第15話 灯籠の光
ある日の朝、源蔵が大きな木箱を抱えて作業場に現れた。その箱には、美しい細工が施された木製の部品が詰まっていた。
「紗希、今日はこの灯籠(とうろう)を修繕するぞ。この神社の参道を照らす大切なものだ。」
「灯籠……?」
紗希は初めて見るその部品に目を奪われた。木製の枠には、細かく彫られた花や葉の模様があり、長い年月を経た傷や汚れがその歴史を物語っていた。
「これも古いものだが、今のままでは風雨に耐えられない。新しい部品を作り直し、再び光を灯せるようにするんだ。」
源蔵の言葉に、紗希は緊張しながらもわずかに頷いた。
「わ、わかりました……頑張ります……」
作業が始まった。まずは灯籠の壊れた部分を慎重に取り外す作業だ。紗希は木槌とノミを使い、崩れかけた細工を一つひとつ外していった。
「紗希、力を入れすぎると割れてしまうぞ。優しくな、木の声を聞け。」
源蔵の指導に従い、紗希は慎重に作業を進めた。細かい装飾を外す作業は集中力を要し、額に汗が滲んだが、少しずつ古い部品が取り除かれていく。
昼頃、新しい部品を作る工程に入った。紗希は新しい木材を使い、灯籠の装飾を再現するための彫刻を始めた。
「細かい模様だな……これ、本当に……できるのかな……」
不安げな紗希の隣で、ピロンが明るく声をかけた。
「大丈夫だよ!紗希なら絶対できる!ゆっくりでいいからね!」
紗希はピロンの励ましに応え、ノミを慎重に動かした。花びらや葉の形を少しずつ掘り進めるたびに、自分の手が木と対話しているような感覚を覚えた。
源蔵は時折様子を見ながら、的確なアドバイスをくれる。
「線が太すぎると重たく見える。少しだけ軽やかさを意識しろ。」
「はい……!」
紗希は何度も修正しながら、模様に繊細さを加えていった。
夕方、修復を終えた灯籠は、元の形を取り戻していた。新しい部品と古い部品が一体となり、まるで初めから一つだったかのような仕上がりだった。
「これでまた、この灯籠は参道を照らすだろう。」
源蔵がそう言って、灯籠を慎重に設置すると、村人たちが集まってきた。
「わあ、綺麗だね!またこの灯籠の光を見られるなんて!」
「紗希さん、本当にありがとう!」
村人たちの感謝の言葉に、紗希は恥ずかしそうに微笑んだ。灯籠が参道に設置されると、夕闇が迫る中で優しい光が道を照らした。
その夜、源蔵は紗希に黄金色に輝く宝石を手渡した。
「この宝石は『光』を象徴するものだ。お前の手で、この灯籠に再び光が灯った。それは人々の心を照らす光でもある。」
紗希はその宝石をじっと見つめた。自分がこの光の一部になれたことに胸がじんわりと温かくなった。
「私……この光……守りたい……」
紗希のつぶやきに、ピロンがにっこりと笑った。
「紗希ならきっとできるよ!また次の光を作ろう!」
こうして紗希は、灯籠に灯った光と共に、次の挑戦へと一歩を踏み出したのだった。
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