第45話 夏の夕陽を映す扉

初夏の夕陽が神社を黄金色に染める頃、神主が紗希と源蔵に依頼を持ちかけた。


「拝殿にある扉が、夏の日差しで色褪せ、少しずつ劣化しています。この扉は、夕陽を映し出す特別な存在です。修繕をお願いできますか?」


「夕陽を……映す扉……」


紗希はその扉に目を向けた。朱色の塗装が剥がれ、装飾が削れているものの、今も夕陽を受けて淡い光を放つ姿に目を奪われた。


「この扉は、神様と夕陽を繋ぐ窓のようなものだ。その役割をお前の手で蘇らせてやれ。」源蔵が優しく語る。


「私……やります……!」


作業は扉を慎重に取り外し、状態を確認することから始まった。扉の木材にはひび割れがあり、塗装も剥がれかけていた。


「まずは木材を補修し、表面を整える。そして装飾を修復し、新しい塗装を施すんだ。」源蔵が指示を出す。


紗希は慎重に作業を始めた。


最初に取り掛かったのは、ひび割れた部分の補修だった。紗希は古い塗装を削り、新しい木材を使ってひびを埋めた。


「この木……まだ力強く……生きてるね……」


「その通りだ。扉は神社を守る存在だからな。」


木材の補修が終わると、紗希はノミとカンナを使い、表面を滑らかに整えた。


次に、扉に刻まれた装飾を修復する工程に入った。扉には太陽と夕陽を象徴するような曲線的な模様が施されていたが、部分的に削れていた。


「この模様……夕陽が……流れていくみたい……」


「その感覚を活かせ。模様が光を引き立てるように仕上げろ。」


紗希はノミを丁寧に動かし、模様を彫り直した。太陽の力強さと夕陽の柔らかさを表現するため、細部までこだわりを詰め込んだ。


最後の工程は、塗装を施すことだった。紗希は夕陽を思わせる朱色を丁寧に塗り重ね、光を反射するような艶を加えた。


「これで……また夕陽が……映るかな……?」


「完璧だ。この扉は再び神様と夕陽を繋げる。」


源蔵の言葉に、紗希はほっと胸を撫で下ろした。


修繕された扉が拝殿に戻されると、夕方の光がその表面に差し込み、美しい輝きと模様を映し出した。村人たちが集まり、その光景に息を呑んだ。


「なんて綺麗な扉なんだ……!」


「この扉を通して見る夕陽は、まるで神様が降りてきたみたいだね!」


村人たちの感謝の声が広がる中、紗希は胸の中に温かい達成感を抱いた。


その夜、源蔵は紗希に鮮やかな橙色の宝石を手渡した。


「この宝石は『光と再生』を象徴するものだ。お前が修繕した扉は、神社に新たな光をもたらした。」


紗希は宝石をじっと見つめ、静かに微笑んだ。


「私……もっと……人々の心に光を届けるものを……作りたい……」


「その志を持ち続ければ、お前はさらに強くなれる。」


紗希はまた一つ、宮大工としての成長を果たし、新たな目標に向けて歩み始めた。こうして彼女は、夕陽を映す扉を蘇らせ、宮大工としてさらなる進化を遂げていくのだった。

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