第3話 宮大工見習い、最初の一歩
翌朝、紗希は源蔵の作業場にやってきた。小さな工房には、整然と並ぶ木材や工具があり、木の香りが心地よく漂っている。紗希は見たことのない道具や材料に圧倒されながらも、なんだかワクワクするような気持ちを感じていた。
「おはよう、紗希。さっそくだが、今日は基礎中の基礎を教えてやる。」
源蔵は力強くそう言うと、分厚い木材を一本取り出した。
「これを見ろ。この木材が、神社を支える柱になる。だがそのまま使うわけにはいかん。形を整え、表面を滑らかにしてやらないと、役目を果たせないんだ。」
紗希はうなずきながら、源蔵が手本を見せる様子をじっと見つめた。大きなノミと木槌を使い、木材を少しずつ削っていく。音はリズミカルで心地よく、目の前の木が生き物のように形を変えていくのが不思議だった。
「さて、今度はお前の番だ。」
「わ、私が……?」
源蔵は紗希にノミと木槌を渡し、木材の前に立たせた。手にするのは初めての道具。緊張で手が震えた。
「力を入れすぎるな。木の声を聞くんだ。」
紗希は源蔵の言葉に従い、そっとノミを木材に当てて木槌を振り下ろした。しかし、力加減が難しく、思った通りには削れない。木の表面はデコボコになり、失敗だらけだった。
「ご、ごめんなさい……」
「失敗は誰にでもあるさ。だがな、木はお前を責めたりはしない。何度でもやり直せる。」
源蔵の優しい声に、紗希は少しだけ安心した。再びノミを手に取り、今度は力を抜いてゆっくりと削り始めた。すると、少しずつだが、表面が滑らかになっていく。
お昼になり、紗希と源蔵は神社の縁側で昼食を取った。紗希が作業の手を止めると、ピロンが嬉しそうに近寄ってきた。
「すごいじゃないか、紗希!最初にしては上出来だよ!」
「そ、そうかな……でも……まだ全然、ダメ……」
「上手か下手かじゃないさ。大事なのは、やる気と努力。それがあれば、この世界ではどんなことだってできるんだ。」
ピロンの言葉に、紗希はほんの少しだけ自信が湧いたような気がした。
午後の作業では、紗希は木の表面を磨く作業を任された。ヤスリを使い、滑らかな手触りに仕上げていく。繰り返すうちに、木材が少しずつ自分に応えてくれるような感覚を覚えた。
「いい感じだな、紗希。その調子でいけば、すぐにもっと難しい仕事も任せられるぞ。」
「はい……! 頑張ります……!」
源蔵の褒め言葉に、紗希は自然と笑顔になった。
夕方、作業を終えた紗希は、源蔵に挨拶をして帰ろうとした。そのとき、源蔵が小さな青い宝石を差し出した。
「今日の報酬だ。大事にしろよ。」
「これ……宝石……?」
「そうだ。この世界では、この宝石が幸福を呼ぶ。頑張った分だけ、少しずつ集めていくんだ。」
紗希は宝石を両手で受け取り、その美しい輝きに見入った。自分が何かを成し遂げた証のように思えた。
「ありがとう……ございます……!」
紗希の胸に、小さな達成感と喜びが芽生えた。宮大工見習いとしての一日目を終え、彼女は少しずつ、新しい自分を見つけ始めていた。
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