第2話 神社のある風景
紗希はピロンに連れられて、初めて異世界の外に足を踏み出した。風が優しく吹き抜ける広い草原の中、小道がどこまでも続いている。遠くには、木々の中に佇む神社が見えた。
「ほら、あれが神社だよ。この世界には、ああいう建物がたくさんあるんだ。」
「神社……すごく……静か……」
紗希は目を細めながら、その神聖な雰囲気に圧倒された。日本の神社に似ているけれど、どこか異世界特有の装飾や建築が施されている。
「ここに住む人たちはね、この神社をとても大切にしてるんだ。でも、修繕する人が少なくて困ってるらしいよ。」
「修繕……?」
「そう、宮大工っていう仕事があるんだ。建物を修理したり、新しく作ったりする人のことだよ。」
紗希は「宮大工」という言葉にピンと来なかったが、ピロンの説明を聞くうちに少し興味を抱いた。
神社に近づくと、小柄で頑丈そうな老人が大きな木材を抱えながら作業をしていた。彼の名前は源蔵。この地域で唯一の宮大工だという。
「おや、珍しい客人だな。ピロン、それに……その服装の姉ちゃんは誰だ?」
「この人、椎名紗希!ちょっと変わった服だけど、悪いやつじゃないよ!」
「そうかそうか。それで、お前さんはここで何をしに来たんだ?」
紗希は吃音のせいでうまく答えられず、もじもじしてしまう。しかし、源蔵は柔らかな笑みを浮かべて彼女を見つめた。
「まぁいいさ。ここでは急ぐ必要なんてない。まずはゆっくり座って話をしよう。」
源蔵に勧められるまま、紗希は神社の縁側に腰を下ろした。彼女は少しずつ言葉を絞り出しながら、自分がこの世界に来たばかりで、何もわからないことを説明した。
「なるほど、訳ありってわけだな。だが、お前さん、目が真剣だ。この世界で何かを見つけたいと思ってる顔をしてる。」
紗希はその言葉に驚いた。自分でも気づいていなかった気持ちを言い当てられた気がした。
「よし、それなら一つ提案だ。俺の手伝いをしてみる気はあるか?宮大工の仕事をな。」
「え……私が……?」
「そうだ。技術は後からついてくる。大事なのは、やりたいと思う気持ちだ。」
紗希は一瞬迷った。しかし、この世界での目的もわからないまま、ただ流されるのではなく、何かを始めたいという思いが湧き上がった。
「や、やります……!」
「よし、それでいい!明日から俺の弟子ってことで決まりだな!」
こうして紗希は、宮大工見習いとしての第一歩を踏み出すことになった。彼女の心にはまだ不安が残っていたが、ピロンや源蔵の言葉に支えられ、少しずつ新しい世界での挑戦を受け入れ始めるのだった。
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