エピローグ「またね」

『正直言うとな、俺はお前が組織からの命令に刃向う意思を見せた時、怒りを覚えた反面、嬉しかったところもあるんだよ』


 場所は、人混みが盛んに往来する駅前の広場である。そこで携帯電話を手にしていたハジメは、駅の構外にある壁に背をかけながら通話をしているところであった。

 携帯電話の向こうから返ってきた相手の言葉に、その声を聞いたハジメは不審げに眉根を寄せる。


「どういうことだ?」

『これまでのお前は、組織の傀儡のようだった。どんな過酷な任務、無茶な命令に対しても、お前の答えはすべてYES――反発も不満もぶちまけることはなかった。それが、不安でな……』


 ハジメの問いかけに答えつつ、相手は感慨深そうに言う。その言葉を受けて、ハジメはますます怪訝な様子で目を細めた。


「どうして不安なんだ? 組織からすれば、俺は言うことに対して反発しない忠犬のようで、御しやすく楽だったと思うが」

『馬鹿。そういうことを自分でいうか。自覚がある分、性質が悪いわ』


 電話の相手は、ハジメの問いかけに対して苦笑いを浮かべた。軽く彼の言葉を注意すると、相手は咳払いをして、続ける。


『組織としては確かにありがたいが、お前が自分の意思というのを持たずに組織の命令に従ってばかりというのは懸念材料でもあったんだよ。自分の意思を持たない人間は大抵不気味で、切羽詰まった状況などで、どう動くかが分からん。それに不安や懸念を抱いたとて不思議なことではないだろう?』


 そう言って訊ねてくる相手に、ハジメは納得する。

 確かに、組織とすれば考えの分からない構成員が一人いるというのは不安要素であろう。規律を慮る組織ならなおのことで、腹の裡が分からない人間というのは存在自体が厄介だ。


『それに、俺も義理とはいっても一人の親だ。お前が自分の意思というものをこれまで見せてこなかったことに、内心忸怩たる覚えがあったのさ。育て方を間違えたのではないか、そんな風にな』

「それは、初耳だな。そんなことを思っていたのか、千里は」


 相手、千里からの告白に、ハジメは目を瞬かせながら訊ねる。それに対して、『あぁ』と千里は受話器の向こうで頷いた。


『息子が自分の意思を、感情を持って動いてくれたことでひとまず安心した。無感情で血の通っていない暗殺マシーン――というのは組織としては重宝するが、俺個人や会長も、内心はそういう人間が組織にいるのは望んでいないからな』

「……冷静に考えると、暗殺組織らしくない考え方だな。千里も会長も」

『ははは……。その点いうと、お前たちの方がまだ暗殺組織らしい考え方をしているともいえる』


 ハジメの指摘に対して、千里は苦笑する。そうすることで、相手側が口にした呆れ混じりの指摘をごまかした。


『とにかく、今回の件でお前にも人並みの感情というのが宿ってくれたようでよかったよ。俺も内心は安心した』

「そうか……。けど、組織の命令に背いたことは、正直済まなかった」


 胸を撫で下ろしている様子の千里の言葉にハジメも内心安堵しつつ、しかし謝るべき所はきちんと謝罪する。


「俺の自分勝手で、千里にはかなり迷惑をかけた。会長たちも怒ったんじゃないか?」


 組織からの帰還命令を無視して利理の救出に向かったことを、ハジメは詫びる。それは重大な規則違反で、ハジメだけでなく、ハジメの義理の親で上司でもある千里に対しても甚だ迷惑だったはずだ。

 そのことを謝ったハジメに、千里は掠れた笑い声を漏らしてから言う。


『あぁそれな。それは、なんだ……一応誤魔化しておいた』

「は?」


 千里の返答に、ハジメは再び眉根を寄せる。意味を即座に理解出来なかった彼に、千里は言う。


『お前が組織の命令に背いて独断を取ったことは、俺の胸の内に収めておいたということだ。こうして連絡を取ってくるまで、お前とは連絡が取れていないことにしておいた。だから、お前が組織の命令に違反したことを知っているのは、今の所俺だけだ』


 笑いを含んだ和やかな声で、千里はハジメに告げる。その処置にハジメは沈黙するが、千里は続けた。


『もっとも、会長あたりは薄々勘付いているとは思うけどな。そう考えると、命令違反を知っているのは俺と会長の二人だけというのが適確かもしれない。まぁともかく、お前がそこまで気に掛ける必要はないということだ』

「……そうか。気遣いありがとう、千里」


 千里の配慮に対し、ハジメは素直に謝礼する。千里は軽く言っているが、やっていることはかなり大変なことだ。組織の存在を秘匿にしているのもあって規律も厳しい【九頭竜会】の中で、その多くの構成員を騙すようなことをしているのは危険も伴う。にもかかわらず、千里はハジメのために、事実とは違う報告をして彼の身を守ってくれたのだ。これには、神妙に感謝しなければならないことだろう。

 ただ、それに対して千里は恩着せがましくはない。


『あぁ気にするな。もっとも、こういうことが許されるのは今回だけだからな。今回は、お前がキリング・パーティーとかいうふざけた殺し合いに巻き込まれてしまった、俺たちが調査という名目でお前を派遣して深く巻き込むような形にしてしまったのもあるし、今回に関しては大目に見るが、今後組織の任務、命令に対して裏切ることは決して許さない。一時の感情に左右されて、組織の命令を軽んじるようならば、お前といえども容赦はしない。分かったな?』

「分かっている。俺だって、何度もこんな我儘が通じるとは思っていない」


 念を押してくる相手に、ハジメは頷いた。彼とて、そう軽々しく組織を裏切るような行動を取れる・出来るとは思ってはいない。下手をすれば裏切り者として命を狙われることになっても文句がいえないことを、ハジメは重々覚悟している。

 今回に限っては、それを覚悟して命令に背いたが、また同じようなことをしようとは考えていなかった。

 ハジメがきちんと注意を受け止めているのを聞き、千里は大きく息をつく。


『まぁ、その、あれだ。今回の件が遅れてきた反抗期ではないことを切に願うよ』

「それは、軽く俺を子ども扱いして馬鹿にしていないか?」

『いやいやいや。そんなことはないぞ。お前はとっくに一人前だ。年齢こそあれだがな』


 珍しく、千里はおどけるような口調でハジメの疑念をごまかす。それに対して、ハジメは呆れた様子で失笑した。そういう表情を浮かべたのみで、深く追及するようなことはしない。


『ところで、一つ訊ねるが……』

「ん? なんだ?」

『その、今回助けた【魔法学団】の娘とはどうなった? 咎人の許から助け出すことは成功したのだろう?』


 やや声を真面目なトーンに変えて、千里はハジメに対して訊ねる。その問いの内容に、ハジメも笑みを消して真顔になる。


「彼女とはこれから別れる。直に迎えが来るらしくて、それに乗って【魔法学団】の本部へ帰るとのことだ」

『そうか。未練はもう、なくなったか?』


 ハジメの心中に探りを入れるように、千里はハジメに問いかける。それに対し、ハジメは頷く。


「あぁ。彼女に対する未練や執着ならもう既に無くなった。これから少し話すかもしれないが、直に別れは告げてくる」

『ならばよい。間違っても、互いの連絡先など交換してはならんぞ』

「そんなことはしない。どこの学生だ」


 真面目な千里の注意に、ハジメは鼻を鳴らして答える。そのような迂闊な行動は取る気はない。

 下手に今後互いに交流を取るためだといって連絡先を教えてしまえば、そこからハジメの組織の足取りが掴まれてしまうかもしれない。あくまで、ハジメが属しているのは秘密主義の暗殺組織だ。犯罪組織とも言ってよいその組織は、平和な社会に貢献している【魔法学団】と相容れるものではない。ゆえに、互いの足取りが掴めるような情報を相手に伝えるのは御法度であった。


『分かっているならよい。だが、念のためにもう一度言うぞ。決して彼女に固執したり、恋慕などの感情を抱いたりすることは許さないからな。彼女とは、ここできっぱりと縁を切ってこい』

「あぁ、そのつもりだ」


 再びハジメは頷き、それから手元に視線を落とす。腕に巻きつけた時計の時刻を確認する。


「じゃあ早速、彼女と別れの挨拶を交わしてくる。それが終わったら、すぐに本部へ戻りに動くよ」

『あぁ。道中、気を付けてな』

「分かっている」


 返事を返すと、ハジメは電話を切った。

 そして、しばらく切った電話の液晶画面に目を落とし、顔には出さずに内心安堵する。千里とは、昨日口論になってから連絡を取っておらず、今しがたの会話でも昨日の続きが始めるのではないかと危惧していた。

 だが、そんな憂虞とは裏腹に、会話を恙なく行なうことができ、無事和解をすることにも成功した。叱責や弾劾の言葉が飛んでくることも覚悟していたことから、それが飛んでこなかったことにもほっとする。千里は懐が深く、寛大で気配りが出来る人間であったのが幸いであったと言えよう。

 彼の度量に感謝しつつ、ハジメは身体を預けていた背後の壁から背を離す。

 そして、周囲の人混みに紛れながら、背後に立つ建物、駅の構内へと正面口から入って行った。


   *


「そろそろ、お互いに迎えが来そうね」


 駅の構内、改札口のすぐ手前において、利理がそう口を開く。彼女は電車の時刻表を確認すると、それから横目でハジメを見た。


「そうだな。俺の方は、あと五分もすれば到着するみたいだ」


 同じく電車の時刻表を眺めながら、ハジメは応答する。時刻表を見たところ、電車は遅れなく運行しているようで、彼が乗り込む予定の電車も当初の予定通り駅にやってきそうであった。


「傷は、大丈夫?」


 時刻表に目を向けたままのハジメに、利理は少しだけ心配そうに訊ねる。

 傷とは、昨晩の戦いで負ったもののことだ。クローズとの死闘を演じたハジメは、その身体に相当の傷を負わされ、意識を失うほどに憔悴していた。その時の傷の具合は命も危ぶまれるほどの重い物であり、利理の魔術による治療がなければそのまま垂れ死んでいたかもしれない。

 ただ、利理の迅速な介抱の甲斐もあって、現在のハジメの体調は安定している。傷の後も外見上ではほとんど消えており、あとは目では確認出来ない分のダメージが回復するのを待つのみであった。


「大丈夫だ。戦うことにはしばし支障が出るかもしれないが、日常生活を送る分には困るようなことはなさそうだ」

「そう。なら良かった」


 ハジメの返答を聞いて、利理は安堵した様子で微笑む。その優しい笑みを、ハジメは横目で見てから頷いた、


「お前がいなかったら、俺は二度死んでいた。感謝する」

「御礼なんていいわよ。私だって、貴方が助けに来てくれなかったら殺されていたもの。お互い様よ」


 肩を竦ませながら利理はそう言葉を返す。その言葉に、ハジメも納得した様子で「そうだな」と顎を引いた。

 その後、二人はともに正面に目を向けて沈黙する。話がうまく発展しなかったゆえのしばしの静けさの中で、二人はお互い何か言葉を探す。

 やがて、ハジメが横目を向けて口を開く。


「これから、どうする気だ?」


 切り出したハジメの言葉に、その内容がいまいち分からなかった利理は、疑問符を浮かべながら振り向く。説明を求めるような視線を受け、ハジメは続ける。


「お前は、キリング・パーティーから降りたんだろう? これからどうするかは決まっているのか?」


 それは、あまり聞いたところで意味がないものと思いつつ、ハジメは気にかけずにはいられなかった心境から訊ねていた。その問いに、利理は少し考えてから答える。


「多分、これまで通りに咎人狩りを続けると思うわ。ただその前に、修行しなければならないかもしれないけど」

「修行?」


 訝しがると、利理は頷く。


「今回の戦いで、私は自分の実力不足を痛感したからね。二度とこんなことにならないように強くならなきゃって思っているの。だからしばらくは、鍛練に励む日々になると思うわ」


 答えながら、利理は目を細めた。その目から、少し悔しさという色が見て取れる。彼女は今回の一連の騒動で、裏切り者の美冬は討ち取ったものの、敵首魁のクローズに対しては手も足も出ずに捕えられた。そのことに対して、彼女は己に憤懣たる思いを感じていたのである。

 それを解消するためには、今よりもっと強くなるしか方法はない。そのための特訓を、彼女はこれから行うという。


「もう、キリング・パーティーからは離れるだろうけど、もう一度同じような状況に直面しても大丈夫なように強くならなきゃいけないから」

「いい向上心だな。感心する」

「本当にそう思っているの?」


 言葉では褒めているが淡々とした様子言うハジメに、利理はからかうように笑いながら訊いてくる。それに対し、ハジメは「勿論」と頷くが、その反応が利理の笑いを更に誘った。

 ひとしきり笑ってから、利理はその笑みを消し、正面に目を戻して、口を開く。


「でも、一つだけ気にかかることがあるの」

「なんだ?」

「キリング・パーティーを辞退する時に、呂馬から聞かされた言葉なんだけど……」


 話の内容は、昨晩まで巻き戻る。

 彼女はハジメが気絶した後、彼の治療を行ないながら、キリング・パーティーの進行役を務める呂馬に対して、正式にキリング・パーティーを脱退する意思を表明したのだ。それを聞き入れた呂馬は、利理のその決断は想定していただろうが、それでも惜しむような、残念がるような反応をしたとのことだ。

 それと同時に、彼は次のような言葉を残したと言う。


「彼が去り際言っていたの。『今がそのつもりなら仕方がない。けれど私は、貴方の本選参加をいつでもお待ちしていますよ』って。どういう意味かしら?」


 やや怪訝そうに言葉の内容を伝える利理に、ハジメも思案を巡らせる。

 利理がキリング・パーティーの本選からの離脱を申し入れたにもかかわらず、呂馬は参加をお待ちしているという言葉を返したというのは些か不審だ。棄権をして戦いから離脱する人間に対して告げるには少し不可思議なその言葉に、ハジメは考えを巡らし、そして仮説を立てる。


「今はそのつもりがない――というのはつまり、いずれお前が自分からキリング・パーティーに参加したく思うことでも起きるかのような言い方だな。そんな含みがある様な気がする」

「やっぱりそう思う? あの男、何か企んでいるんじゃないかって不安になる。私が棄権した以上、戦いにはもう巻き込まないことを保証してはいたけれど……」


 胸の下で腕を組みながら、利理は難しい顔を浮かべた。あの男・呂馬の言動は、最後まで意味深で含みのある物だった。自分は無干渉な進行役と謳っていたが、その裏では何か彼なりの思惑があって動いているような気配もある。何か悪巧みしているのではないか、そんな不審な臭いが感じ取れた。


「用心に越したことはない。気をつけろよ」

「うん。分かっている」


 注意喚起に利理は頷くと、それから疑問の目で、ハジメを見上げた。


「ちなみに、貴方はこれからどうするの? 貴方も確か本選出場の権利は得たけど、回答は保留にしたままなんでしょう?」


 訊ねられ、ハジメは顎を引く。

 本選出場を決めた二人の内、利理は呂馬に対して棄権を通達したが、ハジメはまだどうするかの意思を表示していない。彼はどうする気か、このまま戦いに参加するのか、それとも利理同様に棄権するのかが、利理には気になる所だった。

 彼女の問いに、ハジメは応じる。


「俺がキリング・パーティーにこのまま参加するかどうかは、組織と話し合って決めるつもりだ。大方の内容は分かったが、まだまだキリング・パーティーは謎が多すぎる。それを調べてから、進退を決めるつもりだ」


 これまで通りに、ハジメは今後の自分の取るべき方針は組織と相談して決めるつもりだった。組織がどう判断するかはまだ判然としていないが、どちらになるにせよ、ハジメはその決定に従う腹積もりである。

 そんなハジメの言葉に、利理は黙して目を細める。彼女は何か言いたそうであったが、それを言葉にすることはしなかった。

 そんな彼女の表情を気にはかけなかったハジメは、そこでふと目を電車の時刻表に戻す。


「――じゃあ、そろそろ俺は行く。ここで、お別れだ」


 そう言うと、ハジメは改札に向けて一歩前進する。その動きに、利理は唇を僅かに引き締める。


「そう。行くのね」

「あぁ」


 利理の言葉にハジメは頷く。

 別れの時が近づいていた。

 たった二日の間であるが、ハジメも利理も、互いの命を助けあうという濃密な時間を過ごし合った。正直なところ、まだまだ交わしたい言葉がいろいろとある。時間が迫っているのが惜しいと感じるほどに、彼らの胸の中にはまだ積もる思いがあった。

 二人が言葉を交わしたいと思うのはそれだけではない。これからの別れは、もしかしたら二人にとって永遠の別れになるかもしれないからだ。ハジメが属する【九頭竜会】という組織は特性上、【魔法学団】と積極的な交流を図ることは考えられない。これまで通り闇に潜む組織として、ハジメは生きていくことになるだろう。また、再び出会うことがあったとしても、その時は味方であるという確証もない。敵同士で対峙する公算も充分に考えられた。

 そのことを、言葉にせずとも二人は悟っている。

 しばらくして、ハジメが動き出した。彼は改札へと向かうと、改札機に切符を通す。


「ハジメ!」


 駅のホームへ向かおうとする彼に、利理は声をかけた。ハジメは振り向く。

 見つめ合い、しばらく沈黙が降りるが、そこで利理はニコリと笑う。それは、快活な彼女らしい明るい笑みであった。


「じゃあ、またね!」


 そう言うと、利理は踵を半分だけ返し、ハジメに顔だけ向けた後、もう一度笑ってこの場を去ろうとする。

 その言動に、ハジメは目を点にする。利理が最後に口にした言葉が、別れの挨拶ではなく、再会を誓う言葉だったからだ。

 その言葉に一瞬固まったハジメは、しかし彼女が遠ざからないうちに口を開く。


「利理!」


 今度はハジメが呼び止めると、利理は一歩足を進めたところで振り向く。笑みを薄めて振り向いた彼女に、ハジメは片手を上げる。そして、その顔に、彼としては希少な笑みを浮かべた。


「……またな」


 少し躊躇いを含みながらも、ハジメはそう告げる。そして、相手の反応を見ることなく、踵を返して改札を抜けて行った。

 自分の態度に利理がどう反応したかは見ていない。しかし、彼女がどんな反応をしているか、ハジメは不思議と悟っていた。

 改札からホームへ向かうハジメを、利理は目を瞬かせつつも笑顔で見送った。そして、彼の姿が見えなくなると、彼女も踵を返して駅の出口へ向かって進みだす。しばらくすると、彼女の姿も、駅を出入りする人の群れに紛れて、解けるように消えて行った。


 ハジメが駅のホームに出ると、ちょうどその時、彼が乗る予定の電車が到着する。

 それと同時に、ホームには冬の到来を知らせる北風が吹いた。酷く冷える風が吹きつけ、電車待ちの乗客が震える中、しかしハジメの心の裡は、それに負けない温かな心地で満たされている。

 やがて、停止した電車がドアを開く。

 電車内から客が降りると、それに入れ替わるようにして、ハジメは電車に乗り込む。彼は自分の組織の本拠地へと戻るべく、電車内に一歩を踏み出した。


 ドアが閉まり、電車は発車する。

 その中に乗り込んだハジメは、座席から窓を通し、これから去る街の景色を見つめた。景色は、流れるように移り変わり、電車が街を後にしていく。


 この出発が、ハジメにとってまた新たな始まりであることをハジメは知らない。


 しかし確実に、自分の中で何かが変わり始めているのを感じながら、ハジメは旅路へとつくのだった。

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キリング・パーティー! 嘉月青史 @kagetsu_seishi

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