第10話 幸福の灯火
隣村の神社修繕から数日が過ぎたある朝。紗希は作業場で宝石を手に取り、じっと見つめていた。手のひらの中で光るオレンジ色の宝石は、村人たちの感謝と喜びが形になったものだとわかっていたが、それでも何かを考え込んでいる様子だった。
「紗希、どうしたの?ぼーっとして。」
ピロンが心配そうに声をかける。
「これ……宝石……。嬉しいけど……本当に、これが……幸福、なのかな……?」
紗希の言葉に、ピロンは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「それは、紗希がこれから見つけるものだよ。宝石は形だけで、幸福そのものじゃないからね!」
「私の……幸福……」
紗希はピロンの言葉を繰り返しながら、宝石を胸に当てた。
その日の作業を終えた後、源蔵が紗希に話しかけた。
「紗希、お前さん、最近よく考え込んでるな。」
「え……そ、そう……ですか……?」
「この宝石のことだろう?村人の感謝や喜びを形にしたものだが、それが本当にお前の求めるものか、疑問に思ってるんじゃないか?」
源蔵の鋭い洞察に、紗希は小さく頷いた。自分の気持ちをうまく言葉にできず、俯いてしまう。
「誰しもそうだ。幸福ってのは簡単に答えが出るもんじゃない。だがな、お前が誰かのために努力したことで、こうして形になった。それがまず一つの答えだ。」
源蔵の言葉は紗希の胸に染み込んだ。自分が成し遂げたこと、それが誰かの喜びに繋がった事実。それを少しずつ受け入れ始める。
夜、紗希は家の中で宝石を並べて眺めていた。青、緑、薄紫、オレンジ――それぞれが彼女の努力と成長の軌跡を物語っている。
「私……これでいいのかな……」
そんな彼女の声に、ピロンが隣で小さく笑った。
「紗希は十分頑張ってるよ。でも、幸福ってね、一つだけじゃないんだ。それぞれの宝石が、いろんな幸福を教えてくれるんだと思うよ。」
ピロンはそう言って、青い宝石を指差した。
「これは、紗希が最初に一歩を踏み出した証。緑は、誰かと力を合わせた証。そして、オレンジは人々に喜んでもらえた証だね。」
紗希は頷きながら、改めてそれぞれの宝石を見つめた。
「私……もっと……見つけたい……。自分だけの……幸福を……」
次の日、紗希は源蔵に「もっと技術を磨きたい」と伝えた。彼女の目はいつになく輝いていた。
「いいだろう。次はお前に新しい挑戦をさせてやる。」
源蔵はにやりと笑い、どこか誇らしげな顔をした。
「次は何をするのか……楽しみだね!」ピロンが元気に飛び跳ねる。
こうして紗希は、また一つ新しい決意を胸に秘め、次の挑戦へと歩みを進めていく。異世界での生活はまだまだ続くが、彼女の胸には少しずつ灯っていく幸福の光が輝き始めていた。
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