第14話 古い木材に宿る記憶
ある日の朝、源蔵が作業場で大きな古い木材を紗希の前に置いた。その木材は黒ずみ、傷が無数に刻まれており、一見使えそうにないように見えた。
「今日はこの木材を修復して、再び神社の一部として蘇らせる仕事だ。」
「こ、これ……まだ使えるの……?」
紗希は木材を見つめながら尋ねた。
「使えるさ。この木材には長い歴史と人々の思いが刻まれている。それを無駄にするわけにはいかん。お前の手で、その記憶を引き出してやれ。」
源蔵の言葉は重く、紗希は自分にできるだろうかと不安を感じたが、深く頷いた。
「や、やります……!」
作業が始まった。紗希は木材を慎重に観察しながら、どの部分が修復可能で、どの部分を取り替えるべきかを判断する。
「まずは表面の汚れを落とし、傷を目立たなくすることから始めよう。」
源蔵の指示に従い、紗希は紙やすりで木材の表面を丁寧に磨き始めた。木の香りがほんのりと漂い始め、少しずつその本来の美しさが姿を現していく。
「木の中にはまだ生きている部分があるよ、紗希!」とピロンが励ます。
「うん……この木……まだ頑張ってる……」
紗希は手を動かしながら、木が何十年も神社を支えてきたことを想像した。人々の祈りや感謝が、この木材に宿っているような気がした。
昼頃、紗希は木材の傷ついた部分を補修するため、新しい木材を切り出して埋め込む作業に取り掛かった。新しい木と古い木を繋ぎ合わせるのは簡単ではなかったが、源蔵が横でアドバイスをくれたおかげで、少しずつ形が整っていく。
「この部分を少しだけ削れば、ぴったりはまるぞ。」
「わ、わかりました……」
紗希は慎重にノミを動かし、少しずつ木材を削った。やがて、新旧の木材がぴったりと合わさり、一枚の板のように見えるまでになった。
「いいぞ、その調子だ。」
源蔵の声に、紗希は小さく微笑んだ。
夕方、修復を終えた木材は、黒ずみが取れ、新しい命を吹き込まれたかのように輝いていた。
「見事だな。これでまた何十年と神社を支えられるだろう。」
源蔵が木材を確認しながらそう言うと、紗希は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「この木材……また……役に立つんだね……」
「そうだ。この木には記憶がある。そしてその記憶を未来に繋ぐのが、俺たち宮大工の仕事だ。」
その晩、源蔵は紗希に茶色がかった黄金色の宝石を手渡した。
「この宝石は、過去と未来を繋げた者に贈られるものだ。今日の仕事は、ただの修復じゃない。この木材に刻まれた時間を蘇らせたんだ。」
紗希はその宝石を手に取り、静かに微笑んだ。自分がただ技術を学んでいるだけでなく、人々や自然、そして歴史に寄り添う仕事をしていることを実感した。
「私……もっと……木の声を……聞きたい……」
そのつぶやきは、紗希の中に新たな目標を芽生えさせた。こうして彼女は、また一歩、宮大工としての道を歩み続けるのだった。
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