第20話 御神木の声
ある日の朝、神主から特別な依頼が紗希と源蔵に届けられた。
「神社の御神木が弱り始めています。このままでは村を守る象徴が失われてしまうかもしれません。どうか、何とかしていただけませんか?」
「御神木……?」
紗希は初めて聞く言葉に戸惑いながらも、神主の真剣な顔に緊張を覚えた。
「御神木とは、神社を守り続ける象徴的な木だ。この木を救うためには、お前の技術と心が必要になる。」源蔵が静かに言った。
「わ、わかりました……やります……」
神社の奥に立つ御神木は、長い年月を経て大きく成長した美しい木だった。しかし、幹にはひび割れができ、枝の一部が枯れていた。
「この木を治すには、傷ついた部分を補修し、新たな支えを作る必要がある。だが、木そのものに負担をかけないように慎重にな。」
源蔵の言葉に、紗希は深呼吸をしながら作業を始めた。
まず、御神木のひび割れた部分を観察した。幹の一部は腐食が進んでおり、雨水が染み込むのを防ぐために補修が必要だった。
「ノミを使って腐った部分を取り除き、新しい木材を埋め込むんだ。」と源蔵が指示する。
紗希は慎重にノミを動かし、腐った部分を少しずつ削り取った。木が削られる音が静かな森に響き、その音に紗希は御神木の声を聞いているような感覚を覚えた。
「御神木もきっと、紗希の手を喜んでるよ!」ピロンが励ましの声をかける。
「ありがとう……ピロン……」
腐った部分を取り除いた後、紗希は新しい木材をぴったりと埋め込む作業に取り掛かった。その木材は神社の裏山から特別に用意されたもので、御神木と同じ種類の木だった。
「木目を合わせることで、御神木と一体化するんだ。自然との調和を意識しろ。」源蔵がアドバイスする。
紗希はその言葉を胸に刻みながら、木目を丁寧に揃えた。作業が進むたびに、御神木が少しずつ元気を取り戻していくように感じた。
午後になると、弱った枝を支えるための補強作業が始まった。紗希は木の根元に支柱を立て、枝が風に揺れても折れないように固定した。
「これで……御神木も……守れるかな……」
「よくやった。これで御神木はまた村を見守り続けるだろう。」源蔵が微笑みながら言った。
作業が終わると、村人たちが御神木を見に集まった。修繕された木を見て、村人たちは安堵の表情を浮かべた。
「御神木が元気を取り戻してる!本当にありがとう、紗希さん!」
その言葉に、紗希は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
その夜、源蔵は深い緑色の宝石を紗希に手渡した。
「この宝石は『命』を象徴するものだ。お前が御神木を守ったことで、この村の命もまた守られた。」
紗希は宝石を手に取り、じっと見つめた。木の香りや手触りが心の中に蘇り、胸がじんわりと温かくなる。
「私……この木の声……聞けた気がする……」
「それが宮大工の力だ。お前の手が自然と繋がった証だよ。」
紗希はその言葉を胸に刻みながら、新たな決意を抱いた。こうして彼女は、御神木と共にまた一歩成長を遂げていくのだった。
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