第26話 奉納舞台の復興
秋風が吹き始める頃、神主が紗希と源蔵のもとに新たな依頼を持ち込んだ。
「神社の奉納舞台が朽ちてしまい、長い間使われていません。次の収穫祭で再びこの舞台を使いたいのです。修繕をお願いできますか?」
「奉納舞台……?」
「この舞台は、村人たちが収穫の喜びを神様に伝えるためのものだ。舞や歌を捧げる、大切な場だぞ。」源蔵が説明する。
紗希はその言葉に胸を打たれた。村の人々の感謝と喜びが詰まった舞台を蘇らせることが、自分の手でできるのだと思うと、少し誇らしい気持ちになった。
「わ、私……やります……!」
奉納舞台は、神社の境内の片隅にひっそりと佇んでいた。柱や床板は腐食し、一部は崩れ落ちている。装飾も色褪せていて、往時の華やかさは感じられなかった。
「まずは舞台の基礎を確認する。ここがしっかりしていないと、どんなに修繕しても長持ちしない。」
源蔵の指示に従い、紗希は基礎部分を調べる作業から始めた。腐った柱や崩れた土台を一つひとつ取り除き、新しい材料を用意した。
土台を整えた後、舞台の柱を新しく立て直す作業に入った。紗希は以前山で切り出した木材を使い、柱を加工していく。
「柱は舞台を支える命だ。一番大切な部分だと思え。」源蔵の言葉に、紗希は慎重にノミを動かした。
「これで……支えられるかな……?」
「いい柱だ。お前の手で、この舞台はもう一度立ち上がる。」
次に、舞台の床板を張る工程が始まった。紗希は木目を揃えながら一枚ずつ床板を配置し、隙間ができないように丁寧に調整した。
「紗希、この舞台で村人たちが舞い踊る姿を想像してみろ。そうすればもっと良い仕事ができる。」
源蔵の助言に、紗希は目を閉じてイメージを膨らませた。村人たちが笑顔で舞い踊る光景を思い描きながら、さらに集中して作業を進めた。
最後の仕上げは、舞台の装飾だった。色褪せた彫刻を一つひとつ新しいものに取り替え、彩りを加える。紗希は花や葉のモチーフを彫り込み、舞台全体が華やかに見えるよう工夫した。
「これで……いいかな……?」
「完璧だ。お前が彫った装飾が、この舞台をさらに輝かせている。」
源蔵の言葉に、紗希は少しだけ自信を持てた。
収穫祭の日、修繕された奉納舞台に村人たちが集まった。明るい色に塗り直され、輝きを取り戻した舞台の上で、子どもたちや大人たちが楽しそうに舞い踊る。
「素晴らしい舞台だ!これなら神様もきっと喜んでくださる!」
「紗希さん、本当にありがとう!またこうしてみんなで踊れるなんて!」
村人たちの感謝の声を聞きながら、紗希は胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
その夜、源蔵は紗希に鮮やかなオレンジ色の宝石を手渡した。
「この宝石は『喜び』を象徴するものだ。お前が作り上げた舞台で、村人たちの喜びが形になった。」
紗希はその宝石をじっと見つめ、静かに微笑んだ。
「私……この舞台が……村の喜びを支えてくれるのが……嬉しい……」
「それでいい。お前が作ったものが、人々を繋ぎ、喜びを広げている。それが宮大工としての最高の仕事だ。」
紗希はまた一つ、宮大工としての自信を深め、新たな目標に向けて歩み始めた。こうして彼女は、奉納舞台を蘇らせ、宮大工としてさらに成長していくのだった。
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