第18話 風鈴の調べ

ある日の朝、神主から紗希に新たな依頼が舞い込んだ。


「夏が近づいてきました。この神社では、毎年風鈴を飾って涼を楽しむ風習があります。しかし、昨年の強風で風鈴を吊るす台が壊れてしまい、新しいものを作ってほしいのです。」


「風鈴……涼しい音……」


紗希は小さく呟きながら、その仕事にどこかワクワクする気持ちを抱いた。


「この台はただの支えではない。風鈴の音が響くたびに、人々が涼しさや安らぎを感じられるようなものを作る。それが宮大工の役目だ。」


源蔵の言葉に、紗希は深く頷いた。


「わ、わかりました……頑張ります……!」


作業が始まった。紗希はまず、台のデザインを考えることから取り掛かった。風鈴を支える柱の形や、風鈴を吊るすための装飾をどうするかを源蔵と相談する。


「この部分に曲線を入れると、風の流れに合わせて優雅に見えるかもしれないな。」


「風の……流れ……いいですね……」


紗希はそのアイデアを元に、スケッチを描きながら形を整えていった。普段の修繕とは違う、創造的な作業に新鮮さを感じていた。


木材を選び、柱の部分から加工を始める。ノミやカンナを使いながら、細かな曲線を彫り込む作業は集中力を要した。


「この台ができたら、風鈴の音がどんな風に響くんだろうね!」ピロンが興奮気味に話しかける。


「私も……聞きたい……だから……頑張る……」


紗希は汗を拭いながら、一つひとつの部品を丁寧に仕上げていった。


柱と横木が完成すると、次は飾りの部分に取り掛かった。紗希は風鈴を吊るすための小さな彫刻を作り、風に揺れるたびに美しく見えるよう工夫した。


「これは……花の形に……したい……」


「いいね!花が風に揺れるなんて、涼しさを感じるよ!」ピロンが元気に賛成する。


慎重にノミを動かし、花びらの形を彫り上げる。完成した装飾は、木の優しい色合いと相まって、どこか涼しさを感じさせた。


すべての部品を組み立て終わると、風鈴を吊るす台が完成した。それは風の流れに合わせた優雅な曲線を持ち、装飾が繊細に輝いていた。


「見事だ。これならどんな風鈴を吊るしても映えるだろう。」源蔵が満足そうに頷く。


完成した台に風鈴が吊るされ、神社の参道に設置された。風が吹くたびに、涼やかな音色が響き渡り、村人たちはその美しさに目を輝かせた。


「わあ、素敵な音!これで暑い日も楽しみになりそう!」


「紗希さん、こんなに綺麗な台を作ってくれてありがとう!」


村人たちの喜びの声を聞きながら、紗希は胸の中に小さな達成感を抱いた。


その夜、源蔵は澄んだ水色の宝石を紗希に手渡した。


「この宝石は『涼』を象徴するものだ。お前の作った台が、風鈴の音を通じて人々に涼しさと癒しを届けた証だ。」


紗希はその宝石を手に取り、静かに微笑んだ。


「私……もっと……作りたい……。人を……癒すものを……」


ピロンが明るい声で言った。


「次は何を作るんだろうね!僕も楽しみ!」


こうして紗希は、風鈴の音色に背中を押されながら、また新たな目標に向けて歩み始めたのだった。

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