『蟹地獄』【修】






 雨がざぁざぁに降りしきる。空を覆う濁り黒った雲からは、ごろごろと雷を溜め込む音がした。

 足元を、薄い水の膜が流れていく。これは、排水溝を通して下の河へと雨水を逃がすため、橋全体がごくごくゆるやかな傾斜構造をしているためだ。

 背景は曇天に大雨の中で鉄筋コンクリート橋という、明度と彩度を極端に欠いた舞台装置の上、僕は改めて、対峙している敵を注意深く観察した。

 灰色グレーに鈍った視界の中でひと際目立つ、カニ色の外套を纏った男――須藤將臣。元刑事だけあって、用心深そうだ。ふざけた格好をしているが、体配りに隙は無い。

 須藤の隣にいる男は、おそらく事件に絡んでいると見られる〝整形屋〟だろうか。あの、蟹澤の潜伏先だった空き家に残されていた、切断された右手――あれは、彼のものだったに違いない。そして、僕達が蟹澤だと思い込んでいたあの死体は、無関係の人間を材料にして〝整形屋〟が作り出した偽物フェイク……ということか。

 奴らの持つ裏社会のコネ、もしくは警察のルートを使えば、抗争や犯罪絡みで死んだ「表に出せない死体」や、捜索願も死亡届も出されていないような無縁仏をこっそり調達してくることは、不可能ではないだろう。そうやって依頼人である蟹澤の死を装ったあと、蟹澤自身の顔も造り変え、完璧な逃亡を図らせるつもりだったのだ。だが、そこは犯罪者どうし、何かしらのトラブルで破綻してしまった――と考えるのが自然か。

 須藤たちプロの犯罪者組と、僕たち特殊警察&アフターダークセキュリティ組。双方に挟まれて、当の逃亡犯蟹澤は、血まみれの息も絶え絶えで、ひたすらおろおろと狼狽していた。無理もない。彼にとってはこの上ないバッドシチュエーションだろうから。……同情はできないけど。

 僕は拳銃をホルスターから抜き、慎重に一歩を踏み出した。

 すると、須藤もそれに合わせて、静かな一歩を踏み出す。そして天に振りかざしたこぶしを、たなごころに変えてバッと振り下ろす――――


「――〝蟹群行軍歌ザ・クラブマーチ〟!!」


 元・蟹刑事須藤が、自信に満ちた表情で、号令のような声を上げた。その一声は、さながら将が告げる開戦の合図――――。

「(一体、何が起こるのか……)」

 敵の挙動を警戒しつつ、古典的な「ウィーバースタンス」で銃を構える。

 ウィーバースタンスでは、標的に対して半身に近い状態で銃を構えるのが基本となる。弾の命中精度に関しては近年疑問符が付けられることも多い射撃姿勢だ。だが、その重心のとりかたや手足の配置・足運び等には、空手の構えや、一部のボクシングにおけるディフェンシブなスタイルとも共通点があり、不慮の接近を喰らったときにも格闘戦に移行しやすいという利点が存在する。拳銃弾が決め手になりにくく、近接戦闘力の高そうな異能者が相手の場合は、充分に有用なスタンスなのだ。

 この構えを維持し、少しずつ距離を詰めていく。

 すると。

 パキッ――――――。

 足の裏から、何かを踏みつぶしたような音と感触が、伝わってきた。

 おそるおそる、足をどけて、その正体を確認する。そんな僕を見て、


「安心しろ、だ――――」


 と須藤が言った。

 ああ――(何が安心なのかよく分からないけど……でも)確かにカニだ。カニが潰れて、死んでいた。

 そして、潰れた蟹のまわりにも、一匹、二匹、三匹、四匹、五匹、いや、十匹以上……おや、もっとだ。わらわらと、蟹が――――。

 須藤の奇抜なコート姿も、声高に叫ばれた能力名も、すべては注意を逸らすための意識誘導ミスディレクションだった――――攻撃はすでに、僕たちの足元から始まっていた。

「え!? カニ……!?」

「うわっ、ちょ!! なにコイツら……!!」

「クソ、どっから湧いてきやがった!」

 足元から胴体へと、シャカシャカ登ってくる大量のカニたち(ハサミで抓まんでくるのが、地味に痛い)を、必死で払い落とす僕と先輩、そしてハリヴァ。

 何だ!? いくら真下に河があるとは言え、この物量はどう考えても異常だと思う。まるで河川域一帯に棲息しているカニが一斉に集まって、僕らに目がけて特攻を仕掛けているような地獄絵図だ。

「こいつら、須藤に操られているのか!?」

 テレパシー系能力によって動物などとの意思疎通を行う、もしくは昆虫など知能の低い生物の行動を強制的に操作する能力――そういった異能者の例は、今までにも幾度となく発見されている。須藤もそのパターンだろうか。

 だが、この短時間にどうやってこれだけの数のカニを集めてきたいうのか? ついさっきまでは、橋の上にカニなど数匹も見かけなかったのだ。やはり、何かがおかしい。

「……ふふ、私の能力を、ただだと――――そう思っているのだろう?」

 須藤が言った。まるで僕の考えを見透かしているかのように。

「――違うのだな、これが」

 須藤は破顔した。まるで愚か者を蔑むかのように。

 だらんと下げられた、彼の両手。その、コートの袖から、何かが、


 ぼとり。


「一体……何だ?」

 須藤の足元に産み落とされたを、凝視する。


 赤い物体が、カサカサと動いている。

 そう。それはよく見なくても、間違いなくカニだった。

 そして反対の袖からも、ぼとり、と一匹。

 ……ぼとっ。

 ……ぼとぼとっ。

 ぼとぼとぼとっ。

 どさり。どさどさ、ざっぱぁ。ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと、ざざざざざざざざざざざざざざざざぁ――――。

 蟹

 蟹蟹。

 蟹蟹蟹。

 蟹蟹蟹蟹蟹。

 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹。

 蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹。


 ……え。なにこれ気持ち悪い。


 その光景は、一言で表すのなら蟹――――そう、『蟹地獄』だ。

 須藤のコートの袖口からは、質量保存の法則を無視した、一体どこにこんなに大量のカニを隠していたのかというくらいの、大量の、本当にゲシュタルト崩壊を起こしそうなくらい大量のカニが、次から次へと、吐き出され、彼を中心に四方八方、わらわらと、拡がっていく。

 道路が、橋の上が、カニで埋め尽くされる。

 こんな光景を、以前テレビか何か、動物番組的なアレで見たことがあるような気がする。あれは確か……そうだ、オーストレィリアのクリスマス島で見られるという、産卵期を迎えたアカガニの大行進だ。その小さな島で、一億二千万匹にも及ぶというカニたちは、森から出て、海を目指し、それはもういたるところ島じゅうで、道路が見えないほどにひしめき合うのだという。今まさにそんな感じ。

 すっかり己に有利なフィールドを作り上げてしまった須藤は、いたくご満悦の表情だ。

 完全に先手を取られた。

「くそ、この状況、迂闊には動けないか……」

 どうするべきか――。あまりに奇異な光景を前に、僕たち一行を取り囲む緊張感は一気に高まった。現に僕の横でも、ハリヴァが子供のようにはしゃぎながらカニを拾ってはポケットに詰め込んでの作業を繰り返している最中……って、オイ。一体何をやっとるんだアンタは。

「ちょ! こんなときに何やってるんですかアンタは!」

「え? いや、これ持って帰ったら少しでも食費が浮くかなと思って……」

 あ、この人あれだ。さてはアホだな。

「やめたほうがいい……。淡水生のカニ類はウェステルマン肺吸虫など肺臓ジストマの中間宿主になることがあり、念入りに火を通さないと人間への寄生の可能性もあって非常に危険だ」カニ博士須藤からも親切な忠告。

「……え? そうなの? じゃあいらねっ」

 ポケットぎっちりに詰め込んでいたカニを、今度はポイポイ放り捨てていくハリヴァ。ダメだ、なんかもう頭痛くなってきた……。

 先輩も先輩で、どうやらケガのせいか思うように動くことができないらしく、足元のカニに、滑っては転んで、滑っては転んで、忙しそうでとても戦力としては期待できそうにない。

「――フフッ、足の踏み場もあるまい! こんなに可愛い、罪もない蟹さん達を踏みつけながら戦うことが、果たしてお前たちにできるのかな!?」

 ぐっ、くそ……地味に嫌なところ突いてくるな。

 僕らが良心の呵責に苛まされたその一瞬、須藤の足がダッ!と地面を蹴った。


「プレゾエアァ゛ァァアア゛ァァアァァアアァアア゛アアア゛アアアアア!!!!!!」


 世にも奇妙な雄叫びを上げながら、猛烈なダッシュで詰め寄ってくる(正直ちょっとびっくりした)。っていうか、さっきあんなこと言ってたばかりの本人が、舌の根も乾かぬうちから、一切の躊躇なく足元のカニさんたちを踏み潰しながら猛ダッシュしてきてるのは、別にいいのだろうか。

 須藤は極端な前屈みから低く地を這うように接近してきたかと思うと、数メートル手前でいきなりこちらにくるりと背を向け、そのまま、エビが後ろ向きに跳ねるかのような姿勢で、珍妙かつ凄まじい跳躍を繰り出した。

「――カニのように這い、海老エビのように跳ね、蝦蛄シャコのように打つ! これぞ奥義! 飛襲!! 裂甲八脚ッ!!」

 逆エビ反り状態から身をよじりながら、タメを使って打ち出される、特撮ヒーローのような豪快な飛び蹴り。ハリヴァはそれをもろにもらってしまった。

 しかも、一撃だけではない。


『パパパパパパパ、パンッ!!!!』


 滞空中、炸裂した蹴りは――――どうやら八発。大雨による視界不良好、速すぎて見切ることができなかったが、後れて聴こえてきた打撃音を数え、判断した。カエルが轢かれた時のような音が八連続、響き、蹴りの衝撃が拡散するに合わせて、ハリヴァのずぶ濡れのスーツから水滴がハジケる。

 僕がなんとか目視できたのは、最後の一発――つぶれたカニの付着した靴裏が、ハリヴァの頬っ面にめり込みをかまし、ペコちゃんのようにテヘペロッと舌を出しながら技を喰らっているその瞬間――のみだった。ハリヴァは、靴の裏にへばり付いたカニのすり潰しペーストが舌先に触れたのか、


「カニミソっ」


 という謎の断末魔を叫びながら吹っ飛んでいった。

 ハリヴァを蹴り飛ばした勢いのまま、須藤は僕と先輩の近くに着地し、即時に地上戦の構えへと移行。そこから一風変わった拳形――曲げたチョキの形をした両手で、交互に拳撃を見舞ってきた。

 須藤「ゾエアァーッ!!」

 ――ズガガッ!

 僕 「メガロパッ!?」

 先輩「チガニッ!?」

 二人してまともに攻撃をもらってしまい、カニまみれの道路に倒れ込む。

 躰に登って邪魔しようとしてくるカニの大群をはたき落としながら、なんとか起き上がる。頬に手を当てると、敵のカニ爪拳で引っ掻かれた二本の傷跡が、ありありと残っていた。

 須藤は残心をとったのち、腰を落としながら、蟹手のままシュババッと交差させた両腕を、ゆっくりと球体を撫で回すような動きで大きく外へ解き放ち、「しゅぅぅぅう」と息吹を整えながら、構えてみせた。


「十六型の十二――『懐中抱卵ホワイチョンパォルァン』」


 ――それは特警刑事としてこれまでの戦闘経験を振り返ってみても、一度もお目にかかったことがない、またとなく珍しいファイティング・メソッドだった。

 先ほどの打撃、そして堂に入った構えからも分るが、とても一朝一夕で身につけたものとは思えなかった。きっと、相当な功夫クンフーを積んでいるに違いない。

「あの野郎……ずいぶんと珍妙な拳法を使いやがるな……象形拳しょうけいけんの一種、それも蟹を模したものであることは確かのようだが……」

 先輩が、橋の柵に手を掛けて、よろりと立ち上がった。

 相手は、僕たちに対して躰を横に向けて構えている。こうやって腰を落としてベタ足半身に構えられると、須藤からすればフットワークこそ制限されてしまうことになるが、その分、こちらから見ると相手の正中線が隠れてしまって、急所を狙いにくい。また、銃器相手に被弾面積を減らせるという点も有効に働くだろう。須藤はそのようにして躰を横向きのまま、足を交差させずに運歩し、じわじわと近付いてくる。これは少林寺拳法などに見られる「蟹足」という歩法にも似ていた。

 それを見てハリヴァが、口から垂れていた血とカニみそを袖で拭いながら起き上がった。攻撃を受けながらも、須藤の一挙手一投足を観察していたらしい。


「見たとこ原型は四川州発祥、峨眉派がびはに属する『螃蟹拳ホウカイケン』っぽいな。……けど、他流派の技術も積極的に取り込んで、もはや別物と言ってもいいくらい独自の改良が加えてある」

「なるほど、峨眉派ウーメイパーか。あっこにゃ奇拳の類が多いと聞くからな」と、先輩。

 その会話を聞いた須藤が眉を顰め、一瞬、ピタリと足を止めた。


「『蟹型十六拳』――――老師〝白眉和尚〟とともに磨き上げた、我が拳法の名だ。冥土の土産に覚えておくがいい」


 そう言い終えたのち、彼の躰が、残像を残して高速に横スライドした――ように見えた。次の瞬間には、須藤はもう僕たちの目の前にいた。

「――――ッ!?」

 なんだ? 一体、今の謎移動は。

 僕はリボルバーを抜いて、構え、迎え撃つ。須藤は瞬時に、横向きだった躰を僕に対して正面向くように方向転換。そこから彼が見せたのは、超高速の――――だ。

 左右にスライドする須藤の躰が、難なく銃撃を躱してみせた。二発ずつ、二回に分けて計四発を撃ち込んだが、全部避けられる。反復横跳びで。

 手技のラッシュ、発砲、発砲、前蹴り、左右のワンツー、と畳み掛けるが、それらも全て当たらない。須藤が、避ける、避ける、避ける、とにかく避ける。すべての攻撃は超人類的な反復横跳びの前に虚しく空を切った。

 ……なるほど、これがさっきの謎移動の正体か。須藤はどうやら、「横方向の移動」にかけては相当に桁外れの運動能力を持っているらしい。さすが蟹拳使い。いったいどんな修行をしたせいでこんなふうに動けるのか。意味不明だ。

 しかしながら、本来ならフットワークを殺してしまうはずの横身ベタ足の構え――そのデメリットが、見事メリットに転化されていたことは、思わぬ誤算だった。

 スピードローダーを取り出し、撃ち尽くしたリボルバーのリロードを終えるが、一手遅かった。懐にもぐり込まれる。

 ――――速い。

「(やばい。距離をとらないと――)」

 そう思った次の瞬間、僕は須藤のコートが翻ったその内側に、見てはいけないものを目撃してしまった。

 なんと、敵の着ている茹でたカニのような色をした厚手のロングコートの内側には、光沢のあるブツブツが隙間なくびっしりと植え付けられ、それが服の裏地一面を、所せましと埋め尽くしていたのだ。

 そのブツブツの正体は――そう、カニの、卵だ。

「(うっ、気持ち悪い……!!)」

 異様な光景だった。でも、これで、須藤がどこからともなく大量の蟹を召喚していたからくりが解けた。なるほど、彼のコートの裏側では、卵から次々とカニの幼生が孵化し、そして孵ったそばから、開閉可能な腹の内側にたくさんの卵を抱えた母ガニが、いそがしそうに布地の上に卵を植え付けていってるらしい。稚ガニたちは、脱皮を繰り返しながら、脱ぎ捨てた自分の皮を食べて、どんどん成長していく。やはり須藤の能力は、彼の言う通り、「カニを操るだけ」だなんて生易しいものではなかった。カニの産卵から孵化、成長速度の促進まで、絶大な影響力を及ぼす――創造神のような力だ。僕は、衣服の裏側というせまい世界の中で繰り返される、しかし非常に膨大で気の遠くなるような生命サイクルの美しさに、思わず目を奪われ、息をのんでしまった。

「(……って! そんな場合じゃないでしょっ!!)」

 はっと我に返り、バックステップしようと思ったけれど、それも不可能だった。須藤は腰を落としながらの接近と同時に僕の足を踏んで、後退を封じていた。巧い。低い姿勢から撥ね上がってきた頭突きに、アゴをカチ上げられた。

 たまらず、クラッときた。

 このままでは追撃を許してしまう――というところで、ハリヴァが助け舟を出してくれた。僕と須藤の間に割って入り、腰の入った上段掛け蹴りを繰り出す。須藤がダブルピースの要領で両腕の内小手を使い、ハリヴァのふくらはぎ辺りを、がっきと受け止めた。ハリヴァは己の蹴り足が蟹拳に捕まってしまう前に素早く引き戻すと、その足を中空にあるまま折り畳み、今度は延髄を狙った上段回し蹴りへと変化させる。が、これは土下座するような低さの四つん這いで躱された。須藤はそのまま四足歩行で、横回りにシャカシャカと高速移動(ていうか完全に人間やめてるよね、この人)。スカされた蹴り足を着地させ、反対足での中段後ろ回し蹴りへと繋げるハリヴァだが、須藤の体勢があまりにも低かったため、これも結局は敵の躰をとらえることはかなわなかった。

 そして、ハリヴァの股下を潜り抜けた須藤が、変態じみた高速カニ移動で向かった先はもちろん――――大絶賛満身創痍中の、王先輩だ。

 すくっと立ち上がった須藤。先輩もとっさに刀の柄に手を掛け、居合で応戦しようとするが、須藤がそれを、足の裏でぱしん、と払った。刀を握っていた手は外側に弾かれ、胴がガラ空きになる。須藤は蹴り払いに使った足を引っ込めることなく、先輩の腹に鋭いミドルを二連発。続けざまにハイキック一発、顎下のおとがいをしたたかに打ち上げた。

「ぐえっ!」

 ちょうど、腰くらいの高さの柵に寄り掛かるような形でどうにか躰を支えていた先輩は、その蹴りを喰らって完全にバランスを崩し、柵の外へとひっくり返った。

「旦那、あぶない!」

 ハリヴァが駆け付けて、手を伸ばす。僕は先輩の救出を敵に邪魔されないように、須藤に向けて銃弾を撃ち込んだ。須藤は例のエビ反りバックステップで距離をとり、弾を躱す。ハリヴァが、落下ギリギリのところで、先輩の刀を掴んだ。よし! ナイスキャッチだ。あとはなんとか体勢を立て直せば……――――


「……バカっ! 柄を掴んでどうする!」


 ……え?

 あ、ほんとだ。先輩が握っているのは刀の鞘で、ハリヴァが掴んだのは、刀の柄。これじゃあ意味ないよね。

「あっ、ワリィ」

 ハリヴァは片手でごめんポーズしながら、ウインクで謝罪。

 スルスルッと刀身が抜けて、そのまま刀と鞘が泣き別れした。先輩もそのまま泣きそうな顔で川面に向かって落ちていった。


 ドボン。


 盛大な水音とともに、犬神家の一族よろしく頭から真っ逆さまに水面に突き刺さった先輩。

 なんかマズそうな状況だけど、でもまあ先輩は水中で無呼吸のまま30分も座禅を組んでいられるとかいう設定が特警シリーズ第二弾『摘出者は嗤う』でも書いてあったから、たぶん大丈夫なはず。……うん、きっと大丈夫。

『カイン! ハリ坊! オレには水中で無呼吸のまま30分ほど息を止めていられる設定がある! だから心配せずに今はとにかく戦いに集中してくれ!!』

 ほら、先輩もそう言ってるし……って、ウソ、その状態でどうやって喋ってるの!? 怖い!! キモイ!!

 須藤も、かなり感心した様子でそれ(尻から喋る能力? いや、先輩べつに異能者じゃないけど(多分))を見ていた。

「……すごいな。あいつ本当に人間か?」

 えっと……うん。あなたにだけは言われたくないでしょうけど。自覚ないんですね……。

「さて、これで一人減ったわけだが……」

 いいモノ見せてもらった――みたいな満足げの表情で、須藤。彼は落ち着き払って僕たちに向き直った。

 足元でギチギチとカニがひしめく中、僕、ハリヴァ、須藤の三人が睨み合う。

 ハリヴァは先輩から託された(?)刀を、僕は愛用のリボルバー拳銃を、それぞれ構えて、戦闘の再開に備えた――――。







【横行君子、我行我素】


 師――白眉和尚の故郷である中華大陸では、蟹のことを「横行君子」と呼ぶ。

 伏蟹フゥシィエ横行ハァンシィン。蟹は「正道」にとらわれず、「横行」し、我が道を行く。転じて、「権力や天下の常道に屈さず、己の道を貫く者」のこともそう呼ぶ場合がある。私自身も、常々そうでありたいものだ。

 現在、私の道に立ちはだかるのもまさに、公権力の行使者――警察官。

 彼らは昔の自分と同じ穴のむじな――いや、同じ穴に住まわっていた蟹だ。こればかりは、横回りで迂回するわけにはいかない、「乗り越えるべき私の壁」だと判断した。私は私の実力で、そして私の信奉する蟹の力で、この者達に勝利せねばならない。


 ――戦況は有利に進んでいる。

 圧倒的……とまではいかない、か。今まで私が戦ってきた連中とは段違い――なかなかに腕の立つ者たちだ。

 とりあえずは、『蟹型十六拳』・懐中抱卵勢カイチュウホウランセイの構え――この型で警戒を続ける。母蟹の腹に抱えられた卵が、やがて千の子蟹となって放流されるように、この套路から派生する技も、怒涛にして千差万別。凡そ十六拳全ての技へと繋がる、基本にして奥義たる構えだ。

 敵方のうち一人は、たった今橋の下に叩き落としてやった。まだ河の増水はそれほどでもないが、放っておけばそのうち溺死するだろう。戦闘復帰は不可能だ。

 そして私の背後では〝整形屋〟が瀕死の蟹澤相手に「恨みはらさでおくべきか」と言わんばかりに、リンチのようなサッカーボールキックと踏みつけストンピングの嵐を浴びせている。この調子だと、蟹澤が死ぬのも時間の問題か。

 しかし、だ。

「あまり熱くなりすぎるなよ、〝整形屋〟。瀕死とはいえ、そいつの能力が危険であることには何ら変わりない。放っておけば死ぬのだから、リスクを冒してまでわざわざ近づく必要はない」

 著しく冷静さを欠いている〝整形屋〟に、一応忠告だけしておく。

「ああ? お前は利き腕を切り落とされたことがないからそんな冷静なことが言えんだよ。特に、モノづくりの民クリエーターをカタワにしたとなっちゃぁ、そりゃもう万死に値するんだぜぇ?」

 こいつはタダじゃあ済まさない――と、〝整形屋〟が、蟹澤の顔面を左手で鷲掴みにした。

 どうやら、「あれ」をやるつもりらしい。

「――せいぜい苦しんで死ねよ、顔面カニ野郎」

 ぐいと持ち上げられた蟹澤の頭が、今度はアスファルトに打ちつけられる。〝整形屋〟の手が、むんず、と蟹澤の口を塞ぐ。そしてそのまま、握り潰すかのように、

 〝整形屋〟がその手を離すと――――蟹澤の顔面にあるはずの口と鼻が、塞がれて、無くなっていた。まるで左官職人が漆喰で塗り固めたかのように、周りの皮膚、肉と、平坦に一体化してしまっている。

「ははっ、無様だなァ! でもまっ、前のカニ面よりはイケメンになったんじゃねえの!?」

 造形師のように人の顔をこね回す〝整形屋〟の能力は、こんな風にも使えるのだ。特にこれは、奴が拷問の際によく使っている技でもある。

 実際、鏡の前であれをされたら、どんなメンタルの強い尋問対象でも、まったく呼吸のできない恐怖と、自らの顔面に起こった異常をはっきりと視覚することにより、耐え切れずパニックを起こす。あとはダメ押しで私が大量の蟹を服の下にでも這いずり回せてやれば、まるで小鳥のように簡単にことができる。

「な、なんてことを……!!」

 特殊警察のカイン刑事が、いきり立って一歩前に踏み出した。素早く拳銃を構えるが――

「――えっ!?」

 彼は、己のリボルバー拳銃の有り様を見て、驚愕の声を上げた――。

 そう、私はすでに手を打ってあった。

 撃鉄、そしてシリンダーの回転を押さえつけるように銃身や弾倉にガチガチにまとわりつく蟹たちが、カイン刑事の発砲を立派に阻止してくれている。

 相手があわてて銃身に取り付いた蟹たちを振り払っている間に、私はコートの両袖から四匹ずつ、蟹を滑り出させ、計八匹の蟹を両手にそれぞれ装填。それを目標に向かって、手裏剣のように投擲する。


 ドスッ! ドスドスドスッ!!


「痛っ! うわっ! カニッ!! カニが刺さったッ!!」

「ちょ、やめっ……アーォッ! 尻にッ!」

 投じられた蟹たちの、鋭い歩脚や鋏の先端が、敵二人の躰に次々と突き刺さり、食い込む。私はこの技で、20メートル先に立て掛けた畳にも深々と蟹を突き立てることができる。当てても致命傷には至らない威力だが、遠距離からの牽制としては充分な性能の技だ。あと、刺さった後も傷口をほじるように蟹が身をよじるので、地味にものすごく痛い。師匠はこの技で木材や薄い鉄板でさえも楽々と蟹を突き刺すほどの腕を誇るが、今の私ではまだまだそこまで及ばない。

「飛び道具までカニかよッ……徹底してるな!」

 銀髪で黒スーツの男が、尻に刺さった蟹を一匹一匹引っこ抜きながら、日本刀を構え直した。そして、地を蹴る。

「……ハリヴァ、カニに気を付けて!!」

 カイン刑事が、拳銃に絡みつく蟹たちをブンブンと振り落としながら、叫んだ。

 ハリヴァと呼ばれた黒スーツの男は、「あいよ!」と返事をしながら、急接近してくる。

「む、速いな――」

 私は再びコートから両手へと装填した蟹を投げつけ、それを迎撃する。

 が、今度は全て防がれた。相手の巧みな刀捌きと取り回しにより、カニ手裏剣はことごとくはたき落とされた。

「ほう、一度見せた技は通用しないと考えたほうがいいか……」

 しかもちゃんと蟹を殺さないよう、刃を立てず、刀の腹を使って防御しているところに好感が持てる。

 よかろう。当方に迎撃の準備あり。私はロングコートの内側から、大型のノコギリガザミを二匹、取り出した。彼らをそれぞれ、両手に一匹ずつ装備する。

 ノコギリガザミ――国産は希少だが、その身は濃厚なる美味で知られる。河口もしくは海に通じる湖など、淡水と海水が混じり合う水域に棲息する比較的大型の蟹であり、扇形のずっしり厚みのあるボディは滑らかな光沢で美しく、フチがノコギリのようにギザギザしているその様相は、まるで冠を戴いた王者の威厳。極め付きは、そこから生えた左右不揃いの大きなハサミ。万力のようなこのハサミは、非常に強い握力を誇る。

 その強力なハサミが、二匹×二本ずつ=四本だ。

 右に二鋏、左に二鋏。両手に、いざ。

「括目せよ――」

『蟹型十六拳』を基に我が異能をブレンドして創り上げし、オリジナルの蟹装戦闘術――――


須藤すどう四鋏流よんきょうりゅう――――参る!!」


 右横薙ぎに払ってきた相手の刀と、私が振るった右手のノコギリガザミが、「ガキン!」と音を立てながらぶつかり合った。

 衝撃と反発。空気を震わし、降り注ぐ雨水さえもが両者の制空圏から弾き出される。そしてお互いが弾かれたように、のけぞり――――――

 すべてが静止したかのような瞬毫の世界を。私たちは、共有した。

 次の瞬間には双方が体勢を立て直し、激しい連撃どうし、またたきすら許さぬ速度でぶつかり合っていた。

 私の能力により急速な孵化と選別交配で世代を重ね、甲殻のキチン質密度を高め、防御力を格段に強化改造された、二匹のガザミ。それだけでなく、〈強制操作〉により反射神経とスピード、筋力までもが、限界まで引き出されている彼らは、目にもとまらぬ速さで繰り出されるハリヴァの斬撃にも難なく対抗してくれている。

 この「蟹に対する強化能力」は、潜在能力を引き出し尽くした状態での操作に大変な集中力と思念を要するため、私から離れた場所にいる蟹には使えないという難点があるが、やはり白兵戦時には大変心強い。

 私としては、本来ならば、武器として使用するのであればタラバガニのような強固な装甲とイガイガ、そして長い手足が理想的なのだが、生憎、私の能力ではいわゆる「真正カニ類」しか操ることができない。タラバガニは見た目こそ、これぞカニだ!

と言っていいほどの蟹ルックであるが、その実は「異尾下目-ヤドカリ上科-タラバガニ科-タラバガニ属」、つまりはヤドカリの仲間である。

 ならば似た体形でしかもタラバに対して脚の数も一対多いズワイガニなどを使ってみてもいいのだが、タラバと比べるに、細い脚とハサミがどうにも頼りないうえ、丸出しになっている関節の繋ぎ目を狙われると弱い。そこで、対刃物の戦闘を想定した場合、ノコギリガザミが一番有力な候補に挙がってくるわけだ。甲羅だけでも幅は20センチほどと、人間の手の甲を充分に覆い隠せるサイズ。その厚みと丸みを兼ね備えた滑らかな装甲による受けが、太刀筋を狂わせ、フチのギザギザは刃を絡め取るソードブレイカーのような役割も果たす。さらにペンチ状の大きな鉗脚(かんきゃく=ハサミのこと)が攻防時、非常に有利に働くのだ。その際、何より注目したい点が、先ほども挙げたように「握力」である。一説にはノコギリガザミのそのピンチ力は1トンにも及ぶとされ、乾電池やスチール缶を易々と両断してしまうなど、蟹の中では最強のパワーを誇る種なのである。

 そして怒涛の打ち合いの末、とうとうノコギリガザミの強力な鉗脚が、ハリヴァの振るう刃を正面から捕えることに成功する。相手が繰り出した斜め上への切り上げによって、胸部から左肩にかけてまで浅い斬り傷を負ってしまった私だが、続けて上段から真っ直ぐ縦に切り落とされてきた刃を、二匹のガザミが、見事、四本のハサミでガッキリと掴み取ってくれた。これぞ、真剣白刃取りならぬ、奥義〝真剣蟹刃取り〟――。ぷるぷる震えながらも精一杯の力で刀を離すまいとする蟹さんたちの姿には感動すら覚える。

「見たか――これが須藤四鋏流の力だ」

「いや、頑張ってるの主にカニじゃねえか!!」


 ツッコミごもっとも。が、それが何か?

「ふはは! 私の命令によって限界を超えたパゥワーを引き出させているからな! この能力を使えば、嫌がる蟹をムリヤリ縦歩きさせることさえも可能――!!」

 ちなみに余談だが、ミナミコメツキガ二(「方頭群」におけるポピュラーなカニたちの扁平な頭胸部に比べ、ドングリのようなシルエットをしたボディがユニークだ)やヒラコウカイカムリ(その名の通り、二枚貝の貝殻を笠のようにかぶって移動している姿がキュートである)のように最初からまっすぐ歩く蟹も実は結構存在する。さらに変わり者だと、カラッパ類のように後ろ向きに歩くのなんかもいたりする。あと、通常横歩きする種の蟹も、目を回したときなどはまっすぐ歩きするのを、知っていたかな? 紐に吊るした紙コップなどに蟹を入れて、ぐるぐる回してから地面に逃がしてみよう。酔っ払ったようにふらふらと縦歩きするから面白いぞ!

「おい可哀そうだろやめてやれよ!!」

「知るかっ!」

 腹にミドルキックを一発入れてやった。後ろによろけたハリヴァが、蟹を踏んで足を滑らせ、転んで柵に頭を打った。

 奴が刀を離したので、私はそれをノコギリガザミごと、橋の上から河に放り捨てる。そしてさらに、仰向けにすっ転んだハリヴァが強打した後頭部を「イテテ……」とさすっている間に、背中の下に両手を差し込み、蟹の四股立ちで踏ん張ってから、ちゃぶ台をひっくり返すように


「そぉおーーーい!!!」


 と投げ飛ばした。

 きりもみ回転しながら柵の外へと投げ出されたハリヴァは、悲鳴を上げながら落下していき、盛大な着水音を響かせ川面と衝突。ちょうど、さきほど落としてやった茶髪男の隣に、同じく犬神家の一族よろしく真っ逆さまに突き刺ささった。

 その光景をポカンとした様子で見つめていたカイン刑事だが、私と目が合うと、慌てて我に返った様子で、リボルバーの作動を封じている蟹たちを払いのけはじめた。


「さて、残るはお前一人だけだな――カイン・イワザキ巡査部長?」


 カイン刑事は、おそらく強敵――――勝利のためには、「切り札」の発動が必要になるだろう。

 その際、私の胸から肩にまでかかるこの刀傷は、自身の体質上、活動における致命的なエラーを引き起こす可能性がある。それを防ぐため、〝整形屋〟の応急キットから撥水性の傷パッドを借りてくるように、蟹の一匹にお願いしておいた。

 抜かりはない。

 もはや勝利は、おとぎ話の結末のように約束されている。私はかにで、奴らはさるだ。蜂、栗、石臼、牛糞やらの助けがなくとも、蟹の力だけで勝ってみせる。

 せいぜい、三人仲良く河底に頭を突っ込みながら蟹のエサにでもなるがいい――。


 いよいよ仕上げにかかるべく、私はカイン刑事と相対し、十六型の八――『蟹型十六拳』・伏蟹横行勢フッカイオウコウセイの構えをとった。







「さて、残るはお前一人だけだな――カイン・イワザキ巡査部長?」

 元・蟹刑事須藤はそう言って、僕のほうを半身カニ構えで向き直った――。


 先輩に引き続き、ハリヴァまでもが河へ叩き落とされてしまった。

 まずいぞ――僕はあわててリボルバーの銃身にたかっているカニたちを払い落とす。

 ようやく最後の一匹を剥がし終わったと思ったら、敵影はもう肉弾戦の距離にまで迫ってきていた。

 先程と同じだ――半身姿勢の「蟹足」歩法と驚異の反復横跳びを併用した、須藤オリジナルの高速移動術。

 拳銃の照準も合わせられないまま、僕は近接格闘での応戦を余儀なくされた――。

「ゾエアッ!」

 左右蟹拳。両手で交互にパリーする。間を置かずにフックの軌道で、右の二本貫手。脇腹にもらった。あばらを覆う筋肉の薄い部分を、須藤の鍛え抜かれた指穿が突き破った。肋骨のうち一本が、蟹拳で挟まれる。捻る。折られた。肉もえぐれた。

「ぐ……が!!」

 銃底を横水平に振るって反撃。須藤は低く腰を落として、頭を下げた。躱された。まだまだ! 続けて右ミドルだ。しかし腕で受けられる。ミドルキックと連動しての右肘打ち。下から掌底で跳ね上げられて、当たらない。休まずに左フック。見切られ、蟹手で手首を挟んで止められた。まるで万力のような指の力に、左腕の自由が完全に奪われる。須藤は僕の手を掴んだままさらに深く沈み、地面にもう片方の手をついたかと思うと――

「――蟹歩側脚四連腿カイホソクキャク・シレンタイ!!」

 それはまるで、あたかもカニが片側の四本足を持ち上げ、段差を登ろうとする姿勢をなぞらえたかのような――――

 下腹部、みぞおち、胸板、あご先の計四か所にそれぞれ駆け上がるように、端脚てんきゃく――即ち中国拳法に見られる足刀蹴りを叩き込まれた。

 確か、大陸北派の『蟷螂拳』という拳法にも、カポエイラの逆立ち蹴りと似たような技があるらしい。京で『百鬼夜行事件』の合同捜査に参加した際、訓練組手で櫓坂隊長が見せてくれたのだけど、それが「穿弓腿」と云って、ちょうど今の須藤が見せたような体勢からの蹴り技だった。格闘時における死角でもある直下方向からの奇襲技だが、使うにはかなりの身体能力を要する。須藤の使った技は、それをさらに四連続で、受け手の正中線を下から順に蹴り込んでいくという、人外の技だった。

 僕は後ろによろめきながら、須藤の強さを改めて認識しなければいけなかった。

「(蟹型十六拳――ふざけた拳法だけど、間違いなく……強い!)」

 須藤はそのアクロバティックな蹴り技の勢いを利用し、後方側転に繋げて体勢を立て直し、再び、一分の隙もない半身横構えに戻る。僕もそれに合わせて拳銃を構え直した――――その時だった。


「ひっ……ひぎぃぃいいいいいいい!!!!!」


 いきなり、近くから豚の悲鳴のような金切り声が聞こえてきた。その声にぴくりと反応して、須藤の攻撃の手も一瞬休まる。

 何だと思って二人で声のほうを振り返ってみると、そこでは胸部から腹部にかけて、斜めにばっくりと切り裂かれてた〝整形屋〟が騒いでいた。たぶん、油断でもしたのか〝鋏手男(シザー・ハンズ)〟を喰らってしまったのだろう。すぐそばに転がっている瀕死の蟹澤のこともそっちのけで、須藤の足もとへと這いずってくる。

「いてえ! いてえよ! 奴の手が、かすって、俺の胸に……!!」

 泣きながら縋り付いてくる相棒を、呆れた目で見下ろす須藤。

「だから無暗に近づくなと言ったろうに。ちょっと触れられただけでその有り様だ、もう半歩でも深く踏み込まれていたら胴体が真っ二つだったぞ」

 仲間が大怪我をしていても、須藤はきわめて冷静だった。彼は〝整形屋〟の傷口に一瞥をくれたあと、足元のカニの一匹に、アイコンタクトを送り、二本指で敬礼した。

 それを受けて、カニのほうもハサミをジャキッ! と掲げ、須藤に敬礼を返す。

 その敬礼ガニを先頭に、おびただしい数のカニたちが続き、〝整形屋〟の傷口へと群がっていく。

 群勢は〝整形屋〟の躰を登っていき、胴体を斜断するように長く走った裂傷の上を一列に並び、傷口をまたぐように脚爪あしづめを突き立てた。その歩脚は尋常ならざる力で肉を突き刺し、医療用ホッチキスの要領で傷口を塞いでしまう。しかも、彼らカニたちの様子をよく見てみると、なにやら口から泡のようなものを吐き出しては、せっせと創傷部に塗り込んでいるみたいだ。

 パニック状態の〝整形屋〟をなだめるように、須藤が説明する。

「この泡状のものは、甲殻類に含まれる成分を凝縮し抽出したもの。『キトサン』は人工皮膚にも使用され、抗菌性と増粘効果を持つ。そこへさらに、強度と柔軟性を併せ持ち、生体へ容易に分解する性質を持った『キチン質』を加え、これらで傷を埋め込み、塞ぐ。言っておくが、彼らに可能なのはあくまでも止血と応急措置まで……もとより治したり癒したりというのは私の専門ではないのだからな。死にたくなかったらそれ以上動かないことだ」

 なるほど。そういえば、カニエビ類の甲殻に含まれる物質が医療用の生体素材として目をつけられ、手術用縫合糸などの使用にも検討されたことがあるらしい――なんて話を、沙帆ちゃんから聞いたことがあったっけ。

「……ん?」

 あれ……? そこで、ふと、僕は疑問に思った。

 須藤の胸から肩にかけて――ハリヴァが先輩の刀を使って斬り付けた傷口。そこからも決して少なくはない血が、流れ続けている。にもかかわらず、須藤は己の能力を使っての「応急措置」をしようとする様子がない。こんなに便利な能力なのに、なぜなのか……。

「(あれだけたくさんのカニに対して、同時進行で複数の複雑な命令を遂行させる能力――たとえ戦闘中であっても、片手間に自分の傷を塞ぐくらい、簡単にできるはず……)」

 しかし、その疑問を解き明かす暇も与えないかのように、須藤の『蟹型十六拳』――命を刈り取るカニのハサミを模した拳指が、空気と雨粒を鋭く切り裂きながら襲い掛かってきた。

 僕は拳銃を持った右手、咄嗟の掛け受けで受け流した。横に逸れていった蟹拳の二本指が、こめかみのすぐそこを鋭く通り過ぎていくのを見て、ゾッとする。

 須藤の打撃を何発も喰らって、いくつか、分かったことがある。速いし巧いけど、決して、重くはない――ということだ。単純な打撃の威力ならば、おそらく僕と互角か、それ以下くらいだろう。

 が、この男の遣う『蟹型十六拳』の真の恐ろしさを、見誤ってはいけない。警戒すべきは打撃による体表面や筋骨内臓へのダメージではなく、局部破壊に特化した、その鍛え抜かれた指の力だ。須藤の蟹拳は、接触した状態からでも予備動作無く簡単に肉を突き破り、骨をつまみ折る。

 もしあの指先に、貫かれたら。どこか、躰の一部でも……抓まれたとしたら。

 眼。鼻。耳。指。金的。

 ――――いとも容易く、ちぎり取られてしまうだろう。

 そう思うと、戦闘中に見ると間抜けなピースサインにも思える須藤の手形しゅけいが、僕には恐ろしくてたまらなかった。

「(迂闊!! 接近戦は、危険だった――!!)」

 近付けば近付くほど不利。特に密着状態では、拳撃や蹴りが満足な威力を発揮できないのに対して、須藤の攻撃は著しく有用性を増す一方。

 とにかく、離れなくては――。

 敵がさらなる蟹拳を突き出し、追い打ちをかけてくるのを、左手で、右側へと押し流しつつ、後ろにステップして距離をとる。飛び退すさる。構える。撃つ。それら一連の動作を全て同時に行った。ちょうど胸の前に持ってきていた左腕の上に、銃を持った右手をクロスするように乗せ、いわゆるハリス・メソッド(逆手で懐中電灯を照らしながら、その腕の上に、銃を構えた手を乗せて撃つアレだ)のような形で固定。照準を合わせ、引き金を引く。

 相手を近づけないための、牽制の射撃。続けざまに二発、三発――発射された弾丸が須藤に到達するかと思われたその矢先、突然姿ことに、僕は愕かされた。

 いや、正確には「消えた」のではない――いきなりモコモコと湧き上がってきたに須藤の躰が「覆い隠された」のだ。

 これは、まさか――――


「カニの泡……か!」


 弾丸はまるで手応えなど無く、須藤を包んでいた泡の塊を吹き飛ばし、その下に隠されていた、山のように折り重なったカニたちを蹴散らしながら、貫通していった。そこにもう、須藤の姿はない。

「いつの間に……ッ」

 やられた。須藤流の「変わり身の術」――といったところか。

 今や須藤がどこに潜んでいるのか、見当も付かなくなっている。いつの間にか、僕の周囲は、そこらじゅうカニの吐き出した泡だらけになっていたのだ。その異常な量の泡に囲まれながら、マズイことになったなと、僕は思う。

 須藤はおそらく、カニの大群を操って作り出した膨大な量の泡を隠れ身の術として用い、僕から見えないように移動している。きっとあの中では、大勢のカニたちが主の命令に従い、必死の思いであぶくを吹いているのだろう。泡の下はうぞうぞと無数に蠢くカニの気配でいっぱいで、須藤の存在感は完璧にその中に溶け込み、掻き消されていた。


「――蟹がなぜ泡を吹くのか、知っているか?」


 泡の中から、須藤の声が語りかけてくる。

「元来、水生生物である蟹は魚類同様、水を飲み込み、エラを通して水中の酸素を取り込んでいる……。だが、丘に上がり、酸素が取り込めない状態が続くと、エラのヒダが乾燥し、当然、呼吸が苦しくなってくる――」

 その時、僕の背後で、人間ほどはあろうかという大きさの泡の塊が隆起し、生き物のように蠢いた。ちょうど、長身の須藤が立ち上がったのを、すっぽりと覆い隠せるくらいのサイズだ。

「そこか――!!」

 素早く振り返って弾丸を撃ち込むが、弾は獲物を捉えることなく泡の中を素通りする。ハズレだった。

 そんな僕を馬鹿にするかのように、須藤の講釈が続く――。

「――そこで、蟹がどうするのか。そう、体内に残された水分を集め、吐き出し、再び外気に触れさせ、空気と一緒に取り込み直し、エラ呼吸として酸素を得るのだ」

 どこだ――。

「そのために使われる『出水孔』という小さな穴が、蟹の口の付近にある。これがエラとつながっていて、くだを通してエラの中に残ったわずかな水分を再利用する」

 今度は横手のほうで、泡が山のように盛り上がった。すぐさま中段の蹴りで薙ぎ払うと、抵抗もなく真っ二つに分かれて、カニの群れがわらわらと崩れ落ちた。またもやダミーだ。反対側で、もう一盛り、もぞもぞと泡の塔が湧きのぼるが、すぐさまバックハンドブローで吹きとばす。

「くそっ……どこだ、どこにいる……!!」

「その際、空気と一緒に何度も出し入れを繰り返された水分が、粘り気を増し、気泡を含み、泡となるわけだ。そしてこれは、少ない水でも空気に触れる面積を増やすための工夫でもあるのだな……」

 止まらない、須藤の語り。いよいよ焦りを感じはじめてきたその瞬間、


「――以上が、蟹の泡を吐くメカニズムであるわけだが、理解して頂けただろうか?」


 すぐ近く――たったいま吹きとばしたばかりの下半分――残った小さな山の中から、須藤の声がした。

 しまった――と後悔するが、もう遅い。

 ヤツは、潜んでいたのだ。カニのように身を低くかがめて。僕が吹きとばし、ダミーだと思い込んでいた泡の中に。

 泡の中から、おそろしく低い姿勢で飛び出してきた須藤。須藤はなぜか、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。泡に隠れている間に、装着したのか。

「(あのヘルメットは一体――――)」

 気を取られたその一瞬が、敵の騙まし討ちを成功に導いた。

 スライディングのような姿勢で受け手ぼくの足元まで滑り込み、膝を狙って両足で挟み込むそれは――そう、柔道やサンボ、ブラジリアン柔術などで寝技に持ち込むために使われる捨て身投げのひとつ――『蟹挟カニばさみ』だ。

 襟を掴まれ、下方に全体重を預けて引き込まれるのと同時に、須藤の両足が僕の両膝の裏と太ももとを前後からホールド、そこに胴体のひねりを加えて後方に押し倒した。抵抗の甲斐もなく、僕の躰は簡単にカニまみれの道路に転がされてしまった。

 密着状態――それもグラウンドでの攻防だ。まずい。非常にまずい。

 襟を掴んでいた須藤の手が二本指の蟹手へと変わったかと思うと、脇腹を穿ち、筋繊維をズタズタに引き裂いてくる。僕は激痛のあまり、両手で須藤の蟹手を引き離した。

 その瞬間、須藤のほうも「待ってました」とばかりに、僕の右手を両手蟹拳でがっちり捕まえた。銃を持つ手が封じられてしまった。須藤は躰の左側面から掛けてきていた蟹挟の足を解くと、一瞬で僕の躰を飛び越え、右側に回る。そのまま仰向けに倒れ込むような体重移動で、流れるように腕ひしぎ十字固めの体勢に入った。

 蟹拳が爪を立てて腕の肉に食い込んでくるのも無視して、僕は力いっぱい腕を引き戻し、須藤の関節技を無理矢理引っぺがした。

 さらに、腕を振り上げるその勢いに任せて躰を起こそうとする――が、これこそ、敵が本当に狙っていたフェイズだった。

 わずかばかりでも、相手に背中を向けた形になってしまったその瞬間。須藤はその瞬間を逃さず、背中に取り付いてきた。抵抗して後ろ向きに肘打ちを入れてみたが、ヘルメットのせいで効果薄だ。両足をがっちりと僕の胴体に絡みつかせ、強く締め付けてくる。そして、両脇の下をくぐり込ませるように腕を差し入れてきたかと思うと、右脇から通した須藤の右手があごの下を通って、蟹拳で僕の左腕上腕部に喰い込み、同じように反対側、左脇から通した蟹拳が、うなじを廻り込むように、僕の右腕の二の腕に喰らい付いた。

 僕はまるで、バンザイをさせられるような恰好で、両腕を封じられたわけだが――それだけではない。須藤の両腕は、右外腕と左内腕で、僕の首を挟み込み、喉と延髄を押し潰すようにチョークしているのだ。シザーズ・ピンチとでも名付けるべきか、その変形羽交い絞めと裸締めもどきの複合技は、まるで、巨大なカニのハサミに首を挟まれたかのような錯覚を僕にもたらした。

 握力に、指の力、強靭な体幹、そして、「打撃」よりもむしろ「引っ張る力」に特化された全身の筋肉――須藤が螃蟹拳の修練によって得た肉体的ポテンシャル。圧倒的フィジカル。それらを余すことなく発揮できるのは、格闘戦による局部破壊などではなく、まさしく寝技――サブミッションにこそあったのだ。

 万力のような、締め付け――。窒息死、なんて生易しいモノじゃない。これは……間違いなく、首の骨を……折る気だ……!


「(ダメだ、意識が…………遠く……)」


 じたばたと暴れることしかできない自分の躰に、どんどんカニたち――須藤の従順なしもべたち――が寄りたかってくる。そのさまは、攻め落とした城の外壁をよじ登り、勝ち鬨の旗を掲げようとする攻城兵のごとく。あまりの苦しさと、おぞましさに、肉体と精神は同時に征服されていく、戦慄した。

 そしていよいよ、僕は須藤の恐るべきチョークによって失神しかけ、迫りくる敗北の時を迎えようとする、まさに、その時――――だった。


「ホンギャァアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」


 ――何者かの上げた、悲鳴。

 それは、野太い赤ん坊の泣き声のような、悲痛の叫びだった。

 幻聴ではない。薄れゆく意識の中で、僕は確かにそれを聴いた。







(【天界道】への浮上――)



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