第13話 風の通り道

祈りの木を植えた翌日、紗希は作業場で次の作業の準備をしていた。そんなとき、源蔵がふらりとやってきて言った。


「紗希、今日は『風の通り道』を整備する仕事だ。」


「風の通り道……?」


紗希は聞き慣れない言葉に首をかしげた。


「この神社の周囲には、風を通すための特別な小道があるんだ。それが自然と神社を繋ぐ役割を果たしている。ただ、長い間手入れをされていなくてな……荒れ果ててしまっている。」


源蔵は少し寂しそうに話した。


「その小道を整備して、また風が通り抜ける道を蘇らせるのがお前の仕事だ。」


紗希は源蔵と一緒に小道へ向かった。そこは木々に囲まれ、静寂に包まれた神秘的な場所だった。しかし、地面は落ち葉や枯れ枝で埋まり、草が生い茂っていた。


「ここが風の通り道……?」


「そうだ。かつては風が気持ちよく通り抜け、訪れる人々を癒していた。しかし今は、自然の力で塞がれてしまっている。」


源蔵は道具を取り出し、整備の手順を説明した。


「まずは地面を掃き、不要な草を取り除く。それから、石畳を並べ直して道を整えるんだ。簡単な作業じゃないが、地味に大切な仕事だ。」


紗希は作業を始めた。ほうきを使って地面を掃き、絡みついた蔓や根を丁寧に取り除く。風が通り抜けるたびに、木々が優しくざわめいた。


「この道……本当に風が通るのかな……?」


「もちろんだよ!」ピロンが嬉しそうに答えた。


「風の通り道はね、この世界と自然を繋ぐ大切な場所なんだ。紗希が整えることで、また風が自由に流れるようになるよ!」


紗希はピロンの言葉に勇気づけられながら、少しずつ作業を進めた。


午後になると、道の石畳を並べ直す作業に取り掛かった。石は重く、不規則な形状のものも多かったため、紗希の体力を試される作業だった。


「石が……うまく……はまらない……」


紗希は汗を拭いながら、小さな声でつぶやいた。


「焦らないで、石の形を見て、どの位置が合うか考えればいいよ!」ピロンがアドバイスを送る。


紗希はその言葉に従い、石を一つひとつ丁寧に配置していった。少しずつ石畳が整い、道の形が見えてくると、不思議と風の流れが滑らかになっていくのを感じた。


「風が……通り始めてる……?」


木々のざわめきが心地よいリズムを奏でるように響く。紗希はその音に、自然の力を感じ取った。


夕方、すべての作業を終えた紗希は、源蔵と一緒に整備を終えた道を歩いた。そこには、穏やかな風が流れ、草木が静かに揺れていた。


「見事だ。風が戻ってきたな。」


源蔵は満足そうに笑い、紗希の肩を軽く叩いた。


「この道が息を吹き返したのは、お前のおかげだ。いい仕事をしたな。」


紗希はその言葉に小さく頷き、少しだけ自信が湧いた。


その夜、源蔵は淡い青緑色の宝石を紗希に手渡した。


「この宝石は、自然と調和したときに得られるものだ。お前がこの道を整えたことで、風と自然がまた生き生きとし始めた証だ。」


紗希はその宝石を手に、胸の中で何かが暖かく広がるのを感じた。


「私……風と……自然の力……少し……わかった気がする……」


「それでいい。その感覚が職人には一番大切だ。」


こうして紗希は、また一つ新しい経験を積み重ね、異世界での暮らしの中にさらなる成長の光を見出していくのだった。

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