第27話 古い絵馬の記憶
秋の陽が柔らかく差し込む朝、神主が紗希と源蔵に新たな依頼を持ってきた。
「神社に保管されている古い絵馬が傷んでしまい、文字も消えかけています。これらを修繕し、新しい命を吹き込んでいただけますか?」
「絵馬……?」
「絵馬は、村人たちの願いや思いが込められた大切なものだ。これを修繕することで、過去と現在を繋ぐ役割を果たせる。」源蔵が補足した。
紗希は絵馬を修繕するという特別な仕事に、緊張しながらも興味を抱いた。
「わ、私……やります……!」
神主が保管していた絵馬は、何十年も前に奉納されたものだった。木の表面は色褪せ、彫られた文字や絵は風化していた。
「まずは木材の表面を綺麗に磨く。次に、文字や絵を修復していくんだ。」
源蔵の指示に従い、紗希は作業に取り掛かった。絵馬を手に取ると、手の中でわずかに温かさを感じた。
「これ……人の思いが……込められてる気がする……」
「そうだ。お前がその思いを蘇らせるんだ。」源蔵が静かに答えた。
最初の作業は、絵馬の表面を磨くことだった。紗希は慎重にやすりを動かし、傷んだ部分を取り除きながら、元の木目を蘇らせていった。
「木が……少しずつ……綺麗になっていく……」
「そうだ。それが第一歩だ。」
磨き終わった絵馬は、木の香りを取り戻し、かつての輝きを少しずつ取り戻していった。
次に、消えかけた文字や絵を修復する工程が始まった。紗希は細い筆を手に取り、かつて描かれていた絵や文字を慎重に塗り直した。
「これは……家族の健康を願った絵馬……」
「その思いを込めて、丁寧に仕上げるんだ。」
紗希は一つひとつの絵馬に込められた思いを想像しながら、筆を動かした。絵馬には、豊作や健康、家族の幸せなど、様々な願いが込められていた。
「これ……みんなの……大切な願いなんだね……」
「その通りだ。それを繋ぐのが、お前の役目だ。」源蔵の声に、紗希は力強く頷いた。
夕方、修繕を終えた絵馬は、再び神社の木に掛けられた。夕陽が差し込む中で、絵馬の絵や文字が光に照らされ、まるで命を取り戻したかのように見えた。
村人たちが集まり、絵馬を見上げて歓声を上げた。
「すごい……昔の絵馬がこんなに綺麗になるなんて!」
「これでまた、村の思いが神様に届く!」
村人たちの喜ぶ姿に、紗希の胸は温かさで満たされた。
その夜、源蔵は紗希に鮮やかな黄色の宝石を手渡した。
「この宝石は『願い』を象徴するものだ。お前が修繕した絵馬は、村人たちの願いを未来へと繋いだ。」
紗希はその宝石をじっと見つめ、静かに微笑んだ。
「私……人の願いを……守れる宮大工になりたい……」
「その思いを持ち続ければ、お前はもっと成長できる。」
紗希はまた一つ、宮大工としての大切な仕事を果たし、新たな目標を胸に刻んだ。こうして彼女は、古い絵馬の修繕を通じて、人々の願いを未来へと繋いでいく力を磨いていくのだった。
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