。どの方もすぐれた戦闘能力を持ち、また観測者にふさわしい素質を持っているという理由で選び抜かれたのですよ」
反発気味な利理に、呂馬は回答する。その返事は、利理の言葉に対するものとしては、どこか的外れな印象もうける。
「これはとても名誉なことです。選定者の候補に選ばれるというのは、本来非常に重い意義があるのです」
「そんなことどうだっていい。そんなことよりも、私たちの意思に関係なくこんな催しに巻き込もうとしている時点でどうかしている。誰が進んで殺し合いなんてするもんですか!」
「それは、つまりこの宴から降りたいと、そうおっしゃっておられるのですか?」
声を荒げる利理に対して、呂馬は静かに、糸目を極限まで細めたまま利理に訊ねる。
質疑に対して、利理は即座に頷いた。
「えぇそうよ。私はこのキリング・パーティーとやらからは降りる。とっとと参加者の中から除外して頂戴」
「……誠に残念ですが、そうはいきません」
利理の要求に対して、呂馬は沈痛な顔つきで首を振る。その言葉に、利理は「なんでよ!」と反感を持った様子で訊ねる。
「主催者からは、一度参加を要請した人間は予選が終わるまで棄権を認めない方針です。主に選ばれた以上、本選へ出場を決めるか、死ぬまで参加させて頂きます」
「つまり、棄権はないということか?」
二人の会話を静観していたハジメが、呂馬の言葉を聞いて口を挟む。参加が定められた参加者にはそれを降りる権利はないのか、そうハジメは確認する。
「はい……。あぁいえ、一つだけ棄権を認める条件はあります」
「なんだ?」
「棄権するには、一度本選への出場条件をすべて満たしていただく必要があります。その上で、主催者か進行役に対して、棄権の意思を伝えることで、棄権の意思は受け入れられます」
「なによそれ! 勝手に参加させられた上に、それを抜けるには誰かを殺さなければならないってこと⁈」
例外的な棄権の方法に、利理が即座に反応する。声を荒げて憤りを露わにする彼女に、呂馬は波一つ立てない冷静沈着な面持ちで頷く。
「そうです。それがルールを作った主催者の決定です。今からそれが変更されることはありません」
「冗談じゃない! 誰がそんな大会に参加するもんですか!」
大会主催者が定めたその理不尽な言い分に、利理は怒る。彼女からすれば、世界の観測者だか何だか知らないが、自分の知らない人間から殺し合いを強要される謂われはない。
猛反発する利理に、呂馬はふぅと一息ついてから両手を腰の後ろで組む。
「不参加を決め込むならばご自由に。しかし、大会運営者は決して貴方の棄権を認めません。一度本選突破を決めて不参加を取りつけるまでは、他の参加者から命を狙われても一切責任は負いませんので」
「なっ――」
慇懃な口調ではあるが、不条理な言葉を告げた呂馬に対し、利理は沸点を越えたあまりか絶句する。わなわなと身体を震わせる彼女に、しかし呂馬は柔らかい表情を浮かべたままだ。
「逆に言えば、一度本選を突破すれば、棄権を了承して以後は他の参加者に狙われないように責任を負うということだな?」
怒る利理とは対照的に、ハジメは冷静に呂馬へと問いを発する。呂馬の言い分を聞くならば、ハジメが言うような論理が成り立つのは当然だ。
それに対して、呂馬は頷く。
「勿論。あくまで、本選までの突破を決めた場合のみですが」
「なるほどな。ちなみに、大会の進行役というのはお前の事か?」
「えぇ、私です。他にも数名いますが、日本地域については私の管轄ですので」
そう言うと、呂馬はふと視線を自らの右手首へと落とす。そこにはブランド物の腕時計が巻かれているが、彼はそれを見て顎を引く。
「――と。言い忘れていましたが、時間のようです」
「時間?」
「えぇ。言い忘れておりましたが、大会進行役は公平を期すために、参加者一人当たりの質疑応答の時間は限られているのです。すでに、お二人分への回答時間は終了しました」
時計から顔を上げてそう語ると、呂馬は一歩後方へ足を引く。そしてそのまま、半身だけ後ろへ振り返って、二人に対して会釈する。
「それでは、私はこの辺で失礼させていただくことに致します。次お会いする時は、おそらく本選突破を決めた時になると思います」
「なっ、ちょっと待ちなさい!」
この場を去るつもりであるらしい呂馬に対して、利理は声を放つ。そこには、根深い怒りがこもっている。
「こんな理不尽な大会に本当に参加させる気⁈ それに、こちらにはまだ訊きたいことや言いたいことがたくさん――」
「残念ですが、これ以上の会話は許されておりません。諦めてください」
困ったように笑いながら、呂馬は視線を利理から二人全体に向ける。そして、再び頭を下げた。
「それではお二人方、無事生き残って本選へ参加されるのを楽しみにしております。ご機嫌よう」
「待ちなさい!」
この場を去ろうとする呂馬に、利理はそうさせないとばかりに掴みかかろうとする。手を伸ばした彼女であるが、その手は呂馬に触れることなく、空振りに終わった。その場にいた呂馬だが、彼はその映像をゆったりと揺らして、やがてこの場から消失したのである。残った残像だけが霞み、呂馬の姿はどこへと消えて行った。
おそらくは、空間転移魔術と呼ばれる魔術を使ったのだろう。その場から一瞬で、事前に指定しておいた場所へ跳ぶ魔術で、高等な魔術師だけが使える移動術の秘儀であった。
消えて行った呂馬に、利理は悔しげに手を伸ばしながら歯噛みする。昨日からずっと疑問であったキリング・パーティーへの疑問は、彼との邂逅で大方解決していた。しかしながら、それが自分にとっては何の利益にもならないこと、かえって不利益である事だという事が判明して、その事に彼女は怒りを覚える。無理やりにでも自分を殺し合いに巻き込もうとするその大会主催者や進行役に対して、彼女は今となってはどうすることも出来ない怒りを覚えていた。
事態は、後転するどころか暗転したことを感じながら、利理は伸ばしていた手を引いて拳を握る。憤りで身を震わせる彼女は、じっと呂馬が消えた場所を睨みつけていた。
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