第22話 祈りの鐘
朝の神社は涼やかな風に包まれていた。そんな中、神主が紗希と源蔵のもとに新たな依頼を持ってきた。
「長年使われてきた神社の鐘が、音を失いかけています。この鐘を修繕して、再び美しい音色を響かせられるようにしていただけますか?」
「神社の鐘……音を失う……?」紗希は神主の言葉に驚き、鐘を見に行った。
拝殿の奥に吊るされた大きな鐘は、錆びつき、表面に傷がついているのが見て取れた。試しに叩いてみると、かつての澄んだ音ではなく、鈍い音しか響かなかった。
「この鐘は、村人たちが祈りを込める大切な存在だ。この音が再び響くことで、村に安らぎが戻る。」源蔵が神主の言葉を補足した。
紗希はその言葉に深く頷いた。
「わ、私……やります……!」
作業は鐘を慎重に取り外すところから始まった。鐘の重量があるため、紗希は村人たちと協力してゆっくりと地面に降ろした。
「よし、次は表面の錆を落とす作業だ。」源蔵が手順を説明する。
紗希はやすりを使って、鐘の表面を丁寧に磨き始めた。錆を落とすたびに、金属本来の輝きが少しずつ戻ってきた。
「紗希、すごい!鐘がまた息を吹き返してるみたいだよ!」ピロンが声を弾ませる。
「まだ……終わってない……。もっと……綺麗に……」
錆が取り除かれた後、鐘の表面にある傷を修復する作業が始まった。紗希は細かな道具を使い、傷を埋め、音の響きを妨げないように慎重に調整した。
「この鐘の形と厚みが音色を決める。少しの違いで音が変わるから、気をつけろ。」源蔵の言葉に、紗希は真剣な表情で作業を進めた。
やがて傷が滑らかに整えられ、鐘はかつての美しい姿を取り戻した。
修繕を終えた鐘を再び吊るすため、村人たちが集まった。紗希と源蔵は慎重に鐘を吊り上げ、元の場所に戻した。
「これで……大丈夫……かな……?」
「試してみよう。鐘を鳴らしてみるんだ。」源蔵が促した。
紗希は少し緊張しながら鐘を叩いた。すると、澄んだ音色が神社全体に響き渡った。それは風に乗り、村中に広がるようだった。
「素晴らしい音だ……!」
村人たちが手を叩き、歓声を上げた。その鐘の音は、まるで村全体を包み込むように響き、安らぎと祈りを届けていた。
その夜、源蔵は紗希に銀色に輝く宝石を手渡した。
「この宝石は『響き』を象徴するものだ。お前が修繕した鐘の音色が、人々の心に届いた証だ。」
紗希はその宝石をじっと見つめ、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
「私……この鐘の音……守りたい……。ずっと……響かせたい……」
「それでいい。その音色は、お前が込めた心と技術の結晶だ。」
紗希はその言葉を胸に刻み、また新たな目標に向けて歩み始めた。こうして彼女は、祈りの鐘を蘇らせ、宮大工としてさらに成長を遂げていくのだった。
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