コスプレ少女、異世界で凄腕宮大工になる

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 家ごと異世界転生

昼下がりの静かな住宅街。彼女――名前は椎名紗希。吃音が原因で人付き合いが苦手な20歳の彼女は、自宅に引きこもる日々を送っていた。唯一の楽しみは、大好きなコスプレをして写真を撮ること。彼女の部屋には様々な衣装が並び、そのどれもが手作りだった。


「うまく……できた、かな……」


紗希は完成したばかりの新しい衣装を抱え、全身鏡に向かう。しかし、満足する暇もなく、家全体が突然揺れ始めた。


「な、なに!? 地震!?」


揺れはどんどん激しくなり、気づけば窓の外が白い光に包まれた。目を閉じ、耳をふさぐ紗希。しかし、次に目を開けたとき、彼女は信じられない光景を目にした。


目の前には、どこまでも広がる草原。その中にぽつんと立つ自分の家。そして、空には二つの太陽が輝いている。


「ここ……どこ……?」


茫然と立ち尽くす紗希。しかし、戸惑う彼女の耳に、小さな声が聞こえた。


「おやおや、珍しいものが現れたねぇ!」


声の方を振り返ると、そこにはコツメカワウソのような姿をした小さな妖精が立っていた。頭にちょこんと葉っぱを乗せ、キラキラと光る目で紗希を見上げている。


「ぼ、僕、ピロンっていうんだ!君、何者なの?」


「え……私……椎名……さ、紗希……」


吃音が出てしまい、うまく言葉にならない。しかし、ピロンは気にする様子もなく、興味津々な表情で彼女に近づいてきた。


「ふーん、紗希って言うんだね!その変な服……いや、素敵な服は何?これも普通じゃないなぁ!」


「こ、コスプレ……好き、で……」


「コスプレ?なんだそれ!」


ピロンは目を輝かせ、紗希の衣装を眺め回す。その姿に、紗希は少しだけ緊張がほぐれた。


数分後、ピロンからこの世界のことを教えてもらった紗希は、ここが自分のいた世界とは全く違う場所であることを知る。


「ここはね、神社やお寺がたくさんある世界なんだ。でも、不思議なことにお金が存在しないんだよ。みんなが助け合って暮らしてるのさ!」


「お、お金……ないの……?」


「そう!その代わりにね、仕事をすると宝石がもらえるんだ。それが少しずつ、君の『幸福』になるんだよ!」


紗希にはまだ理解できないことばかりだったが、不思議と心が落ち着いていた。ピロンの明るさに触れ、少しだけ前を向ける気がしたのだ。


「さあ、紗希!まずはこの世界を歩いてみよう!きっと君の力が必要な場所が見つかるはずだよ!」


こうして紗希は、家ごと異世界に転生した新しい人生を歩き始める。これが、彼女とピロン、そして異世界の人々との出会いの物語の始まりだった。

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