第19話 参道の石畳
夏の暑さが本格的になり始めた頃、紗希は源蔵から新たな依頼を受けた。
「紗希、今日は参道の石畳を修繕するぞ。」
「参道……石畳……?」
「神社に続く道の石が長年の風雨でずれたり割れたりしてる。この道を整えることで、神社に来る人々が気持ちよく参拝できるようになるんだ。」
紗希は参道を見つめながら頷いた。訪れる人々のための道を作るというのは、とても意義深い仕事のように思えた。
「わ、わかりました……私、やってみます……!」
参道は神社の入口から続く長い道で、大小様々な石が並んでいた。しかし、所々で石がひび割れたり、土に埋もれていたりしていた。
「まずは石を一つひとつ取り外し、土台を整える。その後、新しい石を加えながら再び並べ直す。」
源蔵の指示に従い、紗希は作業を始めた。初めての作業に緊張しながらも、石を慎重に取り外し、土台を平らにならしていく。
「この土の下には、時間の流れが刻まれているんだ。石畳はその上に乗るものだから、基盤が大事だ。」源蔵がそう語る。
「時間の……流れ……」
紗希はその言葉を胸に刻み、土台を整える作業に集中した。
午後になると、新しい石を配置する工程が始まった。石の形や大きさは不揃いで、ぴったりと収まる位置を探すのに苦労した。
「この石……どうしても……合わない……」
紗希が困惑していると、ピロンが励ましの声をかけてきた。
「紗希、石の形をよく見て。どの角度で置けばしっくりくるか、試してみようよ!」
紗希はピロンのアドバイスを受け、石をいろんな方向に動かしながら調整した。すると、石が他の石とぴたりと噛み合う瞬間が訪れた。
「できた……」
その感覚に、紗希は小さな達成感を覚えた。
夕方、石畳が綺麗に並び直された参道が完成した。夕陽の光が石に反射して、道全体が美しく輝いていた。
「見事だな。これならどんな参拝客でも安心して歩けるだろう。」源蔵が満足そうに言った。
村人たちが参道を歩きながら喜びの声を上げた。
「足元が安定して歩きやすくなった!ありがとう、紗希さん!」
「これで参拝ももっと楽しみになるね。」
その言葉を聞いた紗希は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
その夜、源蔵は淡いグレーの宝石を紗希に手渡した。
「この宝石は『道』を象徴するものだ。お前が整えた参道は、人々の歩みを支え、未来への道しるべとなる。」
紗希はその宝石を手に取り、静かに頷いた。
「私が……作った道……人が……歩くんだね……」
「そうだ。それが宮大工の仕事だ。お前の手で作ったものが、人々の暮らしや心に繋がっていくんだよ。」
紗希の中で、自分がこの世界で果たすべき役割がまた少しだけ見えてきた気がした。
「私……もっと……道を作りたい……」
そのつぶやきは新たな決意となり、紗希を次の挑戦へと導いていく。こうして彼女は、また一歩宮大工として成長を遂げるのだった。
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