第12話 祈りの木

新しい鳥居を完成させてから数日。村の神主から、紗希に直接依頼が届いた。


「紗希さん、この神社に新しい『祈りの木』を植える計画を手伝ってほしいのです。」


「祈りの木……?」


紗希は初めて耳にする言葉に首を傾げた。


「この木は、村人たちが願い事を書いた札を結ぶために使う特別な木です。この神社にとっても、村にとっても、とても大切な存在になるのです。」


「わ、私に……できるかな……?」


「もちろんです。紗希さんなら心を込めて作業してくれるでしょう。」


神主の温かい笑顔に、紗希は小さく頷いた。


翌朝、紗希は源蔵と共に作業を開始した。祈りの木を植えるためには、まず根を支えるための特別な台座を木材で作る必要があった。その木材は、神社の裏山から切り出した特別なものだ。


「この木材は丈夫で、長い年月を支える力がある。この台座がしっかりしていないと、どんなに立派な木を植えても倒れてしまう。」


源蔵の言葉に、紗希は改めて作業の重要性を感じた。


「わかりました……頑張ります……!」


台座の製作は思ったよりも複雑だった。木材を正確な角度で切り出し、組み合わせる作業は、紗希にとって大きな挑戦だった。木の性質を考えながら、ノミやカンナを使って少しずつ形を整えていく。


「うん、いい感じだよ、紗希!落ち着いてやれば、必ずできる!」ピロンが励ましの言葉を投げかける。


「ありがとう……ピロン……」


汗だくになりながらも、紗希は作業を続けた。何度も失敗し、やり直す場面もあったが、少しずつ台座の形が整っていく。


夕方、ようやく台座が完成した。源蔵が慎重にそれを確認すると、満足げに頷いた。


「よくやった。これならどんな木でもしっかり支えられる。お前が作り上げた台座だ。」


「ほ、本当に……これでいいのかな……」


「十分だ。お前が心を込めて作業したことが一番大切だ。」


源蔵の言葉に、紗希は胸の中に小さな達成感を覚えた。


翌日、台座を神社に運び、祈りの木を植える準備が整った。村人たちが集まり、新しい木の植樹を見守る。


「この木が村と神社を見守り続けるように。」


神主の祈りの言葉とともに、木が台座にしっかりと固定された。村人たちの願い札が少しずつ枝に結ばれていく光景を見つめながら、紗希は自分の手がこの村の一部になれた気がした。


その夜、源蔵は紗希に薄黄色の宝石を手渡した。


「この宝石は、安らぎと調和を象徴するものだ。お前の作業が村人たちの心を繋げた証だな。」


紗希はその宝石をじっと見つめた。自分がこの世界で人々の暮らしに役立っている実感が、心の中で確かな光となっていく。


「私……もっと……頑張りたい……」


小さなつぶやきは、彼女自身の決意となり、新たな成長への一歩となった。こうして紗希は、また一つ大切な経験を積み重ねていくのだった。

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