第29話 祈りの扉

秋も深まり、涼しい風が神社の境内を吹き抜ける頃、神主が紗希と源蔵のもとに新たな依頼を持ち込んだ。


「拝殿の扉が長い年月を経て壊れ始めています。この扉は、祈りを捧げる人々と神様を繋ぐ大切なものです。修繕をお願いできますか?」


「拝殿の扉……祈りを繋ぐ……」


紗希はその言葉の重さに、少し緊張しながらもやる気をみなぎらせた。


「この扉はただ開け閉めするだけのものじゃない。人々の思いを受け止める象徴だ。お前の手で、また美しい扉に蘇らせてくれ。」源蔵がそう語る。


「わ、わかりました……頑張ります……!」


拝殿の扉は大きな木製で、細かな装飾が施されていた。しかし、部分的に割れていたり、模様が削れていたりして、かつての美しさが失われていた。


「まずは壊れた部分を修復する。それから装飾を直し、扉全体を磨き上げる。」源蔵が指示を出す。


紗希は慎重に作業を始めた。壊れた部分を取り外し、新しい木材で補修する工程は、これまでに学んだ技術を総動員する必要があった。


「この扉……たくさんの人が触れてきたんだね……」


「その通りだ。それがこの扉の意味でもある。」


紗希は扉に込められた人々の思いを感じ取りながら、細心の注意を払いながらノミを動かした。


次の工程は、扉に刻まれた装飾の修復だった。植物や動物をモチーフにした模様が細かく彫られていたが、長年の風雨で一部が削れていた。


「この模様……繋がっているんだね……」


「そうだ。この繋がりが、神様と人々の心を表している。だからこそ、丁寧に彫り直すんだ。」


紗希は細いノミを使い、削れた模様を一つひとつ彫り直していった。植物の葉の曲線や動物の躍動感を細やかに再現することで、扉が再び命を取り戻すようだった。


「紗希、すごい!模様がまた生き返ってるよ!」ピロンが嬉しそうに声を上げる。


「ありがとう……ピロン……もう少しで……完成……」


最後に、扉全体を磨き上げ、表面に新しい塗装を施す作業に取り掛かった。明るい朱色が木目を際立たせ、装飾をより一層美しく見せた。


「これで……扉も……また元気になる……」


「よくやった。これで人々が安心して拝殿に祈りを捧げられる。」源蔵が微笑んだ。


修繕を終えた扉が拝殿に取り付けられると、村人たちが集まった。その美しい扉を見て、歓声が上がる。


「なんて綺麗な扉だろう!これなら安心してお祈りできるね!」


「神様もきっと喜んでくださる!」


村人たちの笑顔に囲まれながら、紗希は自分の手で扉を蘇らせたことに誇りを感じた。


その夜、源蔵は紗希に深い赤色の宝石を手渡した。


「この宝石は『繋がり』を象徴するものだ。お前が修繕した扉は、人々と神様の心を繋ぐ役割を果たしている。」


紗希は宝石を両手で包み込み、静かに微笑んだ。


「私……もっと……人と神様を……繋げるものを作りたい……」


「その思いがあれば、お前はさらに成長できる。扉のように、強く、美しくな。」


紗希の胸にはまた一つ、新たな決意が芽生えた。こうして彼女は、祈りを繋ぐ扉を蘇らせ、宮大工としてさらなる一歩を踏み出したのだった。

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